技能実習生が失踪する理由とは?企業が取るべき対策を解説

2021年11月12日
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濵川恭一 (監修)
外国人専門の人材ビジネス会社勤務を経て、外国人のビザ専門行政書士事務所を設立。専門分野は、就労ビザ申請、外国人採用コンサルティング。著書に、「これ1冊でまるわかり!必ず成功する外国人雇用」、「実務家のための100の実践事例でわかる入管手続き」等がある。 http://svisa.net

「技能実習生を受け入れたいけれど失踪が怖い…」と悩む企業の方もいるでしょう。失踪する要因には、企業側の労働環境の問題や技能実習生のの精神的な問題などがあります。このコラムでは、失踪をしてしまう具体的な原因や、失踪をした場合に企業が取るべき行動について解説。また、技能実習生の失踪を防ぐために企業が取れる対策についても紹介しているので、参考にしてください。

 

目次

  1. 技能実習生の失踪の実情
  2. 技能実習生が失踪する主な要因
  3. 技能実習生の失踪後に企業が取る行動
  4. 技能実習生が失踪しないよう、企業がとるべき対策
  5. まとめ

技能実習生の失踪の実情

法務省の「技能実習制度における失踪問題への対応について」の資料によると、毎年技能実習生の約2%が失踪をしています。2018年には、前年末の在留技能実習生と当年に新規入国した技能実習生の合計人数に当たる、約42万人のうち、約9千人が失踪している状況です。賃金等の不払いや、実習を行う側の不適正な扱いなどが失踪の原因だと考えられます。ほかにも、技能実習生側の経済的な問題もあるようです。

参照元
法務省 出入国在留管理庁
技能実習制度における失踪問題への対応について

技能実習生が失踪する主な要因

技能実習生の失踪には、企業側に要因がある場合と、技能実習生側に要因がある場合があります。それぞれについて解説するので参考にしてください。

企業側の問題

技能実習生が失踪する大きな要因の一つに、企業側の賃金や労働環境の問題があります。

賃金が安い

厚生労働省の発表した「令和2年賃金構造基本統計調査結果の概況」によると、技能実習生の平均賃金は約16万1千円です。多くの技能実習生は、母国の経済面が苦しいため仕送りを行います。その結果、手元に残る金額が少なくなり、より稼げる仕事がないか考え失踪してしまうのです。また、悪質ブローカーが「もっと高い給与を得られる仕事がある」とSNS等で技能実習生に近づき失踪を促すケースもあります。そのようなブローカーが紹介する仕事は、違法なものがほとんどです。しかし、勤務先の賃金が安いと、悪質ブローカーを頼っててしまう技能実習生が多くいます。

参照元
厚生労働省
令和2年賃金構造基本統計調査 結果の概況

労働環境が整っていない

企業による規定を超えた労働時間や、休日の少なさなどに技能実習生が耐え切れず失踪してしまう場合があります。これは、企業側が技能実習生を「安く雇用できる労働力」と勘違いしていることが原因です。また、技能実習生に対する暴力やパワハラともいえる厳しい指導も問題視されています。日本での労働を通し勉強をしたい人や、母国の経済状況が厳しく日本で稼ぎたい人にとって、このような劣悪な環境は耐え切れず失踪を考えてしまうのでしょう。

悩みを抱えても日本語で相談できない

技能実習生は、日本語の理解力が未熟な人も多く、労働環境や人間関係で悩みを抱えても日本語で相談しにくい状況です。技能実習生同士で悩みを相談できると良いですが、そのような仲間がいない人もいるでしょう。企業側が技能実習生の精神的な不安や悩みに目を向けなければ、労働環境や人間関係のストレスを一人で抱えてしまいます。その結果、失踪を考えてしまう技能実習生が多く存在するのです。

技能実習生側の問題

企業側だけでなく技能実習生側にも、実習後の不安や借金を抱えて帰国できないなどの、失踪に繋がる問題があります。

日本の生活に馴染めない

技能実習生は母国から離れ慣れない環境で働くため、日本の生活に馴染めないと悩んでしまう場合があります。日本で働きたい気持ちがあっても、理想と現実がかけ離れていたり頼れる人がいなかったりすると、不安が大きくなり母国へ戻りたいと思ってしまう技能実習生もいるようです。その結果、長期休暇で一時帰国をした際に日本に戻りたくないと思い、そのまま帰ってこなくなるケースがあります。

実習後も日本で働きたい

技能実習生は、日本での在留期間が決まっており、期間が過ぎると帰国しなければなりません。しかし、賃金水準の低い母国ではなく日本で働き続けたいと思う技能実習生もいます。そのため、在留期間が過ぎる前に失踪をしてほかの場所で働き、十分な収入を得てから出入国在留管理局に出頭し母国へ帰る計画を立てる技能実習生もいるのが現状です。

多額の借金を抱えて来日しているため帰国できない

技能実習生は、母国の送り出し機関へ多くの金銭を支払い、日本に技能実習に来ている人も多くいます。必要な金銭は借金をして工面しているため、技能実習が終了しても母国に帰るわけにはいかず、失踪して日本で働き続ける道を選ぶ技能実習が後を絶ちません。技能実習から失踪すると外国人は在留資格を失います。不法滞在者として働ける仕事は違法だったり危険が伴ったりする仕事が中心です。それでも技能実習生が日本に残るのを希望するのは、やはり多額の借金が影響しているでしょう。

技能実習生の失踪後に企業が取る行動

技能実習生が失踪した場合、企業は監理団体への報告や警察への相談をする必要があります。企業が取るべき行動について解説するので、参考にしてください。

監理団体に失踪した旨を伝える

まずは、企業側が技能実習生と企業を繋ぐ監理団体へ失踪した旨を報告します。技能実習生が失踪したら、企業だけで処理せず、監理団体の指示を受け行動するのが大切です。また、失踪した技能実習生の同僚から、なにか知っている情報はないか話を聞き出しましょう。

事件の可能性を考え警察に相談する

技能実習生の失踪は、本人の意思と関係なく事件に巻き込まれている可能性も考えられます。そのため、警察への相談も欠かせません。とくに、家の荷物を持って出ていった形跡がない場合は要注意です。万が一の事態を考え、早めに警察に相談する必要があります。

退職手続きを行う

技能実習生が失踪をしてから30日を経過したあと、雇用保険と社会保険の資格喪失手続きを行います。しかし、退職手続きを行うためには、就業規則の退職事項に「本人と連絡が取れないまま勤務の意思が確認できず30日を経過したとき」という定めが必要です。もし、定めがない場合は就業規則の改正をしなくてはなりません。

給料の支払いをする

企業は、技能実習生が失踪をしても勤務時間分の給料を支払う義務があります。なお、給料は技能実習生本人にしか支給できません。給与を現金で渡している企業は、本人がいつ給与を受け取りに来ても渡せるように、用意をしておきます。また、口座振り込みをしている場合は、通常通り支払いを行いましょう。

技能実習生が失踪しないよう、企業がとるべき対策

技能実習生の失踪を防ぐために、企業が技能実習生の気持ちに寄り添ったり、労働環境を見直したりするのが大切です。ここでは、企業がとるべき対策について解説します。

事前に労働条件の詳細を説明する

「聞いていた内容と勤務内容が異なる」と技能実習生を落胆させないために、企業が面接時に労働条件の詳細を正確に説明する必要があります。給与や待遇、業務内容などを具体的に説明し実際の勤務内容と相違がなければ、技能実習生が失踪するリスクを防げるでしょう。特に給与については注意が必要です。例えば、面接時には、残業込みの見込給与を伝えていたけれど、実際に残業が少ない場合、技能実習生は不満を持つことがあります。

技能実習生とのコミュニケーションを大切にする

企業が技能実習生と積極的にコミュニケーションを取ると、失踪するリスクを軽減できる場合があります。技能実習生は、慣れない環境で相談できる相手もおらず不安を抱えているでしょう。企業が技能実習生を気遣い、こまめに相談に乗り力になれることがないか聞くだけでも、安心感を与えられます。また、日本の生活や文化などについても教えると、より技能実習生が相談しやすくなるでしょう。教える際は、技能実習生側の気持ちに寄り添うのが大切です。

労働時間や賃金を見直す

事前に契約した内容と勤務内容に相違がある場合や、労働時間や賃金に問題がある場合はすぐに見直し改善しなくてはなりません。企業が技能実習生を「安く雇用できる労働力」と勘違いし不当な扱いをすると、失踪する実習生は増え続けるでしょう。また、雇用する企業に問題がある場合は、企業側が罰せられます。改めて、労働環境を見直し技能実習生の失踪を防ぎましょう。

多額の借金を抱えている技能実習生を採用しない

技能実習生の失踪を防ぐために、企業側が借金額の多い人を採用しないという方法もあります。多くの場合、技能実習生は30~60万円相当の借金を抱えています。来日前に、日本語習得費用などがかかるからです。もし、これ以上の借金を抱えている場合、特に注意が必要です。多額の借金を抱えている人は、より高い給与がもらえる仕事を探すために失踪する可能性が高いからです。企業側が事前に具体的な給与額を提示するのはもちろん、技能実習生がどの程度の借金を抱えているのかを確認しておきましょう。

まとめ

技能実習生は、企業側の労働環境の問題や身近に相談できる人がいないなどの理由で、失踪をしてしまうケースが多いようです。もし、技能実習生が失踪してしまった場合には、すぐに監理団体に報告する必要があります。また、失踪を防ぐために技能実習生とのコミュニケーションや労働条件の見直しをしっかり行いましょう。