技能実習制度に違反する企業の現状は?ペナルティや対応策についても解説

2020年10月13日
佐藤安弘 (監修)
ワイエス行政書士・社会保険労務士事務所
行政書士・特定社会保険労務士。在留資格の更新・変更申請業務の他、労務に関するコンサルティング業務に従事。都内専門学校にて、外国人留学生への講師業務もしており、会社・労働者双方の事情に詳しい。 https://www.ys-sr-office.com/

最近では、技能実習制度の利用で労働基準関係法令に違反する企業の割合は70%程度に推移しています。直近のデータを見ると前年度比でわずかに減少していますが、依然として違反事例が存在する状況です。その一方で、技能実習制度を利用する企業に不正行為が認められる件数は減少傾向にあります。

技能実習制度を利用する企業に労働基準関係法令違反や不正行為があったと認められれば、ペナルティが課せられるので要注意です。この記事では、技能実習制度に違反する企業の現状・ペナルティ・違反を未然に防ぐための対応策を解説します。

技能実習制度を利用する企業における労働基準関係法令違反の現状 

厚生労働省は「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成30年)」の中で、2018年に監督指導を行った7,334件の実習実施者のうち、5,160件(70.4%)に労働基準関係法令違反が認められたことを報告しています(※)。

前年の2017年には、5,966件の監督指導実施事業場数のうち4,226件に労働基準関係法令違反が認められており、比較すると0.4%のわずかな減少が見られました(※)。また、4年前にあたる2014年の割合(76.0%)と比較すると、5.6%減少しています。但し、監督指導実施事業場数自体は増加しており、それに伴い違反事業場数そのものは増加しています。

このように労働基準関係法令違反が認められる実習実施者の割合は減少傾向にあるうえに、上記データには日本人労働者に関する違反件数も含まれる点も考慮すべきです。とはいえ、外国人技能実習者を取り巻く労働環境の劣悪さは依然として問題視されています。

参照:厚生労働省「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成30年)」

・技能実習制度を利用する企業に見られる主な違反事項 

厚生労働省は「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成30年)」の中で、2018年に技能実習制度を利用する企業で見られた違反事項の内容・件数を報告しています。ここでは、その中でも多く報告された上位5つの違反事項について、件数・割合とともにまとめました。

  • 労働時間(1,711件、23.3%)

  • 安全基準(1,670件、22.8%)

  • 割増賃金の支払(1,083件、14.8%)

  • 就業規則(596件、8.1%)

  • 衛生基準(556件、7.6%)

労働時間に関する違反としては、「技能実習生が夜遅くまで働いているとの匿名情報をもとに午後9時以降に縫製業の事業場へ立入調査を実施すると、実際にその時間まで技能実習生を労働させていた」という事例が紹介されています。

また、割増賃金の支払に関する違反としては、「1時間当たり500円のみしか支払われていなかった」といった事例が代表的です。

参照:厚生労働省「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(平成30年)」

技能実習制度を利用する企業における不正行為の現状 

法務省作成の「平成30年の「不正行為」について」によると、2018年に不正行為が行われたと通知された外国人実習生の受入れ機関は112件でした(※)。前年である2017年のデータを見ると213件であったと報告されており、前年比で47.4%減少したうえに2015年以降は3年連続で減少傾向にあります。

ただし、2018年のデータについては、2017年に施行された「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」の施行前である旧制度の基準において報告された数です。現制度のもとでは、現状が多少異なる点に注意する必要があります。

参照:法務省出入国在留管理庁「平成30年の「不正行為」について」

・技能実習制度を利用する企業に見られる主な不正行為 

法務省は「平成30年の「不正行為」について」の中で、2018年に外国人実習生の受入れ機関に通知した不正行為の内容・件数を報告しています。ここでは、その中でも特に多く通知された上位5つの不正行為を、件数とともにまとめました。

  • 賃金等の不払(82件)

  • 偽変造文書等の行使・提供(38件)

  • 保証金の徴収等(16件)

  • 労働関係法令違反(12件)

  • 監理団体における「不正行為等の報告不履行」・「監査、相談体制構築等の不履行」および、不法就労者の雇用等(各6件)

「賃金等の不払」に関する不正行為としては、「縫製業を営む実習実施機関2社が、技能実習生合計16名に対して、およそ1年8か月間にわたって時間外労働に対する賃金を時給200~500円に設定していたことが判明し、不払総額は2社16名分の合計でおよそ1,277万円に達した」という事例が紹介されています。

参照:法務省出入国在留管理庁「平成30年の「不正行為」について」p3より
法務省出入国在留管理庁「平成30年の「不正行為」について」p8より

労働基準関係法令違反や不正行為に対するペナルティ

技能実習制度を利用する企業に労働基準関係法令違反や不正行為があったと認められれば、ペナルティが課せられます。ここでは、「労働基準関係法令違反」と「不正行為」ごとに、各違反行為に対して課せられるペナルティの内容をまとめました。

・労働基準関係法令違反に対するペナルティ 

労働基準関係法令に違反する実習実施者の多くは、まず労働局および労働基準監督署などの労働基準監督機関から監督指導を受けます。これにより、労働基準関係法令違反の行為が是正されれば、それ以上のペナルティは課せられません。

ただし、監督指導を受けても法令違反行為を是正しなかったり、重大・悪質な労働基準関係法令違反が認められたりする事案については、労働基準監督機関により送検されます。

・不正行為に対するペナルティ 

法務省は「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」の中で、不正行為に対するペナルティとして以下の3つを規定しています。

  1. 新規技能実習生の受入れ停止

  2. 在留する技能実習生に対する措置

  3. 改善措置の提出

不正行為を通知された受入れ機関は、技能実習生の受入れが一定期間停止されます。それぞれの不正行為の重大性・悪質性に応じて、1年・3年・5年のいずれかの停止期間が適用される仕組みです。

また、在留する技能実習生に対しても責任を負います。技能実習生本人に不正行為の責任がなく技能実習の継続を希望していて、適正な技能実習を実施する体制を有していると認められる他の機関に受入れられる場合には、引き続き在留が認められます。

そのため、不正行為を通知された受入れ機関としては、その旨を地方入国管理局に申し出るだけでなく、関係機関の協力・指導などを受けつつ、新たな監理団体・実習実施機関を探さなければなりません。

その一方で、技能実習生本人にも責任がある場合や、たとえ責任がなくても適正な技能実習を実施する体制を有していると認められる他の機関に雇用されなかった場合、技能実習生は帰国します。したがって、不正行為を通知された受入れ機関としては、技能実習生の帰国に責任を持つだけでなく、帰国後には地方入国管理局に対して報告しなければなりません。

さらに、不正行為があった後に新たな技能実習生を受入れたい場合には、受入れ停止期間の経過後に改善策を提出する必要があります。

参照:法務省入国管理局(現出入国在留管理庁)技能実習生の入国・在留管理に関する指針P.43~44

企業が技能実習制度を適切に利用するための対応策

企業が技能実習制度を適切に利用するには、以下の対応策の実施が効果的です。

  1. 技能実習制度の問題点を知る

  2. 疑問点があれば技能実習制度に詳しい専門家に相談する

それぞれの対応策を詳しく紹介します。

・技能実習制度の問題点を知る 

現状を見ると、技能実習制度は技能実習生の適正な労働条件と安全衛生の確保を100%実現しているとはいえず、さまざまな問題点を抱えています。例えば、低賃金の問題だけでも、その背景には中間業者に支払う手数料の存在や低賃金での雇用を前提とする仕組みなど、さまざまな要因が関係しているのです。

実習実施者としては、このような自身の機関が抱える問題点を把握しつつ、法令・規程などを厳格に守る姿勢を意識づける必要があります。

・疑問点があれば技能実習制度に詳しい専門家に相談する 

疑問に感じることや不安に思うことが生まれたとき、速やかに外部に相談しているという実習実施機関は決して多くありません。しかし、現段階で問題が発生していないからといって、疑問や不安を放置して技能実習を継続すると、近い将来に問題が発生してペナルティを受けてしまうおそれが十分に考えられます。

何らかのトラブルが生じたときには労働基準監督機関や出入国在留管理庁などに報告することは当然ですが、疑問や不安があれば関係機関や技能実習制度に詳しい行政書士などの専門家に相談しましょう。

まとめ

「労働基準関係法令違反」や「不正行為の実施」などによって、技能実習制度に違反する企業は依然として存在します。技能実習制度を利用する企業に違反があったと認められれば、ペナルティが課せられるので要注意です。

外国人技能実習者に関するトラブルが生じたときは速やかに関係機関に報告するだけでなく、疑問や不安があれば専門家に相談して、技能実習制度を適切に利用しましょう。