わびさびの意味を簡単に解説!日本人でも説明しにくい独特な美意識の概念

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2023/02/28

日本庭園や神社仏閣など、趣があり美しい様子を日本では「わびさび」と表現します。わびさびはほかの言語に翻訳するのが難しいため、海外でも「Wabi‐Sabi」で通じる日本独特の概念です。しかし、日本人でもわびさびの意味や使い方をわかりやすく説明できる人はあまりいません。
このコラムでは、説明するのが難しい日本独特の美意識であるわびさびを解説します。

目次

  1. 日本独特の美意識「わびさび」の意味とは
  2. わびさびには「不完全さ」が重要
  3. わびさびは「侘び」と「寂び」が合わさった言葉
  4. わびさびの使い方をわかりやすく解説
  5. わびさびを感じられる日本文化
  6. 実際にわびさびを体感できる観光名所5選
  7. 海外でも通じるわびさびの概念
  8. まとめ

日本独特の美意識「わびさび」の意味とは

日本独特の美意識「わびさび」の意味とはの画像

「わびさび」とは、質素で物静かな様子の中で感じられる美しさを表す言葉です。また、貧困や孤独の中でも心を満たそうとする意識そのものを、わびさびと表現することもあります。つまり、わびさびとは本来であれば避けたい・遠ざけたいような状態の中にしか存在しない美しさを表すのです。

たとえば、質素で静かな空間はリラックスするときには最適ですが、ずっと過ごしていると退屈に感じるでしょう。しかし、昔の日本人はそんな環境の中にこそ、美しさを見出していました。年月の経過による劣化や環境の変化に目を向け、どのようなものでもいつかは変わってしまう儚さに思いをはせていたのです。

飾り気がなく慎ましい様子は現代日本でも美しいと考えられており、わびさびは日本人の価値観に大きな影響を与えているといえます。

わびさびの美意識を感じられる日本文化の一つが、「盆栽(bonsai)」です。「bonsai(盆栽)の魅力とは?おすすめの観光スポットも紹介!」では、盆栽の魅力や歴史を解説しています。日本で盆栽を鑑賞できる観光スポットもまとめているので、興味がある方はぜひチェックしてください。

わびさびには「不完全さ」が重要

わびさびには「不完全さ」が重要の画像

日本独特の概念であるわびさびには、何かが欠けていたり不均一だったりする不完全さが重要です。完全に整ってはいない様子は、人々に想像の余地を残します。

たとえば、日本には月を鑑賞する行事があります。きれいに見える満月はもちろん、三日月や雲や霞に一部が隠れている月も美しいとされ、愛でられる対象です。不完全な様子から、満月や丸くなるまでの時間の経過に思いを巡らせて楽しみます。

傷一つなかったり完全に整っていたりする様子は、歴史やそれ以上の成長を想像させません。不完全であるからこそ、複雑さや味わいを感じさせるのです。

日本特有の価値観や概念と行事は密接に結びついています。「日本の年中行事や伝統行事を一覧で解説!特別な日の風習や行事食とは?」のコラムでは、さまざまな行事を紹介しているので、ぜひご一読ください。

わびさびは「侘び」と「寂び」が合わさった言葉

わびさびは「侘び」と「寂び」が合わさった言葉の画像

日本独特の美意識を表すわびさびは、「侘び(わび)」と「寂び(さび)」という2つの言葉が合わさった日本語です。それぞれ異なる意味を持つ言葉ですが、現代ではひとまとめに、わびさびと表現される傾向にあります。

「侘び」の意味とは

「侘び」には、「気落ちする」「あれこれ考えて困り苦しむ」「悲しみに嘆き暮れる」などの意味があります。もともとは心身にとって良くない状態を表す言葉でした。

しかし、次第に「満たされていないからこそ、生まれる美しさもある」という一つの美意識へと変わっていきます。侘びには、「貧しく満たされない状態だとしても、物事を心から楽しもう」というポジティブな精神が込められているのです。

侘びは、古くは日本最古の歌集『万葉集』にも使われています。室町時代には、質素な茶道具を使い静寂さを重んじる「侘び茶(わびちゃ)」という茶道の楽しみ方も生まれました。侘び茶の第一人者である千利休(せんのりきゅう)は、茶道とともに侘びの概念を普及させ、人々に新たな美意識を浸透させていったともいわれています。

「寂び」の意味とは

「寂び」とは、ひっそりとした静けさの中の、奥深さ・豊かさのある美を表す言葉です。たとえば、年月が経過して金属の表面に現れた錆(さび)や苔むした岩などから感じられる味わいや歴史を寂びと表現します。英語では、郷愁や哀愁を意味する「nostalgie」「nostalgia」が、寂びの概念と近いでしょう。昔の日本人は、汚れたり人の手が入らなくなったりして外側が錆びれると、本質的な美しさがあらわになると考えたのです。

日本の神社仏閣や歴史的な遺物、古美術品などを鑑賞するときは、背景にある時間の流れも意識してみましょう。

日本には、わびさびのほかにも特有の価値観や文化が多数存在します。「日本の文化をまとめて一覧で紹介!独自の価値観や海外との違いも解説」では、日本と海外の文化の違いをまとめているので、あわせてご覧ください。

わびさびの使い方をわかりやすく解説

わびさびの使い方をわかりやすく解説の画像

わびさびの意味を完璧に理解して使っている人は、そう多くありません。どのような状況で使えるのか、例文から学ぶことをおすすめします。

「何百年もの歴史を誇るこの神社の鳥居は、根元に苔の色が染みついていて非常にわびさびを感じられる」
「静かな日本庭園にししおどしの音が響き渡るたびに、わびさびを感じる」
「年季の入った古美術品は、わびさびが感じられて素晴らしい」

しかし、あくまで例文は例文です。わびさびは感覚的な概念であり、本人が「慎ましさが美しい」「時間の流れが良い味を出している」と感じたのであれば、どんなものでも「わびさびがある」と表現できます。前段で述べた定義を理解したうえで、身の回りのものに対する「これってわびさびかも?」という感受性を高めることが、わびさびを使いこなす近道といえるでしょう。

わびさびを感じられる日本文化

わびさびを感じられる日本文化の画像

わびさびは日本独特の美意識を表す言葉ですが、もともとは中国の道教から生まれた概念といわれています。日本に伝来して以降、禅や仏教にも取り入れられながら浸透していき、独自の変化を遂げていきました。そのため、発祥は中国であるものの、日本独特の美意識を表す言葉として「わびさび(Wabi-Sabi)」は、世界中に広まっていったのです。

日本文化とわびさびは密接な関係性にあります。ここではわびさびが感じられる日本文化を紹介するので、興味がある方はぜひチェックしてみてください。

茶道と深い関わりを持つ「侘び」

先述したように、茶道の様式の一つに質素な茶道具を使う「侘び茶」があります。侘び茶が広まったのは室町時代中期以降です。それまでは華やかな唐(現在の中国)の茶器を収集し、美術品として鑑賞する「茶の湯」が主流でした。

侘び茶を日本に広めた千利休は、現代にも続く茶道のルーツを作った第一人者で、侘びの精神を重んじていた人物です。村田珠光(むらたじゅこう)とともに「華美でなくても、手触りや繊細な色遣いにも美しさがある」と質素な美の魅力を説きました。千利休や村田珠光の教えにより人々は侘びの素晴らしさに気づき、日本の備前焼や信楽焼の茶器や質素な茶道具を使い始めたのです。なお、現代の茶道では、華やかな茶器も質素な茶器も茶会の趣向に応じて使われています。

侘びの精神が感じられる茶道具は、美術館や博物館でも鑑賞できるので、興味がある方は足を運んでみましょう。

俳句と深い関わりを持つ「寂び」

世界的に有名な詩人の松尾芭蕉(まつおばしょう)が詠んだ俳句は、わびさびのなかでも特に寂びが感じられます。

「古池や蛙(かわず)飛び込む水の音」
「閑(しずか)さや岩にしみ入る蝉の声」

上記の俳句はどちらも松尾芭蕉の俳句です。ひっそりとした静寂の中で聞こえる水音、蝉の声以外の音がしない情景など、わびさびを感じるシーンが思い浮かぶでしょう。松尾芭蕉が生きていた江戸時代前期は、華やかな俳句が人気だったため、趣が全く異なる彼の作品は多くの人々に衝撃を与えました。物事の本質的な美しさを表す寂びに魅力を感じた松尾芭蕉は、ほかの俳句でも積極的にわびさびの概念を取り入れていたようです。

日本庭園と「わびさび」

池を中心に土地の起伏を活かした庭造りを行い、疑似的な自然を生み出す日本庭園はわびさびを感じさせる美しい日本文化です。

石・砂・岩を活用し、水を使わずに水流を表現する枯山水は日本庭園の様式の一つで、主に禅宗の寺院で見られます。枯山水は、日本庭園には必要不可欠とされている水を使わないことで、わびさびにとって重要な要素の不完全さを生み出しているのです。

神社仏閣と「わびさび」

わびさびが感じられる日本の建築物として、建立された当時の姿を残している神社仏閣が挙げられます。経年劣化による色落ちや損傷からは、建築物が経てきた歴史を感じられるでしょう。傷一つない完全な姿も美しいといえますが、長い年月に渡り大事にされてきた神社仏閣には味わいや趣が感じられます。

日本にはわびさびを感じさせる伝統文化がたくさんあります。「日本の伝統文化といえば何がある?継承への取り組みについても解説」のコラムでは、多彩な日本の伝統文化をまとめているので、ぜひチェックしててみてください。伝統的な日本文化を体験したい方や旅行のプランを立てている人にも、おすすめです。

実際にわびさびを体感できる観光名所5選

実際にわびさびを体感できる観光名所5選の画像

ここでは、わびさびを体感できる日本庭園や寺院などの観光名所を5つ紹介します。

1.清澄庭園(東京都)

1.清澄庭園(東京都)の画像

「清澄庭園(きよすみていえん)」は、東京都の指定名勝に指定されている庭園です。江戸時代に屋敷があった土地を、明治時代に入り実業家・岩崎弥太郎が日本庭園として整えました。

3つの中島がある大きな池の周辺には、日本全国から集めた名石を置いています。池の端に配置されている石は、上を歩くと一歩ごとに変化していく景色が楽しめるように配置されているのが特徴です。枯山水や石を組み合わせて滝を表現した「枯滝」は、実際にはない水の流れが感じられ、わびさびを体感できるでしょう。

2.龍安寺(京都府)

2.龍安寺(京都府)の画像

1994年にユネスコ世界文化遺産に登録された「龍安寺(りゅうあんじ)」も、わびさびを感じさせる観光名所です。

竜安寺にある枯山水の「方丈庭園(ほうじょうていえん)」は、石と白砂で島々と海を表しています。大小15個ある石は、どの方角から見ても14個しか見えないように配置されていることで有名です。すべての石が見えないことからは、不完全を良しとするわびさびの美意識が感じられるでしょう。石や白砂を見ながら、海の景色や波の音を想像するのもおすすめです。

3.西芳寺(京都府)

3.西芳寺(京都府)の画像

国の特別名勝および史跡に指定されている「西芳寺(さいほうじ)」は、苔の美しさで有名です。ユネスコの世界文化遺産「古都京都の文化財」の一つにも登録されています。

35,000㎡にもおよぶ庭園には120種類以上もの苔が生えており、「苔寺」とも呼ばれます。1200年もの歴史があり、同じく京都府にある金閣寺・銀閣寺などの庭園のモデルになったともいわれている庭園です。境内一面を覆っている苔を眺めると、微妙な色彩の違いや成長に掛かった時間の長さが感じられ、わびさびへの理解が深まるでしょう。

4.金剛峯寺(和歌山県)

4.金剛峯寺(和歌山県)の画像

「金剛峯寺(こんごうぶじ)」にある枯山水の庭園「蟠龍庭(ばんりゅうてい)」は、2,340㎡もの広さがあり国内最大規模です。白砂が敷き詰められており、標高が高い場所から雲を見下ろした際に海のように見える現象「雲海」を表現しています。白砂の中には、一対の龍に見立てた岩が配置されているのも特徴です。

白砂と岩という限られた素材から雲海や龍まで想像させる手法には、わびさびが感じられるといえるでしょう。

5.高源寺(兵庫県)

5.高源寺(兵庫県)の画像

紅葉で有名な「高源寺(こうげんじ)」も、わびさびを体感したいときにおすすめの観光名所です。

日本人は、広葉樹の葉が赤や黄色に色付く現象である紅葉にも、わびさびを感じてきました。虫に喰われていたりさまざまな色合いがあったりする葉からは、儚さや自然の美しさが感じられます。

高源寺の紅葉の始まる時期は10月中旬から下旬にかけてです。11月上旬には、寺院一帯が赤や黄色の葉に彩られます。紅葉した葉が散る様子を見ながら、静かさや時の流れを感じるのも良いでしょう。

海外でも通じるわびさびの概念

海外でも通じるわびさびの概念の画像

近年、わびさびは海外でも知られるようになってきました。日本独特の概念であるわびさびは、海外の美意識と大きく異なります。わびさびについて理解を深めたい方は、西洋文化との違いを勉強してみるのがおすすめです。

西洋文化とは対極の美意識

西洋と日本の美意識の違いは、それぞれの庭園の作り方に表れています。たとえば、フランスのパリ郊外にある「ヴェルサイユ庭園」は、大きな噴水を中心に左右対称になるよう設置された木々が美しく魅力的です。
一方、日本の京都府にある「桂離宮(かつらりきゅう)」は、周囲の自然との調和を意識したナチュラルな美しさが魅力といえます。人の手は加えられていますが、完璧をめざすのではなくありのままの形を活かすためです。

日本の庭園の池には噴水の代わりにししおどしが見られ、水の使い方にも違いがあります。庭園に見られる様式の違いは、西洋と日本の生活環境や美意識の違いから生まれたのでしょう。

西洋では近未来的で合理性があり、完全なものを美しいと考える傾向にあります。そのため、不完全な美を好む日本のわびさびは、西洋文化とは対極の考えです。

ほかの言語に翻訳しにくい

ほとんどの人にとって、わびさびの意味は簡単に説明したり言語化したりするのは困難です。感覚でこの言葉を使っている人も多いため、ときにはニュアンスが異なる場合もあります。

実際に、わびさびには明確な定義がありません。そのため、ほかの言語に翻訳するのも難しく海外でもそのまま「Wabi-Sabi」と表現されています。わびさびは西洋にはない面白い価値観として、徐々に海外の人々の間で広まりつつあるようです。

日本庭園や古美術品、風景などを鑑賞し「うまく言い表せないけど、なんとなく日本ならではの美しさを感じる」というときは、わびさびと表現してみましょう。

まとめ

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わびさびは、日本独特の美意識を表す日本語です。明確な定義がなく、ほかの言語に翻訳するのが難しいため、海外でもそのまま「Wabi-Sabi」で通じます。さまざまなニュアンスが含まれた言葉であり、わかりやすく説明するのが難しい日本語です。しかし、日本文化に触れるうちにわびさびの概念や意味、使い方を理解できるでしょう。

日本庭園を訪れたり茶道の体験をしたりして、わびさびの意味を学んでみるのもおすすめです。

ライター

WeXpats
生活・仕事・留学に関するお役立ち情報から、日本のディープな魅力を紹介するコラムまで、バラエティ豊かな記事をお届けします。

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