平安時代の日本文学を読んだことがある方であれば、一度は「をかし」という日本語を目にしたことがあるでしょう。「をかし」は日本独特の美的感覚を表す言葉です。複数の意味を持つ言葉なので、ほかの言語に翻訳するのは容易ではありません。
このコラムでは、「をかし」の意味を解説します。「をかし」の類義語や対義語、現代語訳もまとめているので、原文のまま日本文学を読みたい方はチェックしてみましょう。
目次
「をかし」の意味とは
「をかし」は主に平安時代に使われていた、感情の動きを表す際に使う古語です。さまざまなニュアンスを含んだ言葉で、正確な意味は前後の文脈から推測しなければ分かりません。「をかし」に含まれる主な意味は以下のとおりです。
- 笑いたくなるほどおかしい
- 興味深い
- 風情がある
- 美しく愛らしい
- すぐれていて素晴らしい
平安時代の人々は、感覚的に「美しい」「面白い」「見事だ」と思える情景を、まとめて「をかし」と表現していました。なお、古文では「いとをかし」とも書きます。
「いと」は「非常に」「大変」という意味の副詞です。否定的な意味で「対して」「それほど」と使うこともあります。文章中に「いとをかし」と書かれているときは、あとに続く文章を参考にして正しい意味を読み取りましょう。
平安時代がどのような時代か知りたい方は、「日本の時代を年表にして紹介!時代区分ごとに起こった出来事も解説」をあわせてチェックしてみてください。当時の時代背景が分かれば、言葉の意味や使い方に対する理解も深まるでしょう。
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「をかし」の類義語・対義語
平安時代の日本文学でよく使われている「をかし」には、似た意味を持つ類義語と正反対の使い方をする対義語があります。どれも「をかし」と同じくらい平安時代の日本文学で使われている言葉なので、あわせて覚えておきましょう。
【類義語】をこがまし
「をこがまし」は、ばかげている・見苦しい・みっともないという意味を持つ古語です。「おこがまし」は「をかし」が語源だと考えられています。語感や意味も似ているため、極めて有力な説といえるでしょう。
日本文学では風変わりな様子や突飛で面白い情景を「をかし」、もしくは「をこがまし」と表現します。どちらも平安時代の文学作品にたびたび出てくる表現なので、意味を覚えておきましょう。
【類義語】あはれ
「あはれ」は、深く感動したり趣(おもむき)を感じたりした際に使われる古語です。「をかし」が表すのが知性を必要とする美しさだとするならば、「あはれ」は本能的に感じるしみじみとした美しさを表現する言葉といえます。どちらも趣や風情に心を動かされたときに使いますが、微妙にニュアンスが異なる言葉です。「あはれ」と「をかし」は似て非なる古語であり、類義語でありながら対比される場面が多々あります。どちらも平安時代の文学作品を語るうえで外せない美的理念なので、さまざまな古文を読んでニュアンスの違いを勉強してみましょう。
【対義語】わろし
「わろし」は、好ましくない・良くない・見劣りするといった意味を持つ古語です。「をかし」と正反対の意味のため、平安時代の文学作品では対義語として使われています。なお、非常に良くないと強調したいときの表現は「いとわろし」です。
「をかし」を現代語に訳すと「最高」になる
さまざまな意味を含んでいる「をかし」は、現代では使われていない古語です。そのため、平安時代に「をかし」と表現されていたものを現代の言葉に訳すと、「最高」「すごい」などになります。また、「をかし」と若者言葉の「エモい」はほとんど同じ意味だと解釈する人もいるようです。
ほかにも「をかし」を現代語に訳すとどのような言葉になるのか気になる方は、超訳された日本の古典を読むことをおすすめします。
「をかし」が使われている古文の作品
平安時代の日本文学は現代にも数多く残されており、その中には「をかし」が使われている作品もあります。「をかし」の意味や使い方を知りたい方は、実際に読みながら勉強するのがおすすめです。
『枕草子』『源氏物語』といった有名な文学作品は英語やフランス語、ドイツ語などに翻訳されているので、なじみのある言語で読んでから原文を読むのも良いでしょう。
枕草子
『枕草子』は、清少納言が平安時代に書いた作品です。学校の教科書にもよく載っている作品なので、多くの日本人が知っています。『枕草子』は「をかし文学」といわれるほど「をかし」がたくさん使われており、「をかし」の意味や使い方を学ぶにはぴったりの作品だといえるでしょう。平安時代から人気を博す作品だった『枕草子』は、現代でも装丁を変えたり現代語に翻訳されたりして販売されています。平安時代の人が何を「をかし」と表現していたのか知りたい方は、ぜひ読んでみてください。
徒然草
『徒然草』は、兼好法師(吉田兼好)が鎌倉時代に書いた作品です。歴史的な随筆文として、日本の学校の教科書にも掲載されています。兼好法師が感じたことをまとめた文章なので、約1000年前の人がどのようなことを考えていたか知りたい方にもおすすめです。
『枕草子』『方丈記』と並んで、『徒然草』は日本三大随筆と評価されています。「をかし」以外の古語を勉強するのにも役立つので、ぜひ一度読んでみましょう。
更級日記
『更級日記』は、菅原孝標女が平安時代に書いた作品です。筆者の約40年間の人生が書き記された伝記なので、当時の人々がどのように生きていたのか、平安時代はどのような時代だったのかを知るすべにもなります。なお、『更級日記』は、「をかし」よりも「あはれ」が多用されている文学作品です。幼少期の筆者が『源氏物語』に強い憧れを抱いており、大人になってからもその感情が続いていたのが原因といえるでしょう。「をかし」の意味を把握したうえで「あはれ」とのニュアンスの違いを勉強したい方は、『更級日記』を読むことをおすすめします。
源氏物語
『源氏物語』は、紫式部が平安時代に書いた作品です。世界最古の長編小説ともいわれており、作品は全6巻で構成されています。さまざまな言語に翻訳されて海外でも出版されているため、読んだことがある方もいるでしょう。
『源氏物語』は『枕草子』と対をなす平安時代の文学作品です。長編小説のため文章中に「をかし」がたくさん使われていますが、それを上回るほど「あはれ」が多用されているので「あはれの文学」ともいわれています。「をかし」と「あはれ」がどのように使い分けられているか知りたい方は、ぜひ『源氏物語』を使って勉強してみましょう。
他日本文学に関して、詳しく知りたい方は「日本文学で有名な作家は?文学賞や時代ごとの代表作も紹介」もぜひ読んでみてください。
まとめ
「をかし」は、人間の複雑な感情の動きや趣深さを一言で表せる言葉です。「をかし」の意味やニュアンスが分かれば、日本特有の美的感覚や日本語に対する理解も深まるでしょう。主に平安時代に使われていた古語なので今では耳にする機会はほとんどありませんが、代わりに「最高」「エモい」などの現代語が「をかし」と同じ意味で使われています。
古文を原文で読みたい方や古語と現代語の関係性が知りたい方は、現代語に訳されている平安時代の文学作品から勉強し始めるのがおすすめです。古語がある程度理解できるようになったら、原文にもチャレンジしてみましょう。