独特な雰囲気のある日本の伝統芸能に、興味のある人もいるでしょう。しかし、なかなか触れたり調べたりする機会がない人が大半のようです。このコラムでは、日本で伝統的に受け継がれてきた芸能文化をまとめて紹介します。世界的に有名な芸能のほか、ほとんど知られていない芸能も解説。興味のある伝統芸能が見つかった方は、ぜひ体験してみましょう。
目次
日本の伝統芸能には歌や踊り以外も含まれている
日本の伝統芸能は歌や踊りなどの演劇だけではありません。芸能という言葉には、技能や芸術も含まれます。そのため、古くから伝承され、修行や稽古を通して磨かれてきた技能や芸術はすべて伝統芸能といえるでしょう。
伝統芸能は、西洋文化の影響を受ける前から日本にある文化を指します。明確な定義はありませんが、明治時代を境に分けられることが多いようです。
日本の伝統芸能については「日本の伝統文化を外国人向けに解説!芸道や季節の行事の一例を紹介」や「日本文化の特徴をまとめて紹介!外国人向けに西洋文化との違いを解説」のコラムでも紹介しています。
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海外でも特に人気のある日本の伝統芸能5選
ここでは、日本のみならず海外でも人気のある伝統芸能を5つ紹介します。
1.落語(らくご)
落語は現代の日本のコメディのもとになっている話芸です。落語家は身振りや手振りを交え、1人でさまざまな人を演じます。落語家が話すのは江戸時代の庶民が主人公となる物語で、最後にオチと呼ばれる洒落や締めくくりが入るのが特徴です。ただし、人情噺と呼ばれる感動するような演目では、オチがない場合もあります。代表的な落語の演目は『まんじゅうこわい』『寿限無』『芝浜』などです。
2.茶道(さどう)
茶道とは、お茶をたてて客人に振る舞う芸道です。ただお茶やお菓子を味わうことだけが茶道ではありません。客人をもてなすための動作(作法)や人々の交流、茶器の鑑賞なども茶道の醍醐味です。気軽に茶道を体験できるようなイベントも行われているので、興味のある方は参加してみましょう。
3.歌舞伎(かぶき)
歌舞伎はユネスコ無形文化遺産にも指定されている、日本が世界に誇る伝統芸能です。音楽や踊り、芝居からなる華やかな総合芸術で、多くの人々の心を捉えています。歌舞伎は、派手な化粧である「隈取り」や演目の盛り上がる場面でポーズを取る「見得(みえ)」などが特徴です。
歌舞伎の演目は、江戸時代や平安・鎌倉時代が舞台とされます。なお、昨今では現代や架空の世界を舞台にした「スーパー歌舞伎」という新形態の歌舞伎も誕生しました。海外で人気のアニメも演目になっているので、気になる方はチェックしてみてください。
4.書道(しょどう)
書道とは、紙と筆を用いて芸術作品を創作する伝統的な芸道です。文字を綺麗に書けるように練習するのが目的の「習字」とは異なり、思想や哲学の要素もあります。半紙と毛筆、墨があればすぐに始められ、特別な知識は必要ありません。書道は日本の伝統芸能のなかでも、外国人がチャレンジしやすい芸道といえるでしょう。
5.狂言(きょうげん)
狂言はユーモアのあるストーリーが展開される会話劇で、言葉や身振りで演じられる伝統芸能です。会話劇である「狂言」と、歌や踊りを中心に演じられる「能」をあわせて「能楽」といい、1日に同じ舞台で上演されます。格式高い能と比較すると、狂言は分かりやすいうえ、上演時間が20~30分と短く親しみやすい芸能です。そのため、昨今では狂言だけを上演することも増えてきました。
日本の伝統芸能の種類一覧
ここでは、日本の伝統芸能を一覧でまとめています。
演劇
先述した歌舞伎や狂言のほかに、「人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)」という伝統芸能があります。人形浄瑠璃はいわゆる人形劇で、三味線の音色や太夫とよばれる語り手の語りにあわせて人形を操る演劇です。人形浄瑠璃のなかでも、大阪で成立し伝統的に受け継がれてきた種類を「人形浄瑠璃文楽(にんぎょうじょうるりぶんらく)」といいます。
工芸
古くから受け継がれた技術や技法で、見た目に優れた工業製品を作る芸能が工芸です。陶芸や織物、彫金などが該当します。特に、粘土を高温で焼き上げて陶磁器を作る陶芸は海外でも人気です。陶芸は、「手びねり」という手だけで形を作る方法や「ろくろ」と呼ばれる円状の回転式の台を用いて作る方法があります。1990年に公開された映画『ゴースト/ニューヨークの幻』に主演のデミ・ムーアが「ろくろ」を回すシーンがあり、世界中で陶芸の存在が知られるようになりました。
歌
歌は言葉を用いて感情や情景を表現する芸能です。たとえば、俳句では「古池や・蛙飛び込む・水の音」のように、5字・7字・5字の限られた文字数のなかで情景を詠みます。
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俳句(はいく):季節にまつわる言葉(季語)を含めた5字・7字・5字の句で詠む
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短歌(たんか):5字・7字・5字・7字・7字の句で詠む
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長歌(ちょうか):5字・7字の句を複数回繰り返し、最後に7字・7字で締める
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旋頭歌(せどうか):5字・7字・7字を2回繰り返して読む
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連歌(れんが):5字・7字・5字と7字・7字を複数人で交互に読む
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俳諧連歌(はいかい):連歌から派生し、よりユーモア性を高めた文芸
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琉歌(りゅうか):沖縄県に伝わる歌謡で、8字・8字・8字・6字で歌いながら読む
俳句は教養を高められる趣味として、現代でも広く親しまれています。
唄
唄は伴奏にあわせて歌う芸能です。
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民謡(みんよう):人々の間で口頭により受け継がれてきた歌
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詩吟(しぎん):和歌や漢詩に独特の調子を付けて歌う
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今様(いまよう):平安中期から鎌倉時代にかけて流行した歌謡
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都々逸(どどいつ):7字・7字・7字・5字で男女の恋愛を歌う
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声明(しょうみょう):仏典に節を付けた仏教音楽
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長唄(ながうた):歌舞伎の伴奏曲で、三味線にあわせて歌う
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地唄(じうた):江戸時代に京都府や大阪府で栄えた三味線音楽
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端唄(はうた):自由な曲風の三味線音楽
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うた沢(うたざわ):端唄から派生した短い歌謡で、ゆっくりとした音色が特徴
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小唄(こうた):端唄の一種で、より凝った曲量で歌う
動画配信サイトで発信をしている唄もあるので、ぜひ聴き比べてみましょう。
芸道
芸道には先述した茶道・書道のほかに華道や香道(こうどう)があります。
華道は花や木を飾り付け作品を作り、鑑賞する芸道です。色とりどりの植物だけでなく、すき間や空間も含めて芸術として楽しみます。
香道は沈香という木(香木)に火を付け、香りを楽しんだり聞き分けたりする芸道です。
演芸
演芸は、人々を楽しませたり驚かせたりする芸能全般を指します。現代の日本のコメディやエンターテインメントすべてのもとになっている伝統芸能です。
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落語(らくご):身振り手振りも交えながら話だけで人々を楽しませる話芸
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奇術(きじゅつ):現代でいうマジックのこと
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萬歳(まんざい):2人組が会話のやり取りで人々を楽しませる芸能で、現代の漫才の原型
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浪花節(なにわぶし):三味線に合わせて物語を話す話芸
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講談(こうだん):軍記や武勇伝などの歴史物語を、独特の調子を付けて語る伝統芸能
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俄(にわか):現代のコントの原型で、道端やお酒の席での即興芝居
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太神楽(だいかぐら):神様に捧げる歌舞が起源で、獅子舞や傘回しなどの曲芸を指す
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大道芸(だいどうげい):梯子(はしご)乗り、紙切り、曲独楽、花火など
演芸に分類される伝統芸能の多くは現代まで形を変えながら受け継がれ、大衆を楽しませています。
音曲
音曲は、楽器や人の声を使って音楽を奏でる伝統芸能です。
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囃子(はやし):笛や太鼓、三味線などを用いて祭りや芝居の場の雰囲気を高める音楽
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純邦楽(じゅんほうがく):箏(こと)や三味線、尺八などの和楽器を使用して奏でられる音楽全般のこと
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浄瑠璃節(じょうるりぶし):人形浄瑠璃の語り手ごとに節が違うため、△△節と名前を入れて区別している(義太夫節、常磐津節など)
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雅楽(管弦)(ががく・かんげん):皇室行事や神社仏閣の儀式で演奏される古典音楽で、管弦はそのうちの合奏部分を指す
上記の音曲は、日本における「クラシック音楽」といえるでしょう。
日本舞踊
日本舞踊は、古くから伝わる伝統的なダンスの総称です。なお、女性の習い事として人気の日本舞踊は、この項目でいう「歌舞伎舞踊」を指しています。
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歌舞伎舞踊(かぶきぶよう):歌舞伎の劇中にでてくる舞踊で、浄瑠璃や長唄が伴奏
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国風歌舞(くにぶりのうたまい):雅楽のうち日本風の歌や舞を指す
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纏舞(まといまい):纏(まとい)とよばれる大きな旗印を操りながら踊る
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恵比寿舞(えびすまい):恵比寿天という神様のお面を被って踊る舞で、大漁祈願や安全祈願の意味がある
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大黒舞(だいこくまい):お正月やお祝いのときに、大黒天という神様のお面を被って踊る舞
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上方舞(かみがたまい):現在の近畿地方で生まれた踊りで、座敷舞や地唄舞とも呼ばれる
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曲舞(くせまい):扇を持ち、物語に独特のリズムを付けて踊る
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念仏踊り(ねんぶつおどり):仏様の名前や功績である、「念仏」を唱えながら踊る
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盆踊り(ぼんおどり):お盆に帰ってきた死者をもてなし、弔うための踊り
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神楽(かぐら):神様に捧げるための歌や踊り
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舞楽(ぶがく):踊りのある雅楽のこと
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田楽(でんがく):田植えの時期に行われていた歌をともなう踊り
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猿楽(さるがく):能楽の原型で、面白おかしい要素のある踊り
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白拍子(しらびょうし):男装をした女性や子どもが今様(平安時代の流行歌)に合わせて踊る
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延年(えんねん):寺院で仏法を説く会(法会)のあとに、僧侶や子どもが舞っていた踊り
日本舞踊には、歌舞伎舞踊や雅楽など現在まで盛んな踊りもあれば、白拍子のようにほとんど途絶えてしまった踊りもあります。
日本の伝統芸能の一つ、工芸については「日本の伝統工芸品を作る職人の種類や有名なアート職人を紹介!」
日本の伝統芸能の未来
現在、日本の伝統芸能の多くは存続の危機に立たされています。伝統芸能には、西洋から入ってきた文化に人々の関心が移り、衰退していった芸能も少なくありません。日本の伝統芸能を理解して楽しむには、ある程度の教養が必要です。そのため、敷居が高く若者が興味を持ちにくい傾向にあります。その結果、日本の伝統芸能を未来に伝えていく後継者や伝承者の不足が深刻化している状態です。
古くから受け継がれてきた伝統芸能は、一度途絶えてしまうと簡単には復活できません。そのため、未来に継承していく取り組みが進められています。その一つが、海外への積極的な発信です。海外の人に興味を持ってもらえれば、伝統芸能の世界は盛り上がり次の世代に繋げやすくなるでしょう。具体的な海外発信の取り組みには「他言語での動画配信」「外国人向け体験プログラム」「海外での教室開講」などがあります。少しでも興味のある方は、気軽に日本の伝統芸能の世界に飛び込んでみましょう。
まとめ
日本の伝統芸能には演劇や音曲、舞踊などさまざまなジャンルがあります。初めは難しそうに感じられますが、次第に独特な雰囲気に魅力されていくでしょう。外国人に向けた分かりやすい発信も増えてきているので、ぜひ日本の伝統芸能に触れてみてください。