※この記事はベトナム語で執筆された内容を日本語に翻訳しています。
タンホア出身のチョンさんは、日本の南西部にある熊本県で電気工事の仕事をしています。――「熊本は日本の中では今まさに発展が進んでいる町で、ベトナムと事情が似ています。急激に成長しているベトナムでインフラの仕事の経験を活かせますし、自然が豊かで暮らしやすい点も気に入っています」
チョンさんと同じ会社で働くハンナさんはダナン出身。日本人の先輩社員と結婚し、仕事もプライベートも充実した生活を送っています。――「私は熊本に住んで7年目です。職場の同僚や夫の家族、熊本で出会う人はみんな優しくて、不自由なく暮らせています。もうすぐ永住ビザを取得できるので、ベトナムと熊本を行き来する生活がしたいです」
まだベトナムではほとんど知られていませんが、熊本はとても魅力的で暮らしやすい町です。熊本での仕事や生活について、チョンさんとハンナさん、そして二人の会社の上司にインタビューしました。
ベトナムに支社を作りたい! 熊本で叶えたい夢
――二人の仕事について教えてください。
ハンナさん:
私たちは九州電設という会社で働いています。“Kyushu”は日本の地域を表す名前で、“Densetsu”は電気工事という意味です。
チョンさん:
今はどちらかというとデスクワークが多いですね。工事が期日内に終わるようにスケジュールを組み立てて、必要な機材や人員を考えて手配します。
ハンナさん:
現場に出て働くこともあります。この会社は事務仕事と施工法をどちらも学べて勉強になります。それに電気は水道やガスなど他のインフラと密接に関わっているので、電気以外の知識が身に着くところも面白いです。
――チョンさんはベトナムで一度就職した後、仕事を辞めて日本に来たのですよね。ベトナムと日本では働き方が違いますか?
チョンさん:
そうですね。日本の仕事には“報連相”という大事な考え方があります。“報”は“liên hệ(報告)”、“連”は“liên hệ(連絡)”、“相”は“tư vấn(相談)”という意味です。日本ではどんな細かいことでも上司やお客様に確認して、事前に計画を立ててから作業します。
最初はわずらわしさも感じたのですが、こうした習慣があるからこそ、やり直しによる作業の延期を防いだり、チームで良い製品を作ったりできるのだと学びました。
――上司から見て、ふたりの仕事ぶりはいかがですか?
上司:
頼もしいですね。行動力があるし、頭も良いので、こちらも色々な仕事を教えたくなります。新しい仕事にも自分からどんどんチャレンジしてくれますね。やる気がありすぎて「ちょっと待って! 今教えるから!」とハラハラすることもありますが(笑)
チョンさん:
もっと報連相に気を付けます(笑)
――ベトナム人が就職したことで、会社に変化はありましたか?
上司:
チョンさんは日本の働き方を学んだと話してくれましたが、私たちもベトナム人の合理的な考え方や効率的な働き方を見習う必要があると思っています。
あとは文化交流ですね。日本の会社にはお酒と食事で交流を深める「飲み会」という文化がありまして、そこでベトナム式の乾杯をしたんです。
チョンさん:
私が“Một hai ba, vô!”を教えました(笑)
※Một hai ba, vô!:「モッハイバーヨー!」の掛け声でお酒を飲むベトナム式のコール文化。数字の「1、2、3」という意味。
ハンナさん:
熊本は食事がとてもおいしいので、飲み会も楽しいです。
上司:
ふたりとも会社の催しに積極的に出席してくれて、やっぱり上司としてはうれしいですね。2人が来てから会社の雰囲気が明るくなりました。
▲熊本名物の「馬刺し」と「熊本ラーメン」。豚骨スープで濃い味付けの熊本ラーメンはベトナム人の口に合うと大人気。米やトマトなど、おいしい農作物も熊本にはたくさんあります。
――なぜ二人は日本で就職しようと思ったのですか?
ハンナさん:
一度、家族の元を離れて、自分の力で何でもやらなきゃいけない環境に身を置きたいと思ったからです。私は両親にすごく甘えてしまうタイプなので、自立した人間になりたいなと。
チョンさん:
僕はキャリアのためですね。今、ベトナムに足りないものはテクノロジー、特にインフラです。急激な都市化が進むベトナムで活躍できる技術を学びたいと思い、日本に来ることを決めました。
――それでは、将来はベトナムに帰りたい?
チョンさん:
そうですね。熊本は大好きですけど、やっぱりベトナムのために働きたい思いがあります。この会社に就職しようと思ったのも、ベトナムに支社を作る計画があると聞いたからなんです。だから、いつか熊本を離れるとは思いますね。
ハンナさん:
熊本はとても良い町ですが、ベトナムではほとんど知られていません。留学や仕事で熊本に来たベトナム人が、帰国後も安定して働ける場所を作ることで、ベトナムと熊本をつなぐ架け橋になりたいです。
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――二人は熊本の生活のどんな所を気に入りましたか?
ハンナさん:
なんというか、雰囲気がベトナムに似ていると思いました。田んぼが多くて、川や山があって、空気がきれいで、とても自然が豊かなところです。私、日本のイメージは東京と『ドラえもん』しかなかったので、「こんなに緑が多い町も日本にあるんだ!」って驚きました。
チョンさん:
自然に囲まれて暮らしたい人には本当にオススメです。ベトナムのバヴィ県やファンシーパン山のような絶景が見れる場所もありますし。
冬に温泉やウィンタースポーツを楽しめるのは日本ならではですね。でも、日本の中では温かい地方なんですよ。雪があるのは山の方だけで、町中はほとんど降りません。ベトナム人にとって寒さは死活問題ですから(笑)
ハンナさん:
中心部には大きな商業施設があって、買い物やレストランで困ることはありません。バスでの移動が多くなるから、何年も住むのであればバイクの免許があると便利かな。
ハンナさん:
あと、熊本は日本で唯一“PHO LY QUOC SU”がある町なんです。テレビでもよく取材されていて、日本人にも人気みたい。私も食べに行きましたけど、ちゃんと本場の味でおいしかったです。
ベトナム食材の店もたくさんあって、食生活は本当に充実していますね。東京や大阪のような都心部と比べて物価が安いのもポイントですね。
※PHO LY QUOC SU:ベトナムの外食チェーン店。2023年現在、日本では熊本にのみ出店している。
チョンさん:
「ONE PIECE」のファンも楽しめると思います。熊本は「ONE PIECE」の作者である尾田栄一郎さんの故郷なので、キャラクターの等身大銅像が各地に立っているんです。銅像を見て回るだけでもすごく楽しいと思います。
――自然豊かで、住みやすくて、遊ぶところもたくさんあると。
チョンさん:
熊本にはベトナム人が6000人以上住んでいるので、ベトナム語の標識やパンフレットも増えてきました。僕が日本に来た10年前と比べると、本当に住みやすくなったと思います。
ハンナさん:
私は熊本出身の日本人と結婚しましたが、夫の家族もとても良くしてくれます。日本人はベトナム人ほど家族愛が強くないみたいなんですけど、そうした中でも熊本は家族を大切にする人が多くて、ベトナム人の気質に合ってるかもしれません。
――なるほど。住んでいる人が「家族想い」なところも似ているんですね。ハンナさんは夫婦でよく行く所はありますか?
ハンナさん:
ご飯を食べに行くことが多いですね。新しいお店ができたら「次の週末ここに行こうよ」って。
――ハンナさんは「将来ベトナムに帰りたい」とおっしゃっていましたが、夫婦で将来の話はされているのでしょうか?
ハンナさん:
夫もベトナムが好きになってくれて、「ダナンに住むのもいいね」と言ってくれています。もうすぐ日本の永住ビザを取得できるので、ダナンと熊本を行ったり来たりしながら、お互いの家族を大切にして暮らしたいです。
――それは素敵な生活ですね! 二人のおかげで熊本の事がだんだん分かってきました。
チョンさん:
あ、最後にひとつだけ話させてください! 熊本はとても魅力的なだけじゃなくて、他の県にはないユニークな特性がありまして。それが県のキャラクターである「くまモン」です。
▲くまモンは日本全国で愛されている熊本県のキャラクター。くまモンが有名になった2011年以来、2021年までの10年間でくまモン関連商品の売上は1兆円以上にのぼるとされています。名実ともに熊本のシンボルです。
チョンさん:
熊本の人は異様なほどくまモンが大好きで、熊本はいたる所にくまモンが立っているんです。熊本は日本の中では田舎の方なんですけど「でも俺達にはくまモンがいるからね!」という自信と一体感があって、その県民性がすごく面白いと思います。
ハンナさん:
私たちもくまモンのことがだんだん好きになってきました(笑)
チョンさん:
このデザインは絶対ベトナムでも人気が出ますよね。
――お二人とも、今日はありがとうございました!
ハンナさん:
自然が好きな人なら、きっと熊本を気に入ると思います。
チョンさん:
熊本は日本の西側にあって、物理的な距離もベトナムから近いです。ぜひ遊びに来てみてください。
取材協力:
九州電設株式会社
フォーリーコックス熊本
SAKURA MACHI Kumamoto
©熊本県観光連盟