日本の葬式には、守らなければならないマナーがたくさんあります。葬式に参列する際は、事前にしっかりとマナーを把握したうえで、故人を弔い、遺族へ失礼のない言動を心がけることが重要です。
この記事では、服装の選び方や焼香のあげ方、ご遺族に言葉を掛けるときの作法など、葬式の基本的なマナーを解説しています。
目次
日本の葬式の流れ
日本では、通夜が行われたあとに、葬式・告別式があり、出棺され、火葬されます。それぞれの儀式には異なる目的や意味があり、親族や友人、同僚など関わりがあった人たちが集まって、故人を弔うのが特徴です。
ここでは、日本の葬式の流れについて解説します。
葬式の案内状に返事をする
葬式の案内状が届いたら、可能な限り早く返信をするのがマナーです。案内状には通夜や告別式の日時と場所、出席できない場合の弔電や香典の送り先が記載されています。出欠確認も兼ねて返信はがきで案内状が送られてくるため、必要事項を記入して速やかに返信しましょう。
なお、出欠席の前にある「御」の字は二重線で消し、送り主の名前の下にある「行」を「様」に変えて返信します。
葬式の案内状に「葬儀への参列はご容赦ください」「家族葬です」などと書いてある場合は、一般の弔問客は葬式に参列できません。また、故人や遺族の意向で近親者のみで葬式を行ったあと、死亡通知状が送られてくるケースもあります。
葬式の案内がメールやSNSで届いた場合は、同じような手段で返信して問題ありません。ただし、絵文字や顔文字を使用するのはNGです。また、むやみに長い文章で返信するのは控えます。普段の会話ややり取りとは異なり、相手への配慮が必要です。
通夜に参列する
故人を葬る前に遺族や友人、知人が集まって、最後のお別れを済ませることを「通夜」といいます。もともとは夜通し行われていましたが、昨今では1~3時間程度で終了するのが一般的です。参列者は焼香をあげ、故人の遺族が用意した通夜振る舞いの料理やお酒をたしなみます。故人を悼み、供養するのが目的です。
大声で騒いだりデリカシーのない話題を出したりせず、マナーを守って故人との最後の夜を過ごします。
葬式・告別式で故人に別れを告げる
葬式は葬儀ともいい、遺族や参列者が故人の冥福を祈る儀式です。宗教観が色濃く反映され、仏教の場合は僧侶が読経や焼香を行い、キリスト教の場合は聖書の朗読やお祈りをささげて死者を葬ります。基本的には、葬式が行われるのは通夜の翌日です。
なお、告別式は宗教的な儀式を含まないセレモニーのことをいいます。弔電や弔辞を読んだり、喪主が挨拶を行ったりしたあと、焼香や献花を行うのが一般的です。
通夜の翌日に葬式・告別式として行う場合、先に葬式を行った後、そのまま告別式へと進みます。葬式・告別式を終えると出棺され、火葬が行われるのが一連の流れです。
火葬した故人を骨壷に納める
火葬は基本的に遺族だけで行われ、火葬されたあとの骨を長い箸を使い、二人一組で骨上げをして骨壷に収めます。足から順番に頭まで拾い上げたのち、最後に故人と最も親しかった人が喉仏を入れて、骨上げは完了です。
遺族や近親者が収骨を行うのが一般的ですが、喪主の許可を得られれば一般の参列者でも骨上げをすることができます。
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葬式に参列する際の服装に関するマナー
葬式は故人の死を悼む重要なセレモニーです。葬式に参列する際の服装にはマナーがあります。葬式に参列する機会はそう多くはないため、いざというときに失敗しないよう事前に知識を身に付けておきましょう。
男性
葬式に参列する際は喪服を着用します。ただし、突然の訃報により駆けつけることが多い通夜は、光沢のない生地で作られた濃紺や濃いグレーのスーツなどを着用してもマナー違反にはなりません。
葬式・告別式に参列する場合は、喪主・遺族であれば和装やモーニングスーツ、参列者であればブラックスーツを着用します。最近では、立場に関係なくブラックスーツを着用するのが一般的です。
ワイシャツは白無地で、レギュラーカラーかワイドカラーのものを着用します。ボタンダウンカラーはカジュアルな印象が強いので避けましょう。靴はシンプルなデザインの黒の革靴を着用します。エナメル製やローファーはNGです。靴下とネクタイは黒色の無地柄を選び、ベルトは装飾の無い黒無地のプレーンなデザインにします。腕時計はシンプルなもので、結婚指輪以外のアクセサリーは外して参列しましょう。
女性
女性が着用する服装は、ブラックフォーマルです。光沢のない生地で作られた黒色のワンピースやアンサンブルのことを指します。スカートの丈が短かったり、肌が露出したりするようなデザインはマナー違反です。
足元は黒の薄い生地のストッキング、靴は光沢のない黒の布もしくは革のパンプスを履きます。カバンは、黒の無地でシンプルなデザインを選ぶとマナー違反になりません。アクセサリーは白か黒のパールの一連ネックレスやイヤリング、もしくはピアスのみにします。メイクは控えめにし、長い髪の毛は束ねましょう。
子ども
子どもが葬式に参列する際は、学校の制服を着用します。制服がなかったり、まだ学校に通っていなかったりする場合は、できる限りフォーマルな服装を選ぶとマナー違反の心配がありません。トップスは白のポロシャツやワイシャツ、ボトムスは暗い色のスカートやズボンを選びます。キャラクターがついているデザインや派手な色合いの服装はカジュアルな印象を与えるので、避けましょう。
葬式の挨拶に関するマナー
葬式では、遺族に対して「お悔やみ申し上げます」や「ご愁傷様です」などの言葉を掛けます。誤った言葉を使うと失礼にあたるので注意が必要です。ここでは、葬式の挨拶に関するマナーを紹介します。
葬儀に参列する際に使う基本の挨拶
葬儀に参列した際には、遺族に対して「お悔やみの言葉」を述べます。よく使われるのは「ご愁傷様です」「お悔やみ申し上げます」「ご冥福をお祈りします」などです。
「ご愁傷様です」は、お悔やみの気持ちを伝える表現です。「お気の毒に思っています」「心を傷めていることに対し心配しています」という意味が込められています。
「お悔やみ申し上げます」は、遺族に哀悼の意を表す言葉です。非常に丁寧な表現であり、遺族の心情を思いやり、哀しみに寄り添う気持ちを表しています。
「ご冥福をお祈りします」は、故人に対して使う言葉です。仏教に基づいた言葉であり、故人が成仏し、死後の世界で平安に過ごせるよう祈る意味合いを持ちます。遺族に対して使うときは、「○○様のご冥福をお祈りします」というように故人の名前を付け加えるようにしましょう。
忌み言葉や重ね言葉は使用しない
お悔やみの言葉を述べるときは「忌み言葉」や「重ね言葉」に気を付けましょう。
忌み言葉とは、死を連想させたり、不幸・不吉を想像させたりする言葉です。遺族への配慮に欠けた言葉とされていて、葬式では使いません。忌み言葉には「終わる」「滅びる」「死ぬ」「別れる」などがあります。
また、同じ言葉を繰り返す「重ね言葉」も、不幸が繰り返されるとして葬式では使いません。たとえば、「重ね重ね」「つくづく」「くれぐれも」などが挙げられます。
普段何気なく使用している言葉が、葬式ではマナー違反になることもあります。遺族への思いやりに欠ける発言がないように注意が必要です。
遺族への挨拶は簡潔に済ます
葬式では遺族へ長々と話をせず、簡潔に挨拶を済ませます。遺族は親族が亡くなったことで精神的にも肉体的にも負担がかかっているため配慮が必要です。また、故人の死因を思い返すきっかけになり、更に傷つけてしまう可能性があるので、死因などを詳しく親族に尋ねるのは辞めましょう。
焼香の作法とマナー
仏式の葬式の最中に行われる焼香は、故人と向き合ってお別れをする大切な儀式です。ここでは、焼香の作法やマナーを紹介します。マナー違反で失礼にならないよう正しい作法を事前に知っておくと安心です。
焼香とは
焼香とは葬式の最中に香を焚いて、故人や仏に対して拝むことです。宗派によって回数や作法が異なります。焼香の目的は「焼香をした人の汚れを払い、身体を清めること」。香の匂いによって、自身を浄化して、邪気を払う意味があるのです。ほかにも、「故人への弔い」「仏への敬意を表す」「仏と故人に香りを捧げる」などの目的で焼香は行われます。
作法
一般的な焼香は立礼焼香・座礼焼香・回し焼香の3種類です。葬式会場の規模や様式、地域などによって異なります。
立礼焼香
立礼焼香とは、主に椅子席のある葬儀会場で行われる方法です。
【手順】
- 焼香台の手前に進み、遺族・僧侶へ順番に一礼
- 遺影に対して合掌し、一礼
- 焼香台の前に進む
- 右手の親指・人差し指・中指で香をつまみ、額の高さまで持ち上げる
- 指をこすりながら、香を香炉の中に落とす
- 遺影に合掌し、祈る
- 遺影のほうを向いたまま数歩後ろに下がり、遺族・僧侶へ順番に一礼
香を香炉へ落とす回数は宗派などによって異なります。
座礼焼香
座礼焼香とは、座ったまま焼香を行うことです。畳の部屋がある自宅や寺院などで行われます。
【手順】
- 中腰で焼香台の手前に進み、遺族・僧侶へ順番に一礼
- 遺影に対して合掌し、一礼
- 焼香台の前に正座して合掌する
- 右手の親指・人差し指・中指で香をつまみ、額の高さまで持ち上げる
- 指をこすりながら、香を香炉の中に落とす
- 合掌する
- 向きを変えずに、膝をついた状態で後ろに下がる
- 遺族・僧侶へ順番に一礼して、中腰で自分の席に戻る
立礼焼香の作法と順番はほとんど変わりません。移動は中腰で行い、焼香は正座したまま行うのが特徴です。
回し焼香
回し焼香は自分の席に座ったまま焼香を行い、終わったら香炉を隣の人に順番に渡す方法のことです。主に、会場が狭い場合に行われます。
【手順】
- 香炉が回ってきたら、会釈して受け取る
- 自分の膝の上に香炉をおいて、合掌する
- 焼香する
- 合掌して、一礼する
- 次の順番の人へ香炉を渡す
椅子席の場合は、座ったまま自分の膝に香炉を乗せて焼香を行います。
マナー
焼香の際は、数珠を手にもって行うのがマナーです。持っていない場合は、適切な数珠を準備しておきます。宗派によって種類が異なりますが「略式数珠」と呼ばれる数珠でも問題ありません。
焼香を行う際は、左手に数珠を持ち、右手で香をつまむのが基本です。数珠が長い場合は、輪にして重ねるように持つと扱いやすくなります。
焼香の回数は宗派によって異なります。ただし、大切なのは焼香の回数ではなく供養をする心です。相手の宗派に合わせて行うのが丁寧ですが、基本的に1~3回行えば問題ありません。
葬式の香典に関するマナーと相場金額
香典とは、亡くなった方に供える金銭のことです。香典の金額や渡し方にもマナーがあります。香典を包む額は故人との関係性によって異なりますが、金額や渡し方によっては失礼にあたるので注意が必要です。ここでは、香典に関するマナーについて解説します。
香典袋の選び方
香典袋とは、香典を入れる封筒のことです。文具店やスーパー、ドラッグストア、コンビニなどで購入できます。
仏式の葬式の場合、黒・白や銀・白、黄・白などの水引がかかった封筒を準備します。香典の金額が5000円程度の場合は水引が印刷されている封筒、1万円以上の場合は、実際に水引がかかっている香典袋を準備すると良いでしょう。
キリスト教の葬式の場合、仏式の香典袋を準備するのは失礼です。十字架や百合の花が印刷された封筒や白の熨斗袋を準備します。
渡し方
香典袋は、「袱紗(ふくさ)」に包んでから持参します。袱紗とは、冠婚葬祭時にお金を入れた封筒を包む布のことです。
香典は受付で記帳を済ませたあとに渡します。袱紗から香典袋を取り出し、相手にのし書きの文字が見える向きで渡すのがマナーです。また、「この度はご愁傷様です」や「心からお悔やみ申し上げます」など、お悔やみの言葉を一言添えてから渡しましょう。
通夜・葬式と2回に分けて、香典を渡すことは「不幸が重なる」とされ、失礼にあたります。両日参列する場合は、どちらかで渡すのがマナーです。
一方、通夜や葬式に参列できない場合や葬式後に亡くなったことを知った場合など、当日に香典を渡せないときは「郵送で送る」、もしくは「後日弔問して渡す」方法でも問題ありません。
相場金額
香典の金額は、故人との関係性によって異なります。香典の一般的な金額は以下のとおりです。
関係性 |
香典の相場金額 |
自分もしくは配偶者の親 |
5万円~10万円 |
自分もしくは配偶者の祖父母 |
1万円~3万円 |
自分もしくは配偶者の兄弟姉妹 |
3万円~5万円 |
親戚のおじ・おば |
1万円~2万円 |
友人・知人もしくは友人・知人の親 |
3000円~1万円 |
ご近所の方 |
3000円~5000円 |
上司 |
5000円~1万円 |
上司の家族・同僚・部下・部下の家族 |
5000円 |
同僚の家族 |
3000円~5000円 |
香典の金額やお札の枚数を偶数にするのは良くありません。割り切れる数字は「縁が切れる」「故人とのつながりが切れる」との意味から避けられています。9も「苦」を連想することから避けるのが一般的です。
なお、金額が多ければ良いというわけではありません。香典返しの際に、遺族に負担を掛ける可能性もあるので注意しましょう。
葬式は冠婚葬祭のうちの「葬」に当てはまります。冠婚葬祭の意味やマナーについては「冠婚葬祭って何のこと?外国人に向けて意味や該当する儀式を紹介」「冠婚葬祭のマナーが知りたい!結婚式と葬儀の参列方法について解説」にまとめています。
葬式の会食に関するマナー
日本の葬式では、通夜のあとに「通夜ぶるまい」や法要のあとに「精進落とし」などの会食の場が設けられます。喪主や遺族が弔問客に対して感謝の気持ちを示して、故人との思い出をしめやかに語る場です。ここでは、葬式の会食に参加する際のマナーについて解説します。
遺族への配慮を欠かさない
遺族に対して、故人を亡くした悲しみや寂しさを気遣うことは忘れてはいけません。また、大切な家族の死や葬儀で心も身体も疲弊している可能性があります。会食に参加する際は、遺族への配慮を欠かさないようにしましょう。
個人の死に直結する話題は避ける
遺族を余計悲しませてしまったり、寂しくさせてしまったりする可能性があるため、故人の死に直結する話題は避けます。故人の話をする際は、生前の楽しいエピソードなど明るい話題がおすすめです。
大騒ぎしない
会食は飲み会や宴会ではありません。必要以上に飲みすぎたり、騒いだりすることはマナー違反です。出席者たちが集って、故人を偲ぶ場であることを忘れずに、節度ある行動を心がけましょう。
まとめ
葬式は、亡くなった方とのお別れやお見送りをする儀式です。故人を悼む重要なセレモニーであり、喪服の選び方や挨拶の仕方、焼香の作法、香典の渡し方など、守らないと失礼にあたるマナーがたくさんあります。葬式に参列する際は、遺族への心情や体調を配慮することが大切です。正しいマナーを守り、遺族への配慮を欠かさないように心がけましょう。