中国の古典に書かれている逸話や出来事のうち、教訓や風刺として現代まで伝わった言葉を「故事成語(こじせいご)」といいます。故事成語にはもとになっているエピソードがあり、教訓や戒めなどを説いているのが特徴です。現代でも会話や文章で頻繫に用いられるので、日本語を自然に使いこなすうえでは習得が欠かせません。
この記事では、かっこいい故事成語を厳選して紹介。意味・使い方・由来についても解説しています。日本語についての理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。
目次
故事成語とは
故事成語とは、歴史上の出来事や古典文学のエピソードから生まれた言葉や表現です。おもに古代中国の出来事がもとになっていて、教訓や知恵を表しています。「四面楚歌(しめんそか)」や「虎穴に入らずんば虎子を得ず(こけつにいらずんばこじをえず)」「呉越同舟(ごえつどうしゅう)」などがその一例です。故事成語は漢字四文字に限らず、短い言葉から長い表現まであり、文字数に決まりはありません。
故事成語と混同しやすい言葉に「ことわざ」があります。ことわざも昔から伝わる教訓や価値観のことですが、違いは「由来が中国の逸話や物語であること」です。ことわざは出典が明らかでないことが多いですが、故事成語は古い出来事に由来しています。
「人生にまつわることわざ一覧!意味を知って先人からの教訓を学ぼう」や「面白いことわざを知って日本語の学習に役立てよう!」でも、ことわざについてまとめているのでぜひご覧ください。
ピックアップ記事
漢字がかっこいい故事成語
以下は使われている漢字がかっこいい故事成語です。「竜」や「虎」などの漢字を使った故事成語は、勇ましい意味があります。
画竜点睛
画竜点睛(がりょうてんせい)は、「何かを仕上げるときに最後に行う重要な仕上げ」を意味する故事成語です。中国の書物『歴代名画記』によると張という中国の画家が、自分の書いた竜の絵に眼を書き入れたら動き出して天に登っていったという話から作られました。少し手を加えることで全体が引き立つことを意味します。よく使われる表現が「画竜点睛を欠く」です。最後の仕上げが抜けているものに対して使います。
「竜」という漢字に、かっこよさを感じられる故事成語です。
風林火山
風林火山(ふうりんかざん)は、「風のように早く動き、林のように静かに待ち、火のように激しく攻め、山のように守る」という意味です。戦国時代の武将である「武田信玄」が戦のときに掲げる旗に書いていた文章から生まれました。軍旗には「疾如風、徐如林、侵掠如火、不動如山」と書かれていて、軍隊の理想的な行動形態を表しています。
時代劇ドラマのタイトルにもなっており、勇ましくかっこいい故事成語の題名詞といえるでしょう。
大器晩成
大器晩成(たいきばんせい)とは、「偉業を成し遂げたり、偉大な人物になったりするには時間がかかる」という意味です。中国の書物『老子道徳経』が由来となっており、「大きな器を完成させるには時間がかかる」ことを表しました。現在ではポジティブな意味として、人を褒めたり、激励したりするときに使われています。「大器」は、並外れた才能や器量をそなえた人物を表す言葉です。
座右の銘にも使われることもあり、コツコツと努力を続けるようなかっこいい人を連想させます。
青天の霹靂
青天の霹靂(せいてんのへきれき)は、「青空に突然鳴り響く雷のような、突発的に発生する出来事」を表す故事成語です。思いがけない驚きの感情を意味していて「あの人が会社を辞めるなんて青天の霹靂だ」といった使い方をします。
漢字だけでなく語感も良いので、歌や小説のタイトルとしても人気の言葉です。
月に叢雲花に風
月に叢雲花に風(つきにむらくもはなにかぜ)は、「良いことには差し障りが多く、長続きしないこと」を意味します。月に叢雲(集まった雲)がかかるように、咲く花には風が吹くように、何事も邪魔が入り長続きしないことの例えです。
「月」「花」「風」の漢字が入っているので、優雅で華やかなかっこよさがあります。
虎穴に入らずんば虎子を得ず
虎穴に入らずんば虎子を得ず(こけつにはいらずんばこじをえず)は、「成功するためにときには危険を冒すことも必要だ」という意味です。中国の『後漢書』によると、漢の時代に武将である「班超」が兵士の士気を高めるために言った言葉といわれています。
力強い「虎」という漢字と勇気を奮い立たせるような意味がかっこいい故事成語です。
天網恢恢疎にして漏らさず
天網恢恢疎にして漏らさず(てんもうかいかいそにしてもらさず」)は、「天罰からは逃れられないこと」を意味します。古代中国の思想家「老子」の言葉に由来する故事成語です。天が張った網(天網)は荒いように見えて、実は細かく悪事を逃さないため、行動を慎まなければならないという教えを表しています。
リズムが良い言葉であり、思わず口に出してみたくなる故事成語です。
群羊を駆って猛虎を攻む
群羊を駆って猛虎を攻む (ぐんようをかってもうこをせむ)は、「弱いものを集めて強い存在に立ち向かう」という意味です。また、努力しても勝ち目がないことを例えるときに使われます。中国の『戦国策』という書物が由来となっていて、弱い羊でも群れをなせば獰猛な虎に勝てるかもしれないという表現から生まれた故事成語です。
雲は竜に従い風は虎に従う
雲は竜に従い風は虎に従う(くもはりゅうにしたがいかぜはとらにしたがう)は、「似た性質を持った者同志が求め合う」という意味です。『易教』という書物が由来とされています。龍は雲を伴って勢いを増し、虎は風を呼ぶということから、物事はそれぞれ相応しいものを伴うことによってうまくいくことを表した言葉です。また、立派な君主のもとには優れた臣下が現れる例えでもあります。
「竜」や「虎」など強い生き物を表す漢字が使われる、かっこいい故事成語です。
蛍雪の功
蛍雪の功(けいせつのこう)は、「苦労して勉強し、成果を出すこと」を意味します。由来は、中国の書物『蒙求』に掲載されている故事です。「貧しくて灯油を買うお金がなく車胤(しゃいん)という人物が、夏の夜に蛍を集めてその光で勉強した」という話と、「孫康(そんこう)という人物が、冬の夜に雪明りを利用して勉強した」という話から来ています。
苦労や努力を重ねて勉強した結果、目標や成果につながったときに使う言葉です。
ここで紹介した故事成語にはかっこいい漢字が使われています。「美しい日本語といえば?言葉の意味や使い方を知ろう」には自然や四季にまつわる美しい日本語がを紹介しています。
意味がかっこいい故事成語
ここでは、意味がかっこいい故事成語を紹介します。物語やアニメなどでもよく使われる言葉です。
唯我独尊
唯我独尊(ゆいがどくそん)は、「人は一人一人尊い存在である」という意味です。諸説ありますが、仏教の開祖であるお釈迦様が広めたとされています。なお、現在はさまざまな解釈が広まり、「自分が誰よりも優れた人である」という意味にとらえる人も多いようです。
バトル漫画やアニメの強いキャラクターのセリフとして用いられ、かっこいい言葉として人気があります。
温故知新
温故知新(おんこちしん)の意味は「過去の出来事や教訓を研究し、新たな知識や見解を得ること」です。『論語』という中国の書物が由来となっており、原文では「温故而知新 可以為師矣(故きを温ねて新しきを知らば、以って師となるべし)」と書かれています。「古くから伝わる教えを大切にして、新しい知識を得ることが大切である、そうすれば誰かに教える師となることができる」という意味です。
温故知新には過去の出来事や創立者の考えを大切にして、仕事や学業などに役立てるというポジティブな意味があるため、社訓や校訓にもよく使われます。
不撓不屈
不撓不屈(ふとうふくつ)は「どんな困難にも強い意志を持って負けない」という意味です。中国の書物『漢書』に記載されていた言葉が語源とされています。不撓不屈は揺るぎない意志や固い意志を表明するときに使われる故事成語です。ビジネスやスポーツの場面では、「不撓不屈の精神」「不撓不屈の人物」などと使います。
どんな窮地に追い込まれても諦めずに困難に立ち向かう姿勢を表す故事成語として、座右の銘にしている人も少なくない言葉です。
雨垂れ石を穿つ
雨垂れ石を穿つ(あまだれいしをうがつ)には、「小さなことでも諦めずに続ければ大きな結果に繋がる」という意味があります。雨垂れとは、軒からしたたる雨粒のことです。雨粒でも長い時間をかけて落ち続ければ、いずれ石に穴をあけられる可能性があるので諦めずに取り組む大切さを説いています。
座右の銘だけではなく、勉強や仕事で自分や周囲の人を鼓舞するときに使える故事成語です。
勝って兜の緒を締めよ
勝って兜の緒を締めよ(かってかぶとのおをしめよ)は、日本の戦国大名である北条氏綱が『五箇条の御書置』に遺した言葉の一節とされています。「兜」は戦国時代に使われていた頭に被る防護用の防具で、「緒」は顎で結ぶ紐のことです。戦に勝利しても油断せず、改めて兜の緒を締め直して常に緊張感を持つべきということから「物事が順調なときや成功したときほど気を抜くべきではない」ことを意味します。
有終の美を飾る
有終の美を飾る(ゆうしゅうのびをかざる)は、「素晴らしい結果を最後に残して終わる」という意味です。スポーツ選手が引退するときや仕事を退職するときなど、最後までやり遂げて結果を出した人を称賛するときに使われます。語源は諸説ありますが、中国の詩集『詩経』に書かれていた「初めあらざるなし、克く終わること鮮なし(すくなし)」からきているとの説が有力です。
最後を素晴らしい結果で締めくくるかっこよさを表した故事成語といえます。
心頭滅却すれば火もまた涼し
心頭滅却すれば火もまた涼し(しんとうをめっきゃくすればひもまたすずし)は、「心を無にすれば、苦痛を感じなくなる」という意味です。語源には諸説ありますが、戦国時代の僧侶である快川禅師が敵陣に追い込まれた際に最後に残した言葉から広がったとされています。
どのような苦しみのなかにあっても、心をコントロールする方法さえ取得できれば乗り越えられるという教訓が込められています。
能ある鷹は爪を隠す
能ある鷹は爪を隠す(のうあるたかはつめをかくす)は、「本当に能力がある人ほどむやみに力や技術をひけらかさない」という意味です。他人を評価するときに使い、自分には使いません。獲物を油断させておいて、いざというときに鋭い爪を出して一気に捕まえる鷹の習性を用いた表現として古くから使われてきました。戦国時代の武将である「北条氏直」が書いた書物にも記載されている言葉です。
強さをひけらかす人より、控えめに見えていざというときに能力を発揮する人のほうがかっこいいという意味があります。
立つ鳥跡を濁さず
立つ鳥跡を濁さず(たつとりあとをにごさず)は、「見苦しくないように身辺をきれいにしてから去るべき」という意味です。水鳥がほかの住処に移動するときに、水辺を汚さずに飛び立つことから生まれました。戦国時代の武将である「北条氏直」が書いた書物にも記載されていることから、古くから使われていたとされています。
塞翁が馬
塞翁が馬(さいおうがうま)とは、「人生で「幸福」と「不幸」は転々として予測できない」という意味です。中国の哲学書『淮南子(えなんじ)』に記載されているエピソードが由来となっています。
塞翁が馬は目の前の出来事を「幸せ」とも「禍(わざわい)」とも捉えることができるという意味があり、解釈を広げる故事成語です。座右の銘としても好まれています。
かっこいい故事成語を座右の銘にしてみよう
かっこいいと感じる故事成語を見つけたら、座右の銘にしてみましょう。座右の銘とは、自分が常に心に留めておく目標となる言葉です。座右の銘によってその人の信念が分かるので、自己紹介のときや面接で聞かれる場合もあります。
たとえば、人に思いやりをもって接していきたいと考えるなら、座右の銘は「己の欲せざる所は人に施すなかれ(おのれのほっせざるところはひとにほどこすなかれ)」がぴったりです。自分がしてほしくないことは相手にもしてはいけないという意味があります。
まとめ
故事成語とは昔の話や出来事から生まれた教訓で、多くは中国の書物が由来となっています。見慣れない漢字や現代では使われていない言い回しがあり、覚えるのは簡単ではありません。しかし、かっこいい故事成語から覚えていくと、楽しく勉強できるでしょう。お気に入りの故事成語を見つけて、日常生活でも使ってみてください。