『源氏物語』『坊ちゃん』『人間失格』などの作品は、日本文学のなかでも特に有名です。芥川龍之介や村上春樹といった日本文学の著名な作家は、普段読書をしない人も耳にしたことがあるでしょう。このコラムでは、日本文学のなかでも特にメジャーな作品や作家について解説します。日本の代表的な文学賞やノーベル賞を受賞した作品の紹介もしているので、これから読む本を探す参考にご覧ください。
目次
日本文学の概要と文学賞
ここでは、日本文学の概要と日本で有名な文学賞について解説します。
日本文学とは?
日本文学とは、日本語で書かれたり日本人が書いたりした文学作品のことです。また、文学作品や作品の制作者を研究する学問のことも指します。
日本文学はジャンルが多彩です。小説や物語だけでなく、随筆や日本固有の形式を持つ和歌も含まれています。多くの作品で日本の四季や自然の様子、個人の内面が繊細に描かれているのが魅力といえるでしょう。
日本の文学賞
日本には数多くの文学賞があります。中でも有名なのが、小説を対象とした芥川賞・直木賞・乱歩賞です。この3つの文学賞は偉大な日本文学の作家名から付けられており、対象となる小説のジャンルが異なっています。
芥川龍之介賞(芥川賞)
芥川龍之介賞は、大正時代の有名な小説家である芥川龍之介の功績を記念して作られました。通称は「芥川賞」と呼ばれています。新人作家が書いた小説のなかでも、文章自体の面白さや美しさを重視している純文学の作品に与えられる文学賞です。発表済みの中編・短編小説が対象となり、年に2回、1月と7月に受賞作の発表が行われます。
直木三十五賞(直木賞)
「官能小説の依頼をこなしていかないと、未来はないだろうと…」窪美澄(56)が直木賞受賞作で“封印したもの”とは
— 日本文学振興会 (@shinko_kai) July 25, 2022
『夜に星を放つ』直木賞受賞インタビュー#1 #文春オンライン https://t.co/WiJpBNhSIQ
直木三十五賞は(なおきさんじゅうごしょう)、通称「直木賞」と呼ばれています。新人・中堅作家が発表した、エンターテインメント性の強い大衆小説に与えられる賞です。1970年ごろから中堅作家の書いた作品がよく選ばれるようになり、近年ではベテランの小説家が受賞することもあります。
江戸川乱歩賞(乱歩賞)
江戸川乱歩賞は通称「乱歩賞」と呼ばれ、優れた長編ミステリー小説に授与されます。推理作家である江戸川乱歩の寄付を元にして、日本推理作家協会が探偵小説を推奨することを目的に創設しました。新人がデビューするために応募する賞として知られており、のちにベストセラー作家となる小説家を多く生み出しています。
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ノーベル文学賞を受賞した日本の有名な文学作家
ノーベル文学賞は6つあるノーベル賞のうちの一つで、文学の分野において傑出した作品を創作した人物に授与される賞です。過去にノーベル賞受賞歴のある、日本の有名な文学作家を紹介します。
川端康成
川端康成(かわばたやすなり)は1968年に日本人として初めてノーベル文学賞を受賞しました。日本文学の最高峰といわれる作家で、『伊豆の踊子』『雪国』などの作品で知られています。日本の風景や人々の心情を描いた繊細な表現が魅力の近代日本文学を代表する作家です。なかでも、『雪国』の冒頭である「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。」は、名文として語り継がれています。
大江健三郎
1994年に日本人で2番目のノーベル文学賞に選ばれたのが大江健三郎(おおえけんざぶろう)です。1958年に短編小説『飼育』を発表し、当時最年少の23歳にして芥川賞を受賞しました。そのあとも、『個人的な体験』『万延元年のフットボール』などを発表し続け、多くの賞を受賞しています。戦後民主主義の支持者として、国内外における社会的な問題への発言を積極的に行っている作家です。
カズオ・イシグロ
2017年にノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロは、長崎県出身のイギリス国籍を持つ小説家です。ノーベル賞の主催するノーベル財団は受賞者の出生地で何人かを判断するため、カズオ・イシグロは日本人作家としてカウントされます。
1989年に発表した『日の名残り』では、35歳という若さで英語圏最高の文学賞とされるブッカー賞を受賞しました。ほかにも、『浮世の画家』『わたしを離さないで』などの代表作があります。
日本人には、ほかにも多数のノーベル賞受賞者がいます。興味がある方は、「ノーベル賞を受賞した日本人を年代別に紹介!分野についても解説」のコラムもご覧ください。
多くの人に知られている日本文学の名作5選
日本文学には多くの名作があります。ここでは、広く知られている小説のなかから5作品を紹介するので、日本文学の名作について知識を深めてください。
1.源氏物語(紫式部)
源氏物語は平安時代中期に書かれた小説で、文献が初めて確認されたのは1008年といわれています。作者は日本文学を代表する作家の一人である紫式部(むらさきしきぶ)で、源氏物語は唯一の長編作品です。主人公は貴族の光源氏で、平安時代の華やかな生活が描かれています。恋愛や名声、没落といった、いつの時代でも変わらない人間の喜びや悩みが書かれており、長年に渡り人々を惹きつけている名作です。
2.坊ちゃん(夏目漱石)
『坊ちゃん』は、近代日本文学の文豪といわれる夏目漱石(なつめそうせき)によって書かれました。舞台は明治時代の日本で、教師をしている主人公の坊ちゃんが四国の学校で働く場面から始まります。正義感の強い坊ちゃんや学校で働く個性的な先生などの登場人物が、生き生きと描かれているのが魅力です。また、テンポの良い文体も名作といわれる理由の一つといえます。
3.風立ちぬ(堀辰雄)
風立ちぬは堀辰雄(ほりたつお)による中編小説で、作者の実体験を元に書かれた作品です。避暑地で出会った主人公と節子は恋に落ち、東京に帰った後に婚約します。しかし、節子は当時不治の病といわれていた結核に罹っており、空気のきれいな高原で療養することになるのです。主人公は節子と共に療養所で過ごすなかで、二人一緒にいられる幸せを感じます。夫婦の愛の深さや高原の美しい自然が丁寧に描かれている、日本文学の名作といえるでしょう。
4.人間失格(太宰治)
人間失格は太宰治(だざいおさむ)によって書かれた日本文学の小説です。人と関わるのが苦手な主人公は、わざとおどけた態度をとって打ち解けようと努力します。しかし、上手くいかず酒やタバコ、違法薬物にのめり込み、ついには自殺未遂を起こすのです。自分の人生を振り返り、「恥の多い生涯を送ってきました。」と振り返る主人公は、自らを人間失格と称します。人間の孤独や悲哀を描いた作品です。
5.ノルウェイの森(村上春樹)
Pain is inevitable. Suffering is optional.
— Haruki Murakami (@harukimurakami_) March 26, 2023
『ノルウェイの森』は1987年に発表された、村上春樹(むらかみはるき)による日本文学の作品です。主人公ワタナベ・トオルはハンブルク空港の飛行機の中でビートルズの『ノルウェイの森』を聞き、大学時代を思い出します。精神を病んでしまった直子や同じ大学に通う緑との交流を軸に話が進んでいく恋愛小説です。さまざまな言語に翻訳されており、世界中で読まれている日本文学の作品といえるでしょう。
日本文学は小説以外のジャンルにも名作があります。「外国人にも人気のある俳句とは?英語で詠むHAIKUのルールも解説」のコラムでは俳句の名作を紹介しているので、ぜひご覧ください。また、「日本の有名な童話のタイトルやあらすじを外国人向けに紹介!」のコラムでは、古くから伝わる物語や有名な童話作家をまとめています。小説以外の日本文学に興味がある方はこちらのコラムも読んでみてください。
各時代の代表的な日本文学の作品
日本文学は長い歴史を持ち、1300年以上前から現代に至るまでの多くの作品が誕生してきました。ここでは、各時代の代表的な日本文学の作品を紹介します。
- 奈良時代:作品名『古事記』『日本書紀』選者「太安万侶」
- 平安時代:作品名『古今和歌集』選者「紀貫之」「紀友則」「壬生忠岑」「凡河内躬恒」、作品名『枕草子』作者「清少納言」
- 鎌倉時代:作品名『平家物語』作者不詳、作品名『徒然草』作者「吉田兼好」
- 江戸時代:作品名『奥の細道』作者「松尾芭蕉」、作品名『東海道中膝栗毛』作者「十返舎一九」
- 明治時代:作品名『舞姫』作者「森鴎外」、作品名『みだれ髪」作者「与謝野晶子」
- 大正時代:作品名『羅生門』作者「芥川龍之介」、作品名『城の崎にて』作者「志賀直哉」
- 昭和時代:作品名『細雪』作者「谷崎潤一郎」、作品名『仮面の告白』作者「三島由紀夫」
- 平成時代:作品名『1Q84』作者「村上春樹」、作品名『コンビニ人間』作者「村田沙耶香」
以上の作品は、日本文学の一部に過ぎません。ほかにも数多くの名作が時代を超えて幅広い世代に愛されています。
まとめ
日本文学には長い歴史があり、数多くの名作が生まれてきました。特徴として、日本の四季の風景や人間の複雑な内面が細やかに書かれていることが挙げられます。なかには、1000年以上もの昔に生まれて現代まで読み継がれている作品もあり、多くの人を惹きつける魅力があるといえるでしょう。ぜひ日本文学に触れて、お気に入りの一冊を見つけてみてください。