美しい風景や街並みを、日本人は「風情(ふぜい)がある」と表現する場合があります。複数の意味があるため、使い方がよく分からない方もいるでしょう。風情とは、その場に流れる雰囲気に心惹かれた心情を表現する言葉です。
この記事では、風情の意味や語源、使い方を解説しています。そのほか、風情を使った例文や風情を感じるスポットについても紹介。風情の意味や使い方を知り、日本の美的感覚や文化に触れてみてください。
目次
風情とは
「風情」とは、上品で味わい深く、趣きがある状態のことを意味する言葉です。日本に存在する美意識の一つで、古くからある建物や景色、自然に対して使います。
風情の読み方は「ふぜい」もしくは「ふうじょう」です。一般的には「ふぜい」と読みます。
風情には、ほかにも「様子」「~のような者」「~ごとき」という意味があり、前後の文章の内容によって意味が異なるのが特徴です。
ピックアップ記事
風情を使った例文
ここでは、風情の使い方を「伝統美や雰囲気を感じたとき」「様子」「~ごとき」の3つの意味に分けて紹介します。「風情」の意味は文脈によって変わり、言い方を間違えると失礼にあたることもあるので、使い方をしっかり理解しておきましょう。
伝統美や雰囲気を感じたとき
【例文1】
-
夏の夜空に花火が上がり、風情を感じます
-
あの温泉地の名所は風情のある旅館だ
-
高層ビルができたら、せっかくの風情がなくなる
日本の伝統的な美や雰囲気を感じられるときの感情を表した使い方です。歴史が浅いものや現代的なものに対してはあまり使いません。
様子
【例文2】
-
彼の奇抜な風情が人気の理由らしい
-
いつでもいいよという風情で待ち構えている
-
その風情から話しかける人はいない
風情は、「様子」や「ありさま」という意味でも使います。
~のような者・~ごとき
【例文3】
-
私風情が恐れ多いのですが申し上げます
-
学生風情で許されることではない
-
サラリーマン風情で数日で億を稼ぐというのか
「~のような者」「~ごとき」という意味です。
なお、他人の身分や職業に「~風情」をつけて馬鹿にしたり侮蔑したりする表現は、ドラマや漫画、アニメなどでしか使われません。失礼な表現になるので、日常生活では使わないようにしましょう。
風情の類義語
風情には、似た意味を持つ言葉がいくつかあります。たとえば、雰囲気が感情を揺さぶる様子を表した「情緒(じょうちょ)」や、景観から感じられる趣きを意味する「風趣(ふしゅ)」です。
ここでは、風情の言い換え表現や使い方、風情との違いを紹介します。
佇まい(たたずまい)
佇まい(たたずまい)は、「立っている様子」「ありさま」という意味です。
「~な佇まい」と、形容詞と一緒に使います。流れる雰囲気そのものを指す言葉で、風情と似た使い方ができる言葉です。
また、「風情のある佇まい」という表現もよく使われています。昨今では「オーラがある」「オーラを感じる」という言い方で、佇まいを表現する若者も増えてきました。
雰囲気(ふんいき)
雰囲気(ふんいき)とは、場所や人々が作り出す空気感のことです。
日常会話では風情よりも一般的に使われています。なお、日本人は発音のしやすさから「ふいんき」と言う人が多くいますが、正しくは「ふんいき」です。
風情は主に自然や景色などに対して使いますが、雰囲気は人に対しても使えます。「雰囲気がある人」とは、独自のオーラを持っている人という意味です。相手の存在感を称える褒め言葉として使います。
風流(ふうりゅう)
風流(ふうりゅう)は、品のあるおもむきを表現する言葉です。
本来は貴族階級独特の美意識を表す言葉でした。現代では祭りや芸事、芸術品を褒めるときによく使われます。
風情は自然に生まれた空気感に対して、風流は人間が生み出したものに対して使う言葉です。
しかし、日常会話のなかではそこまで明確に使い分けられてはいません。創作物に対して「風情がある」と言ったり、自然の風景を見て「風流だね」と言ったりすることもあります。
情緒(じょうちょ)
情緒(じょうちょ)とは、物事に触れて発生する微妙な心の動きそのものや感情を呼び起こす雰囲気を意味する言葉です。たとえば、「異国情緒(いこくじょうちょ)溢れる町」は「外国にいるような気持ちになる町」という意味に解釈されます。
風情は客観的に見た様子にも使いますが、情緒は主観的な感情を表します。
風趣(ふうしゅ)
風趣(ふうしゅ)は人や物、風景におもしろさを感じたときに使います。使い方は「風趣がある」「風趣に富んでいる」などです。対象が独特な雰囲気やセンスをもっていることを表します。
なお、風情と比べると認知度が低く、日本人であっても通じない場合があります。
風格(ふうかく)
風格(ふうかく)は人柄や品格を意味する言葉です。
人に対して使う場合は、態度や容姿に現れる雰囲気や品格を表現し、「彼はスターのような風格がある」など誉め言葉として使います。
また、人に対してだけでなく、威厳や趣が感じられる建物や景色、植物にも使うことができる言葉です。「神社の横には風格ある大木が立っている」など、堂々とした様子を表します。
風情や風流、風格など美しい響きの日本語をもっと知りたい方は「美しい日本語といえば?言葉の意味や使い方を知ろう」をご覧ください。
風情を外国語で表現すると?
風情は日本人独特の美の感性を表しています。そのため、風情は、ほかの言語に直訳するのは難しい言葉です。外国語で表す際は、似た意味の言葉を使って表現します。
英語
英語で表現するなら「tasteful(趣味の良い・独特の)」「atmospheric(趣きのある)」「elegant (上品な)」「poetic(詩的な)」です。会話の内容や文脈に合わせて使い分けると良いでしょう。
韓国語
韓国語では、趣のあるという意味の「운치」が最も近い表現です。また、情緒を指す「정취」でも、会話のニュアンスは伝わります。
中国語
中国語ではみやびなことを表す「雅致」や、しみじみとした味わい・趣という意味の「情趣」です。この言葉は日本でも雅致(がち)、情趣(じょうしゅ)の読み方で使われており、意味もそのまま通じます。
風情を感じるおすすめスポット
風情あふれる観光地が多く、伝統的な雰囲気を感じられる日本。ここでは、風情が感じられる日本の名所を紹介します。気になる名所に実際に足を運び、風情を感じてみてください。
花見小路通(京都府)
京都市東山祇園町にある花見小路通(はなみこうじどおり)は風情ある観光地として有名です。
石畳が敷き詰められた道にはお茶屋や料亭が並び、散策を楽しめます。通りを歩く舞妓さんや芸妓さんの姿を見られることから、観光客も多く訪れる場所です。
夜には通りの提灯に明かりが灯り、石畳は照明に照らされて、昼とは異なる幻想的な雰囲気を味わえます。
伊香保温泉(群馬県)
引用:渋川伊香保温泉観光協会
伊香保温泉(いかほおんせん)は、群馬県渋川市伊香保町にあります。
湯治場としても有名で、歴史のある温泉街です。景色が楽しめる温泉に浸かったり、浴衣を着て古い町並みを散策したり、風情を感じながら身体や心を癒せます。
なかでも、365段ある長い石段は風情を感じる場所の一つです。石段の両脇にはレトロな雰囲気のお店が立ち並んでいて、味わい深い景色を楽しむことができます。
川越市街(埼玉県)
埼玉県川越市は江戸時代の城下町として栄えた地です。現代でも江戸の面影を残しており、「小江戸」と呼ばれています。
なかでも、「蔵造りの街並み」や「時の鐘」などがある一番街は、歴史的な建物や町並みを感じられる場所です。そのほか、昔ながらの駄菓子を楽しめる「菓子屋横丁」や風情を感じる建物が並ぶ「大正浪漫夢通り」、食べ歩きができるお店が並ぶ「小江戸蔵里」といった風情を感じるスポットが多々あり、多くの観光客で賑わっています。
ひがし茶屋街(石川県)
石川県金沢市の「ひがし茶屋街」は江戸時代から続く茶屋街の1つです。
金沢には「ひがし茶屋街」「にし茶屋街」「主計町(かずえまち)茶屋街」という3つの茶屋街があり、なかでもひがし茶屋街は、江戸時代の面影が残る街並みで多くの観光客が訪れています。
国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されていて、風情ある街並みを楽しむことができるスポットです。
倉敷美観地区(岡山県)
引用:岡山観光WEB
岡山県倉敷市にある倉敷美観地区は、江戸時代に代官所が置かれていた商業地区です。
倉敷川沿いには、塗屋造りの町家や白壁土蔵造りの建物が多く立ち並んでいて、江戸時代の面影を感じられます。倉敷川では、観光川舟も運航されているので、川舟から町並みを眺めてみるのも良いでしょう。
飛騨高山(岐阜県)
引用:飛騨高山旅ガイド
「飛騨の小京都」と呼ばれる高山市は、岐阜県の北部にあります。
江戸時代以降の城下町が保全されている場所です。メインの大通りには、江戸時代末期の町家や商家が立ち並んでいます。
飛騨高山の伝統工芸を体験できる場所や風情を感じる町並みを楽しめる人力車などもあり、多くの観光客が訪れるスポットです。
銀山温泉(山形県)
引用:銀山温泉案内所
銀山温泉は、山形県尾花沢市にある温泉です。
温泉街の中心を流れる銀山川には多数の橋がかけられ、両岸には大正時代から昭和初期に建てられた木造の旅館が立ち並んでいます。暗くなると歩道のガス灯に火がともり、幻想的な雰囲気に。雪の降る時期はより一層ノスタルジックで、風情を感じられます。
日本の伝統的な建造物には風情があります。「日本建築の特徴とは?歴史や有名な建物も紹介」の記事では、日本各地の風情がある建物を紹介しています。
まとめ
風情とは、伝統的な建物や美しい景色、自然などが上品で味わい深い状態を表す言葉です。「風情がある」「風情を感じる」というような使い方をします。なお、「私風情が」「学生風情で」といった使い方をすると、「~のような者」「~ごとき」という意味になり、失礼な表現になるので注意が必要です。
風情の意味や正しい使い方を知り、日本語の奥深さに触れてみてください。