複数の語が合わさって1つの意味を持つ言葉を、日本では「ことわざ」「慣用句」といいます。どちらも日本語の会話でよく使われる表現なので、聞いたことがある方もいるでしょう。ことわざや慣用句を覚えると、日本語の文章や会話での表現の幅が広がります。
この記事では、ことわざと慣用句の違いを紹介。日本語を勉強する方向けに、おすすめの勉強方法や有名なことわざ・慣用句もまとめています。
目次
ことわざと慣用句の違いとは
風刺や教訓、知識などを含んだ言葉はことわざ、長期にわたって世間で使われてきた言い回しは慣用句というように、大まかな違いがあります。しかし、日本語の中にはことわざと慣用句の両方の性質を持つ言葉もあるため、一概には区別できません。
ことわざと慣用句にはそれぞれ異なる特徴があるものの、どちらにも属する言葉があることを覚えておきましょう。
慣用句とは
慣用句は、2つ以上の語を組み合わせたときに特別な意味を持つ言葉です。慣用とは、世間で習慣的に長く使われることを意味します。つまり、慣用句は多くの人々が使い慣れた言い回しや表現を表すのです。たとえば、偉そうな態度で人に命令をすることを「あごで使う」、気持ちが通じ合っている状態を「息が合う」といいます。説明したい内容を別の言葉に例える比喩表現が多いのが、慣用句の特徴です。
ことわざとは
簡単な言葉に複雑な意味が込められているのがことわざの特徴です。十分な力を持つ人がさらなる力を得ることを「鬼に金棒」、物事を極めた人でも失敗することを「猿も木から落ちる」など、教訓が分かりやすい言葉でまとめられています。
ことわざは、「頭隠して尻隠さず」のように対になる言葉を並べる対句形式や「二度あることは三度ある」という列挙形式が多いのが特徴です。また、音の反復、語呂の良さなどもことわざの特徴といえます。ことわざならではの特徴はほかにもあるので、気になる方はぜひ調べてみましょう。
ことわざや慣用句は、あらゆるシーンで使える日本語の表現です。「日本語のことわざはビジネスや日常生活に役立つ?外国人が学ぶメリットとは」では、外国人が日本語のことわざを覚えるメリットについて解説しています。日本語能力を高めたい方は、参考にご覧ください。
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故事成語とは
中国で生まれ、日本に伝わったことわざ・慣用句を故事成語といいます。「覆水盆に返らず」「漁夫の利」などは、特に有名な故事成語です。日本語のことわざや慣用句と同じくらい日常会話で使われる表現なので、余裕があったら勉強してみましょう。故事成語を勉強する際は、言葉の成り立ちから学ぶのがおすすめです。
四字熟語とは
四字熟語とは漢字4文字の言葉です。大きく2種類に分けられ、4つの関連のある言葉が合わさって慣用的な意味を持つ四字熟語と、「国際電話」「学級委員」のように2つの熟語が合わさってできたものがあります。
慣用句的に使われる四字熟語は「一期一会(いちごいちえ)」「因果応報(いんがおうほう)」「画竜点睛(がりょうてんせい)」などです。一期一会は日本の茶道家である千利休(せんのりきゅう)が言ったとされる言葉、因果応報は仏教用語、画竜点睛は中国の故事に由来しています。
日本の有名なことわざ
ここでは、日常会話でも使える有名なことわざを紹介します。使い方の例文もあわせて記載しているので、勉強の参考にしてください。
案ずるより産むが易し
「物事を始める前はあれこれ考えたり心配したりするが、実際にやってみると思いのほかうまくいく」という意味のことわざが、「案ずるより産むが易し(やすし)」です。易しには簡単という意味が込められています。妊婦が子どもを産む際にいろいろ心配してしまうものの、実際産んでみるとうまくいくという状況が語源です。
次のような文で使います。
「発表がうまくいくか不安だったが、実際にやってみたら案ずるより産むが易しだった」
「うだうだ悩んでも仕方がない。案ずるより産むが易しだ」
物事を始める際によく考えるのは大切です。しかし、考えすぎると必要以上に心配や不安が生まれてしまいます。考えすぎず、とにかくチャレンジしてみるのが大事という教訓です。
犬も歩けば棒に当たる
「犬も歩けば棒に当たる」は、「余計なことをすると災難に遭う」もしくは「行動を起こした結果、思いがけない幸運に恵まれる」という意味です。正反対の意味を持つことわざなので、前後の文脈にも注意して正しい意図が伝わるように配慮しましょう。
使用例は次のとおりです。
「犬も歩けば棒に当たると言うが、まさか宝くじが当たるとは思わなかった」
「仕事の進め方を変えてみたら、残業続きで大変だ。犬も歩けば棒に当たるとはまさにこのことだ」
新しく物事を始めたときに災難に遭うこともあれば、良いことが起きるときもあります。「犬も歩けば棒に当たる」はどちらの状況でも使えることわざなので、覚えておくとメールや日常会話で役立つでしょう。
千里の道も一歩から
「千里(せんり)の道も一歩から」ということわざには、「大きなことを成し遂げるには小さなことを積み重ねる必要がある」という教訓が込められています。
次のように使うと良いでしょう。
「千里の道も一歩からとは言うが、コツコツ努力するのは難しい」
「平社員から成りあがった社長は、千里の道も一歩からを体現している人だ」
仕事や勉強で成果を出すには日々の努力が欠かせません。自分自身のやる気を上げたいときや頑張る人を励ましたいときにも使えることわざなので、ぜひ覚えておきましょう。なお、「ローマは一日にして成らず」「塵も積もれば山となる」などは、「千里の道も一歩から」と同じ意味で使えることわざです。
情けは人の為ならず
「人にした親切な行動はいつか自分に返ってくる」という意味を表すことわざは、「情けは人の為ならず」です。人に親切にするのは他人のためではなく、自分のためという謙虚な考え方が垣間見えます。情けをかけるのはその人のためにならないという意味でこのことわざを使う人もいますが、間違った意味なので注意しましょう。
使用例は次のとおりです。
「情けは人の為ならずを信条に、困っている人がいたら助けるようにしている」
「情けは人の為ならずと言うし、積極的にボランティアや募金活動をしてみよう」
日本には「恩送り」という言葉があり、助けてくれた相手に恩返しするのではなく、また別の誰かに親切にするバトンリレーのような行為です。英語では「Pay it Forward」といいます。
仏の顔も三度
「仏の顔も三度」は「どれだけ優しい人でも、何度もひどい仕打ちを受けたり失礼なことをされたりすると怒る」ということわざです。慈悲深い仏であっても3回顔を撫でられると腹を立てるという意味の、「仏の顔も三度撫ずれば腹を立つ」が語源とされています。
次のように使うと良いでしょう。
「仏の顔も三度というように、何度も約束を破られると腹が立ってくる」
「普段は優しい友だちが珍しく怒っていて、仏の顔も三度までだと感じた」
「仏の顔も三度」は、日常会話やビジネスシーンでよく使われることわざです。なお、「堪忍袋(かんにんぶくろ)の緒が切れる」「我慢の限界」なども同じ意味で使われます。
ほかにも有名なことわざを「日本の有名なことわざを一覧で紹介!英語と似た意味のことわざも」で紹介しています。ことわざを勉強したい方は、あわせてチェックしてみましょう。
日本の有名な慣用句
慣用句はことわざよりも日常的に使われる言葉です。比喩表現が多いので覚えるまでに時間が掛かりますが、便利な言葉が多いので勉強してみましょう。ここでは、普段の会話で使える慣用句を中心に紹介します。
穴があったら入りたい
思わず隠れたくなるほど恥ずかしいときに使える慣用句が、「穴があったら入りたい」です。自分のミスや勘違いが原因で、恥ずかしさや、いたたまれなさを感じているときに使います。
例文は以下のとおりです。
「友だちとの集合場所を勘違いして待ち合わせに遅れてしまった。穴があったら入りたい」
「穴があったら入りたいと思うほどのミスはしたことがない」
「穴があったら入りたい」は、根拠なく恥をかかされたときや照れ隠しのときには使わない慣用句です。「決まりが悪い」「身の置き所がない」「合わせる顔がない」なども同じ意味で使えます。
すずめの涙
物事の量を表す際に、全くないわけではないものの、ほんの少ししかない状態のことを「すずめの涙」といいます。体の小さいすずめが流す涙にたとえて、量の少なさを表す慣用句です。自分自身を卑下したり謙遜したりするときにも使えます。
使用例は次のとおりです。
「今年は会社の経営状況が悪かったので、すずめの涙程度のボーナスしかない」
「すずめの涙ほどの幸せでも、あるだけ十分だ」
「小さい」「少ない」と表現したいときに、「すずめの涙」と言うと相手に具体的な量が伝わります。強調表現にも使える慣用句です。
手を抜く
本来の手順や工程を省いて、適当に作業をこなすことを「手を抜く」といいます。ネガティブな表現として使われることが多いですが、すべてを完璧にこなす必要はないというニュアンスでも使用できる慣用句です。
次のように使用できます。
「適当に仕事をしたら、上司から手を抜くなと怒られた」
「仕事も私生活も忙しくて大変なら、ちゃんと休むために手を抜けるところは抜くべきだろう」
「手を抜く」は、日常生活でもビジネスシーンでも使われる言葉です。慣用句には手や足などの体の部位を使った比喩表現が多いので、ほかの言葉の意味と混同しないように注意してください。
水に流す
「水に流す」は、過去に起きたトラブルをなかったことにするという意味の慣用句です。日本では汚れや災いを水で清めたり水流に任せて流したりする風習があります。そのため、良くない出来事を忘れることを「水に流す」と表現するのです。
以下のように使うと良いでしょう。
「兄弟と喧嘩したが、お互いの行いを水に流して仲直りした」
「良い人間関係を築くには、相手の失礼な態度を水に流す寛容さが欠かせない」
「目をつむる」「帳消しにする」などは、「水に流す」と同じ意味を持つ言葉です。なお、どうしても相手を許せない場合は「根に持つ」という慣用句が使えるので、あわせて覚えておきましょう。
路頭に迷う
家や仕事を失い、生活できなくなることを「路頭に迷う」といいます。路頭とは、道端を意味する言葉です。行くあてもなく、ふらふらさまようしかない状況を表す慣用句です。就職先が見つからなかったり、リストラされそうになったりしたときに使います。
例文は次のとおりです。
「会社が業績不振でリストラを始めたので、もしかしたら路頭に迷うかもしれない」
「世界恐慌(せかいきょうこう)が起きたときは、多くの人々が職を失い路頭に迷った」
「お先真っ暗」「生活が立ち行かない」などの言葉は、「路頭に迷う」と同じ意味で使われます。頻繁に使われる慣用句ではありませんが、聞いたときにスムーズに意味を理解できるよう、勉強しておきましょう。
「日本語の慣用句を一覧で紹介!ことわざとの違いとは」では慣用句一覧や、英語と同じ表現をする慣用句などを紹介しています。興味がある方はぜひご覧ください。
ことわざや慣用句の勉強方法
日本語の日常会話では、やり取りをスムーズにするためにことわざや慣用句が多用される傾向にあります。ことわざや慣用句は文字通りの意味ではない言葉が多いので、日本語学習者には習得が難しい内容といえるでしょう。ここでは、ことわざや慣用句の勉強方法を紹介します。
成り立ちから勉強する
日本語の中でも難易度が高いことわざや慣用句を習得するには、成り立ちから勉強する方法がおすすめです。ことわざや慣用句の成り立ちを学ぶと、誤った意味を覚える可能性が低くなります。たとえば、先述した「案ずるより産むが易し」ということわざは、妊婦が子どもを産む際の状況が語源です。「案ずる」「産む」という言葉を語源と併せて理解すれば、意味も表現も覚えやすいでしょう。
成り立ちは、ことわざや慣用句を解説しているWebサイトや、後述のことわざ辞典などから学べます。
ことわざ辞典や慣用句をまとめた漫画を読む
小中学生向けのことわざ辞典や、慣用句をまとめた漫画を使うのもおすすめです。内容は本によって異なりますが、意味や由来、使い方、豆知識などが書いてあるため理解しやすいでしょう。似た意味のことわざや同じ意味の英語のことわざが書いてある本もあり、知識を効率よく学べます。漫画やイラストが描いてあるものは楽しく勉強でき、記憶にも残りやすいでしょう。
アプリを使う
ことわざや慣用句を学べるアプリも便利です。クイズモードがある種類を使えば、楽しみながら勉強できます。ことわざと意味を交互に表示でき単語帳のように利用できたり、ことわざを検索して辞書として使えたりなど機能はさまざまです。
電車での移動時間や隙間時間に学べるため、少しの時間も有効に使えます。無料で利用できるアプリも多いため、興味がある方はインストールしてみましょう。
まとめ
教訓や風刺が込められたことわざと、2つ以上の言葉が組み合わさって特別な意味を持つ慣用句は、日本語の会話や文章でよく使われる表現です。文字通りの意味を持たない言葉が多いので習得するのは大変ですが、使いこなせるようになればコミュニケーションがスムーズになります。
自分に適した勉強方法を探して、ことわざや慣用句の使い方を身につけましょう。