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外国人の社会保険手続きや加入条件は日本人と何が違うのでしょうか?
難解なイメージを持たれるかもしれませんが、手続きや条件の大部分は日本人と共通しています。そのため、どこに違いがあるのか整理しながら理解すれば、そう難しくはありません。
この記事は、外国人労働者の社会保険手続きに不慣れな方に向けて執筆しました。外国人に関係の深い「社会保障協定」や「脱退一時金」の制度などについてもまとめています。ぜひご一読ください。
目次
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外国人労働者も、日本人と同じく社会保険の加入対象です。条件を満たせば、厚生年金保険、健康保険、介護保険に加え、労働保険である労災保険と雇用保険も適用されます。
この記事で対象にしている社会保険は、上記の5つの保険です。
外国人が納税義務を果たしていない場合、在留資格の更新や変更許可の判断を受ける際にマイナスの要素として考慮されます。
在留資格の更新や変更許可が下りないと日本に滞在できず、自社で働き続けてもらえないでしょう。企業と外国人従業員の双方にとって望ましくないため、加入対象者を確認し、しっかりと手続きすることが重要です。
社会保険の加入条件は日本人と同じ場合が多いため、そこまで難しくありません。ただし、適用除外条件が存在する社会保険もあるため確認が必要です。
健康保険と厚生年金保険の加入条件は日本人と同じです。適用事業所で正社員として働く外国人従業員や、週の所定労働時間と月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であるパートタイム労働者などは、国籍を問わず加入対象になります。
なお、週の所定労働時間または月の所定労働日数が正社員の4分の3未満の従業員も、以下の条件をすべて満たせば加入対象です。
週の所定労働時間が週20時間以上
月の所定内賃金が8.8万円以上
2ヶ月を超えて雇用する見込みがある
学生ではない
2024年10月から適用範囲が拡大され、従業員数が51人以上である事業所のパートやアルバイト労働者も対象になりました。
介護保険の加入対象者となる年齢は、日本人と同様に40歳以上です。これに加え、3ヶ月を超えて日本に在留する外国人住民が対象になります。
雇用保険の加入条件は日本人と同様に、「週に20時間以上の所定労働時間がある」「雇用見込みが31日以上ある」の2つに該当しているのが原則です。
ただし、以下に該当する外国人は適用が除外されます。
外国の失業補償制度が適用されている
ワーキングホリデー制度により入国した
昼間学生である留学生
なお、技能実習生に対し雇用契約に基づかない講習を座学で行う場合、その期間は実習生は被保険者として扱われません。講習は入国当初のもので、商品を作る施設で機械の操作や安全衛生について教育を行わないものが該当します。
労災保険は、アルバイトやパートを含め、外国人労働者もすべて適用対象です。
外国人従業員の労災は増加の傾向にあります。そのため、外国人の日本語理解度に合わせてコミュニケーションを取り、業務上の危険について伝えることが重要です。
厚生労働省では外国人労働者の安全衛生管理のための資料や教材を公開しています。労災保険を請求するためのパンフレットも各国語で閲覧が可能なので、従業員に案内しておきましょう。
参照元:
厚生労働省「外国人労働者の安全衛生対策について」
厚生労働省「労災保険請求のためのガイドブック」
健康保険、厚生年金、雇用保険の加入手続きと必要書類について解説します。
健康保険と厚生年金保険の加入手続きは、日本人従業員の場合と同じく「被保険者資格取得届」を日本年金機構(窓口は年金事務所)に届け出ます。提出する際は本人確認が必要となり、マイナンバーか基礎年金番号の記入が必要です。
短期在留でマイナンバーを持っていない外国人の場合、パスポートの身分事項のページのコピーに加え、「資格外活動許可証印のページ」「資格外活動許可書」「就労資格証明書」のいずれかのコピーを送付する必要があります。
そのほか、個人番号制度の対象でない外国人や、基礎年金番号とマイナンバーの結びつきがない外国人を雇用した場合、ローマ字氏名届を提出しなければなりません。
雇用保険の加入手続きは、日本人と同様に「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークに提出します。期限は、雇用した日の翌月10日までです。
雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)の、17から23欄に在留カード番号や在留資格といった外国人特有の内容を記載します。備考欄は在留資格変更申請中のときや、外国人雇用状況届出書(様式第3号)をすでに提出している場合に記載する箇所です。
参照元:厚生労働省「外国人雇用のルールに関するパンフレット[10.2MB]」
外国人従業員を雇用した場合、事業主は「外国人雇用状況の届出」を行う必要があります。雇用保険被保険者の外国人については、雇用保険被保険者資格取得届を提出することにより「外国人雇用状況の届出」を兼ねることが可能です。
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関連記事:「外国人を雇用するには?入社前・入社後の手続きと必要書類」
先述のとおり、外国人を雇用した事業主は「外国人雇用状況の届出」が必要です。外国人が雇用保険の被保険者である場合は、「雇用保険被保険者資格取得届」の提出によって「外国人雇用状況の届出」を兼ねられます。つまり、外国人が雇用保険に加入するのであれば、「外国人雇用状況の届出」は不要です。
外国人が雇用保険の対象外(留学生等)である場合、翌月末日までに「外国人雇用状況届出書(様式第3号)」の提出が必要です。
外国人従業員の氏名や在留資格、在留カード番号、雇用する事業所名とその住所などを記載します。
参照元:厚生労働省「外国人雇用のルールに関するパンフレット[10.2MB]」
届出を行わなかった場合は30万円以下の罰金が課される可能性があるため、忘れずに提出しましょう。
外国人が退職した場合の健康保険、厚生年金、雇用保険の手続きについて解説します。雇用保険の脱退手続きは離職時の「外国人雇用状況の届出」も兼ねているため、忘れずに行いましょう。
外国人が退職し、健康保険と厚生年金保険の資格対象ではなくなった場合は、事業主が「被保険者資格喪失届」を日本年金機構(窓口は年金事務所)に提出します。協会けんぽの被保険者である場合は、外国人とその被扶養者の健康保険被保険者証も添付しましょう。
なお、条件を満たせば外国人は厚生年金保険の脱退一時金を請求することが可能です。詳しくは、「外国人が帰国する場合の脱退一時金」で後述します。
外国人の離職時には、「雇用保険被保険者資格喪失届(様式第4号)」をハローワークに提出しなければなりません。表面の住所欄と裏面の14から19欄を記載することで、離職時の「外国人雇用状況の届出」も兼ねられます。退職日の翌々日から10日以内が期限です。
また、従業員が離職票は不要と申し出ている場合を除き、「雇用保険被保険者離職証明書」や関連書類も提出します。
雇用保険の対象でない外国人(留学生等)の場合は、「外国人雇用状況届出書(様式第3号)」の提出を忘れずに行いましょう。外国人雇用状況届出書の期限は翌月の末日までです。
ここでは、日本と外国での年金加入期間が通算される「社会保障協定」や、外国人特有の「脱退一時金」の制度について紹介します。
社会保障協定とは、協定を結んだ国と日本の年金制度に加入していた期間の通算などを目的にした制度です。
外国の年金の受給にも、年金制度への一定の加入期間が必要な場合があります。社会保障協定では受給の条件を満たせるように、日本で年金保険料を払った期間も外国の年金受給に必要な加入期間として計算が可能です。逆も同様です。例えば、日本の年金受給条件は10年以上の年金加入ですが、日本で5年加入、米国で5年加入していれば、この条件を満たします。
なお、年金は一方の国でまとめて支給されるのではなく、加入期間に応じてそれぞれの国で支払われます。
外国人従業員が年金保険料の支払いに前向きでない場合は、該当する協定国かどうかを確認し、この制度を説明しておきましょう。
社会保障協定が発効している国のうち、年金加入期間の通算規定があるのは以下の19ヶ国です。
ドイツ/アメリカ/ベルギー/フランス/カナダ/オーストラリア/オランダ/チェコ/スペイン/アイルランド/ブラジル/スイス/ハンガリー/インド/ルクセンブルク/フィリピン/スロバキア/フィンランド/スウェーデン
なお、英国、韓国、中国、イタリアも社会保障協定を結んでいますが、年金加入期間は通算されず、「保険料の二重負担防止」のみです。
外国人が日本の年金保険資格を脱退し帰国した場合、条件を満たせば脱退一時金の請求が可能です。ただし、脱退一時金を受給すると、請求前のすべての期間が年金加入期間として扱われなくなります。外国人従業員には、日本で年金を受け取るか検討したうえで、制度を利用するかどうか判断してもらいましょう。
脱退一時金の請求書は外国語も併記された様式です。従業員に対応する言語があるかどうかは日本年金機構のWebサイトから確認できます。
厚生年金保険の場合、加入期間が6ヶ月以上必要です。また、被保険者資格の喪失日から2年以上経っている場合は要件を満たしません。
そのほかの条件は以下のとおりです。
日本国籍ではない
申請時に、厚生年金保険か国民年金に入っていない
老齢年金の受給資格期間に足りていない
障害厚生年金などを受給する権利を持ったことがない
参照元:日本年金機構「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」
ここでは、社会保険に関する疑問「外国人の家族は扶養できる?」「健康保険証に外国人の通称名を記載できる?」について解説します。
条件を満たせば、外国人従業員の家族を被扶養者にできます。健康保険「協会けんぽ」の被保険者である外国人が家族の扶養を希望する場合、事業主は「被扶養者(異動)届」を日本年金機構に提出しなければなりません。
被扶養者には、「原則として日本に住民票があること」「主に被保険者の外国人が生計を維持していること」といった要件があります。そのほか、収入要件と同一世帯の条件に該当することも必要です。
日本に住所があっても、「特定活動(医療目的)」「特定活動(長期観光)」で在留する外国人は被扶養者として認められません。
健康保険証に外国人の通称名を記載できるかどうかは、加入している健康保険協会や健康保険組合ごとに確認が必要です。
住民票に記載された通称名であれば可能とする団体もあります。添付書類が必要な場合もあるため、あわせて確認しておきましょう。
外国人の社会保険は、日本人従業員と同様の加入条件や手続きも多くあります。ただし、社会保障協定や脱退一時金など外国人特有の制度もあるため、雇用する従業員に前もって伝達しておくようにしましょう。
監修:濵川恭一
外国人専門の人材ビジネス会社勤務を経て、外国人のビザ専門行政書士事務所を設立。専門分野は、就労ビザ申請、外国人採用コンサルティング。著書に、「これ1冊でまるわかり!必ず成功する外国人雇用」、「実務家のための100の実践事例でわかる入管手続き」等がある。 http://svisa.net