日本の和菓子は四季や行事と深い関わりのある伝統文化です。美味しいだけではなく、見た目の美しさが和菓子の魅力の一つといえるでしょう。
このコラムでは、縄文時代に端を発する和菓子の歴史と魅力を紹介しています。洋菓子との違いについても紹介しているので、和菓子文化の理解を深めるための参考にしてください。
目次
和菓子の魅力
和菓子は、やさしい甘さと可憐な見た目が特徴の日本のお菓子です。日常的に食べられるのはもちろん、季節の行事や祝い事に使われることもあります。
子どもから大人まで楽しめる
和菓子は子どもから大人まで楽しめる甘味です。生クリームや砂糖を使った洋菓子とは異なり、和菓子は落ち着いた甘さのものが多いので、年配の方も安心して食べることができます。もちろん、和菓子は子どもにも人気です。大福やたい焼き、みたらし団子などの和菓子が昔から好まれています。
低カロリーでヘルシー
和菓子は、バターや生クリームといった動物性の脂肪をあまり使わないので、低カロリーでヘルシーです。たとえば、ショートケーキ100gのカロリーは約350kcalほどですが、大福100gのカロリーは約240kcalほどと、カロリーは低めになっています。そのうえ、大豆や小豆、もち米など健康的な食材が使われているのも和菓子の特徴です。食物繊維が多く含まれる食材も多く使われているので、美容・健康への効果も期待されています。
季節の移ろいを感じられる
春の「桜餅」、端午の節句に食べる「柏餅」、夏の「水羊羹」など、季節感を味わえるのも和菓子の魅力です。店に並んだ季節感を表現した和菓子から、季節の移ろいを感じられるでしょう。
ピックアップ記事
和菓子の歴史
日本の和菓子は歴史と深く関わりながら発展した伝統文化です。和菓子の多くは、江戸時代に作られたものといわれています。外国との交流や文化の影響を受けながら、さまざまな素材を取り入れて生まれた和菓子は、日本の季節や年中行事と深く結びつき、今もなお親しまれ続けているのです。
和菓子は果物だった
弥生時代の日本では、果物の甘味は特別なものとされていて、間食に果物や木の実を食べる習慣がありました。この間食として果物を食べる習慣が、「果子(かし)」、つまり「菓子」の始まりといわれています。当時の日本では栗や柿などが栽培され、食文化の発展により収穫した実を乾燥させて保存したり、道具を用いて細かく砕いたりするようになりました。細かく砕いた木の実を水にさらしてアクを抜き、丸めて熱を加えたものが団子の始まりといわれています。
その後、日本で最古の加工食品といわれる「餅」が誕生しました。当時、何よりも大切な米を原料として作られた餅は、神聖なものとして扱われたのです。
餅や団子が誕生した後も、純粋な砂糖は庶民にとって高級品であり、果物はスイーツの中心に存在し続けました。
『美味しんぼ: 菓子対決!!』 (26巻)
漫画『美味しんぼ』では、「究極vs至高の和菓子対決」というキャッチーなエピソードの中で、和菓子と果物の関係について描いています。この話を読めば、和菓子の原点が果物であったことがよく分かるでしょう。
砂糖の代わりは「甘葛(あまづら)」
「甘葛(あまづら)」はツタの樹液を煮詰めて作ったとされる甘味料で、砂糖の代わりに用いられました。平安時代に清少納言によって書かれた枕草子で「削り氷(かき氷)にあまづら入れて」と表現されていることからも、甘味料として用いられていたことが伺えます。
当時「甘葛(あまづら)」は、幕府や朝廷への献納品とされる贅沢品でした。また、「米もやし(米を発芽させたもの)」を用いて、でんぷんを糖に変えた飴が作られていたとされています。その後、日本に砂糖が伝わり江戸時代になると広く用いられるようになりました。
「唐菓子(からくだもの)」の影響を受けた和菓子
「唐菓子(からくだもの)」は、米や麦、大豆などをこねたり揚げたりしたものです。飛鳥時代から平安時代にかけて遣唐使によって伝わったとされています。それぞれ形に特徴があり、「梅枝(ばいし)」や「桃子(とうし)」、「餲餬(かっこ)」などと呼ばれていました。唐菓子は和菓子に大きな影響を与えたといわれています。
和菓子の種類
和菓子は、含まれる水分量や保存性によって以下の3種類に分けられます。
生菓子
生菓子は、水分量が30%以上含まれているお菓子のことを指します。水分量が多いため痛みやすく、長期保存はできません。また、餅や餡を使ったものが多く、時間が経つと固くなってしまいます。代表的な生菓子は、以下のとおりです。
- 餅物:おはぎ、大福、草餅、柏餅
- 焼き物:どら焼き、きんつば、カステラ、今川焼き
- 掛け物:あんみつ
- 蒸し物:ういろう、わらび餅、くず餅、酒饅頭
- あん物:ぜんざい
- 揚げ物:あんドーナツ、揚げ月餅(げっぺい)
- 流し物:羊羹(ようかん)、水羊羹、ところてん
- 練り物:練り切り、求肥(ぎゅうひ)
半生菓子
半生菓子は、水分量が10~30%含まれているお菓子のことです。日持ちは3日~1週間程度と、生菓子よりも長持ちするので贈答品向きといえます。ただし、生菓子に近いお菓子は期限が短いので、賞味期限はよく確認しておきましょう。半生菓子には以下のようなものがあります。
- 焼き物:あんぱん、桃山、草紙(そうし)
- 掛け物:甘納豆
- あん物:石衣(いしごろも)、ぜんざい
- 流し物:羊羹、寒氷(かんごおり)、生姜糖、霙羹(みぞれかん)
- 練り物:求肥、きびだんご、ゆべし
- 蒸し物:栗きんとん、切山椒(きりざんしょう)
- 岡物:最中(もなか)、州浜(すはま)、生八ツ橋
干菓子
干菓子は、水分量が10%未満のお菓子です。水分量が少ないぶん長期保存でき、数ヶ月程度日持ちするものもあります。せんべいや柿の種、あられなど塩味のあるお菓子も干菓子の一種です。干菓子には以下のようなものがあります。
- 掛け物:せんべい、ボーロ、あられ、柿の種、カルメラ
- 飴物:飴玉、千歳飴(ちとせあめ)、金平糖(こんぺいとう)、有平糖(あるへいとう)
- 打ち物:落雁(らくがん)、雲平(うんぺい)
- 掛け物:おこし、砂糖漬け、五家宝(ごかぼう)
- 揚げ物:かりんとう
- 押し物:塩がま、むらさめ
和菓子は水分量で大きく分類することができますが、実際は名称だけで単純に分類するのは難しいのが実情です。
たとえば、羊羹や求肥はやわらかく仕上げれば「生菓子」に、硬めに仕上げると「半生菓子」になります。保存期間が異なるので、お菓子の名称ではなく個々の商品について確認するのが重要です。また、「飴物」のように材料で分類することもあれば、「揚げ物」のように調理法で分類することもあります。和菓子の分類は単純ではありませんが、そこに和菓子の奥深さが現れているといえるでしょう。
人気の定番和菓子
ここでは、人気のある定番の和菓子について紹介します。
大福
大福は、あんこを餅で包んだ和菓子です。もちもちの食感とぎっしり詰まった餡の優しい甘さで、子どもから年配の方まで幅広く人気があります。「豆大福」や「いちご大福」、「草大福」などバリエーションが豊富で、なかには餡の代わりにイチゴやカスタードクリームを入れるものもあります。自分好みの味を見つけられるのも大福の魅力といえるでしょう。
みたらし団子
みたらし団子は、焼いた串団子に砂糖醤油のみたらし餡をかけた和菓子です。もちもちの団子に甘じょっぱい餡が絡んで、絶妙な味わいになります。スーパーでも簡単に入手できるのでぜひ探してみてください。
たい焼き
たい焼きは、鯛を形どった生地のなかに餡が入った和菓子です。餡のほかに、クリームやチョコレートなど洋菓子の材料を使ったものもあります。パリッとした食感のものや、モチモチしたものなど、同じたいやきでも食感はさまざまです。アツアツのたい焼きは、寒い冬にピッタリの甘味といえるでしょう。なお、たい焼きは元々今川焼きが原型で、より売れるように「めでたい」の縁起担ぎで鯛の形を模したとされています。
わらび餅
わらび餅は、わらび粉を使ったやわらかいお餅をきなこや黒蜜で食べる和菓子です。ひんやりとろっとした食感のわらび餅は、夏の風物詩として有名で、初夏になると店頭に並ぶようになります。
おはぎ(ぼたもち)
おはぎ(ぼたもち)は、もち米とうるち米を混ぜて炊いたものを丸め、餡で包み込んだ和菓子です。ほどよい粒感の残るもちもちの食感と、餡の甘みが好相性です。なお、おはぎとぼたもちは基本的に同じものですが、季節によって呼び方が変わります。春のお彼岸に食べるのが「牡丹(ぼたん)」の花に由来するぼたもちで、秋のお彼岸に食べるのが「萩(はぎ)」の花に由来するおはぎです。
カステラ
カステラは、卵・小麦粉・砂糖などを合わせた生地をオーブンで焼いたお菓子です。戦国時代にポルトガルから日本に伝来し、日本独自の和菓子として発展してきました。名前の由来は、カスティーリャ王国のポルトガル語読み「Castella」で、そこで作られたお菓子という意味でカステラと呼ばれるようになりました。卵をたくさん使ったふんわりとした食感と、砂糖の優しい甘さが特徴です。
どら焼き
どら焼きは、ふんわり焼き上げた2枚のカステラ生地で餡を挟んだ和菓子です。どら焼きという名前は打楽器の「銅鑼(どら)」に由来します。しっとりとした食感と上品で優しい甘さが絶品です。
今川焼き・回転焼き・大判焼き
今川焼は、小麦粉や卵を混ぜた生地で餡を包んで焼いた和菓子です。作り方は同じでも、「回転焼き」や「大判焼き」など、店や地域によってさまざまな呼び方がされています。表面はカリッと香ばしく、中のふっくらした生地が餡の甘さとマッチして絶品です。
「日本の和菓子を外国人に向けて解説!茶道や行事で食べる甘味も紹介」のコラムでも、有名な和菓子について紹介しています。あわせてご覧ください。
SNSでバズる次世代和菓子
現代において和菓子は更なる進化を遂げています。特に白あんをベースに作られる「練りきり」は成型がしやすく、職人の神業によってあたらしい芸術表現が次々と生み出されてきました。
TwitterやInstagramにアカウントを開設している和菓子職人も多く、魅力的な投稿が国境を越えて拡散されることも珍しくありません。ころころとカワイイ「あざらし最中」(三宅正晃さんのツイート)、アニメ『鬼滅の刃』のキャラクターをモチーフにした和菓子(三堀純一さんのツイート)など、まさに「次世代和菓子」と呼べる作品たちです。どんな味がするのか気になりつつ、食べるのがもったいなくも感じてしまう人も多いでしょう。
新しくアザラシの最中始めました🧊
— 和菓子職人 三宅 正晃 (@beniyamiyake) June 18, 2021
実物はちょっと大きめ。
中は北海道産大納言小豆🍡
平らな場所でもコロコロ転がってしまうので『ころころあざらし』と呼んでますが、両面とも同じ顔なので又の名を『両面あざらし』とも呼んでいます← pic.twitter.com/IMhD3alALt
単体ショットを
— 三堀 純一 Junichi Mitsubori (@c9z_mj) February 6, 2021
まとめてみました👹 pic.twitter.com/xm1R01wXP8
季節を楽しむ日本の和菓子
四季のある日本は、季節ごとに和菓子を楽しむ文化があります。味だけではなく、見た目の美しさも和菓子の魅力です。以下では、季節ごとに親しまれる日本の和菓子を紹介します。
春の訪れを感じる「桜餅」
Amazon「桜餅」20個700円(1個35円)
「桜餅」は淡いピンク色の餅を塩漬けした桜の葉でくるんだ和菓子で、春の象徴といえます。「桜餅」の歴史は江戸時代からとされていて、元は僧侶が墓参りに来た人をもてなすために出していました。近年は、女の子の成長を願う3月3日のひな祭りに桜餅を食べる習慣があります。
端午の節句に子孫繁栄を願う「柏餅」
「柏餅」は上新粉の餅を柏の葉で包んだ和菓子で、餅の中身は小豆あんや味噌あんなどです。端午の節句(子どもの日)に「柏餅」を食べる習慣があります。柏は新芽が出るまで古い葉が落ちないことから子孫繁栄の象徴とされたため、「柏餅」を端午の節句に食べるようになりました。
暑い夏は涼やかな「水羊羹」
「水羊羹」はあんを寒天で固めた羊羹の一種で、普通の羊羹より水分が多く、あっさりとした口当たりと柔らかい食感が特徴です。江戸時代におせち料理に付け加えるデザートとして作られたのが始まりとされています。今では、暑い夏の涼やかな和菓子として親しまれるようになりました。
《YUSHINDO》ジュエリー羊羹 JEWELRY YOKAN 6種×2個セット(3480円)
水羊羹に代表される「水菓子」は、きらきら輝く見た目から「宝石のよう」と称されることが多々あります。和菓子の美しさをダイレクトに感じられ、海外へのお土産やプレゼントにもぴったりです。
「日本のお菓子について外国人へ詳しく解説!おすすめのお土産も紹介」のコラムでは、伝統的な和菓子からコンビニなどで手に入る手軽なお菓子などを紹介しています。あわせてご覧ください。
和菓子と洋菓子の違いを紹介
洋菓子は大正時代に日本へ伝わった西洋文化です。ここでは、和菓子と洋菓子の違いについて紹介します。
違いは原料
和菓子は主に米や麦、豆類など植物性のものを原料とし、多くの砂糖やデンプンを用いて作られているので、糖質が高い割にカロリーが低めなのが特徴です。一方、洋菓子は卵やバター、牛乳、生クリームなど動物性の材料を多く用いるため、脂質が高い特徴があります。
味の違い
和菓子は、主に上白糖や和三盆糖、黒砂糖などの糖類を用いたやさしい甘さが特徴です。近年は、イチゴ大福など果実を用いた和菓子もありますが、甘みはあっさりしています。一方、洋菓子は生クリームやチョコレートを用いたケーキ、カスタードクリームを用いたシュークリーム、フルーツを用いたタルトなどさまざまな味があるのが特徴です。
和菓子作りは手作業中心
和菓子作りは手作業が中心です。材料を練ったり成形したりする作業は、基本的に職人による手作業で行われます。洋菓子は、パティシエがミキサーやオーブンなどの電動機器を多く用いるのが特徴です。
和菓子と洋菓子の見た目の特徴
日本の和菓子は、季節の花や動植物などの四季を表現するものが多くあります。職人の手によって、一つずつ作られる「練り切り」のように小さくて丸いものが多いのも特徴です。一方、洋菓子は生クリームやチョコレート、パウダーなどを用いて華やかな飾り付けがされていて、さまざまな大きさのものがあります。
まとめ
日本の和菓子は四季と深い関わりのある伝統文化です。和菓子の季節を表す見た目の美しさは外国人からも注目されています。洋菓子との違いも楽しみながら、ぜひ日本の文化「和菓子」を味わってみてください。