本音と建前を使い分けることは、多くの日本人に見られる習慣です。本当の気持ち「本音」を隠して、表向きの意見「建前」を提示して、相手とコミュニケーションを図る傾向にあります。
この記事では、本音と建前のそれぞれの意味や使い分ける理由、シーンごとの建前の使い方を解説。そのほか、本音と建前を使う際の注意点についてもまとめています。
本音と建前は、他人の気持ちや協調性を尊重する日本ならではの価値観です。日本人とコミュニケーションをとる際はぜひ参考にしてください。
目次
- 「本音」と「建前」とは
- 日本独特の「本音」と「建前」の文化
- 日本人が本音と建前を使い分ける理由
- ビジネスシーンにおける建前の使い方
- 日常生活における建前の使い方
- 本音と建前に関する注意点とは?
- 本音と建前を使い分けてコミュニケーションを円滑にしよう
- まとめ
「本音」と「建前」とは
日本には「本音」と「建前」を使い分ける文化があります。相手の立場や気持ちを尊重するために配慮をすることで、良好な人間関係を構築するために欠かせません。ここでは、本音と建前のそれぞれの意味や類義語について解説します。
「本音」の意味
本音とは、心から思っている意見や本当の気持ちのことです。「本心」とも言い換えることができます。
口には出さないほうが良い内容やネガティブな意見・気持ちも含まれるのが本音です。そのため、相手を傷付けたり場の空気が悪くなったりすることも。日本では、相手に配慮してときには本音を隠したほうが良いと考えられているのです。
「建前」の意味
率直な意見や自分の気持ち、すなわち本音を隠して遠回しに伝えるものが建前です。
建前は嘘と同じ意味ではありません。嘘は相手を騙したり、自分が得したりするためにつく言葉です。相手を不愉快な気持ちにさせないように配慮する建前とは根本的に異なります。
「本音と建前」の類義語
「本音と建前」の類義語として「名目」が挙げられます。
名目の意味は、「本来の意思とは異なる理由」や「口実」「表向きの理由」です。実体や本心とは違うときに使われる言葉なので、本音と建前の類義語といえるでしょう。
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日本独特の「本音」と「建前」の文化
本音と建前を使い分けることは、日本特有の価値観といわれています。
たとえば、ビジネスシーンにおいて海外では最初にお互いの条件をはっきりと相手に伝えてから双方の妥協点を模索して進めていくのが基本です。一方、日本では条件や意見を徐々に相手に提示して、建前を前提に進めていきます。
日本では、相手の立場や気持ちを思いやり、配慮することを重要としているため、本音を避ける傾向にあるのです。そのため、仕事での交渉や友人同士の会話においても、相手の気持ちや立場を考えて建前を伝えることが多くあります。
日本人が本音と建前を使い分ける理由
本音と建前を使い分ける理由は、相手を尊重して円滑なコミュニケーションを図るためです。ここでは、日本人が本音と建前を使い分ける理由を紹介します。
建前を使って人間関係を良好にするため
本音と建前の使い分けは、人間関係を良好にするために必要なスキルです。
近年の日本は価値観の多様化が進み、さまざまな考えの人が自分の意見を主張できる社会へと変化しています。意見や価値観が異なっている人とも良好な人間関係を築くためには、場面に応じて建前を使うのが適切だと考えられているのです。
本音を言って場の空気を悪くするのを防ぐため
日本では、場の空気を悪くしないために本音を隠すことがあります。
たとえば、遊びに誘われたときに面倒で断りたいと思っても、相手との関係がそこまで深くなければ本音をそのまま口に出すことはあまりありません。「きっぱり断るのは失礼」「相手の心証を悪くしたくない」と考え、「行きたいけれど仕事が忙しい」や「疲れていて休みたい」などの建前を使ってやんわり断わることがあります。
本音をぶつけて揉め事を起こさないため
本音をぶつけて相手と揉め事を起こさないために建前を使うことがあります。
日本では、話し合いの際に自分と相手の意見が異なっていても、真正面で自分の意見をぶつけるのは極力避けるのが一般的です。上手く建前を使って、意見の対立を避けたり問題が大きくなったりするのをなるべく防ぎます。
物事を円滑に進めるため
本音と建前を使い分けることは、物事を円滑に進めるために必要なスキルです。
たとえば、就職面接で志望動機を言う際に、本音では「給料が高いから」と思っていても基本的には口には出しません。「御社の仕事に魅力を感じたから」「やりがいがある仕事だと思ったから」など、相手の利益になる建前を言うのが望ましいとされています。
退職時の理由を聞かれた際も、「上司と合わなかった」「労働環境がきつかった」などのネガティブな本音は一般的には口にしません。「より高いスキルを身に付けるために転職したい」といった、前向きな建前を言う場合が多いでしょう。
このように、相手が受け入れやすかったり納得しやすかったりする建前を言うことで、自分の望む方向に話を進めやすくなります。
円満退職を実現するために大切なのは退職理由の伝え方です。「退職理由の伝え方を例文付きで紹介!円満に退社をするポイントとは」には伝える際の例文やポイントを紹介しています。
ビジネスシーンにおける建前の使い方
日本のビジネスシーンでは相手を配慮し、関係性を崩さないことが重要です。適度な建前を使うことは、良好な人間関係を構築するうえで欠かせません。ここではビジネスシーンにおける建前の使い方を紹介します。
本当は無理な場合も「検討します」
特にビジネスシーンで使われる建前です。「検討します」以外にも「上司と相談します」や「社内で検討させてください」と言い換えられることがあります。
できないことや対応が難しい場合に「無理です」と伝えると、否定された気持ちになる可能性があるため、良好な関係を継続するためや場を丸く収めるために使われる建前といえるでしょう。
仕事のやりとりで、相手から「検討する」「考えておく」などの言葉が出てきたら、やんわり断られている可能性があると頭に入れておいてください。
体調が悪いときも「大丈夫」
日本では体調が悪く本心では「休みたい」と思っていても、無理をして仕事をする傾向にあります。勤勉さや真面目さが評価の対象になっていることが多く、周囲に対して心配や迷惑がかからないようにするためです。
具合が悪そうなのに「大丈夫」と言う人を見かけたら、それとなく気遣ってあげましょう。
やる気をアピールする「頑張ります」
「やりたくない」「面倒くさい」などのネガティブな気持ちを悟られないために「頑張ります」と建前を前向きに伝えることがあります。本音を伝えれば、相手を不快にさせたりチームの士気を下げたりしかねません。
上手く建前を使うことは、自分の印象が良くなったりその場が明るくなったりすることにも繋がります。
相手の気持ちを汲んで言う「ありがとう」
本来「ありがとう」は感謝を伝える言葉です。しかし、心では感謝していなくても、相手を気遣って「ありがとう」と伝えることがあります。たとえば、人から必要以上にお節介を焼かれて、迷惑だと感じた場合でも、自分に対する好意に感謝して「ありがとう」と建前で伝えることもあるでしょう。
ビジネスシーンにおける建前は人間関係を円滑にするためのスキルの一つです。日本で働くうえで大切なビジネスマナーについては「日本のビジネスマナーを解説!服装から人への接し方まで紹介!」にまとめています。
日常生活における建前の使い方
建前を使うことは、ビジネスシーンだけに限りません。ここでは、日常生活における建前の使い方を紹介します。
口に合わない料理も「美味しいです」
相手を傷つけないために配慮するのが建前です。料理が口に合わなくても「美味しいです」と伝えることがあります。相手を気遣ったり、場の空気が悪くなったりしないために建前を伝えることは嘘ではありません。
誘われたが行きたくない理由を「予定があります」
誘いを受けたときに「行きたくない」と本音を伝えると、相手を傷つけてしまう可能性があります。相手を不快にさせないために建前を使って断るケースも珍しくありません。
「またお声がけいただけると嬉しいです」や「行きたかったです」と伝えると、相手を尊重して断ることができます。
おごってもらう場面でも「おいくらでしたか」
建前を使う目的は、関係性を崩さないことです。上司や年上の人におごってもらったときでも「おいくらでしたか」と尋ねることがあります。自分が支払うべき場面ではなくても、おごってもらって当たり前という態度ではなく、お金を出す意思を見せることで相手を不快にさせないようにする建前です。
本音と建前に似た価値観の一つに「社交辞令」と「お世辞」があります。それぞれの意味や違いについては「社交辞令とお世辞の違いとは?外国人に向けて例文や注意点を解説!」をご覧ください。
本音と建前に関する注意点とは?
建前を使うのも必要ですが、ときには本音を伝えないといけない場面もあります。以下で本音と建前を使う際の注意点を解説するので、チェックしてみてください。
本音で話さないといけない場面もある
建前ばかり使うと「本心はどう思っているのかわからない」「建前しか言わない」と相手に思われてしまう可能性があります。建前を使いすぎるあまり、相手との距離が縮まらなくなることもあるでしょう。
良好な人間関係を継続するために建前を使うことは大切です。しかし、建前ばかり使っていても意味がありません。建前を使うのは、本音を話すための手段の一つだと理解しておく必要があります。
建前だけでは重要な内容が伝わらない
建前だけでは、相手に重要な内容は伝わりません。
たとえば、相手に注意や指摘をする際は建前だけ伝えていても、自分の意図や重要な内容が伝わらない可能性があります。遠回しな表現は避けて「改善すべき点」「改善方法」などの本音をストレートに伝えることが効果的です。ときには、本音で相手とコミュニケーションをとることも大切といえます。
本音と建前を見極める必要がある
本音と建前を使い分けることも大切ですが、見極めることも重要です。
日本では、建前を使うことが多くあります。発言には建前が含まれていることを頭に入れて、どのような本心が隠されているのか考えてみると良いでしょう。
本音と建前は、相手の状況や表情、声のトーンなどから見極める必要があります。
本音と建前を使い分けてコミュニケーションを円滑にしよう
本音と建前の使い分けは、良好な人間関係を築くために必要不可欠な気遣いです。建前を嘘だと考え、無理に本音で会話をしようとするのは得策ではありません。
本音と建前は、相手を傷つけずに上手く意思疎通を図るために使う手段です。相手を思いやる気持ちを第一にコミュニケーションを取ると良いでしょう。
本音と建前を使い分けることは、相手とコミュニケーションを円滑にするための手段です。挨拶もコミュニケーションには欠かせません。日常生活やビジネスシーンで使われる挨拶については「日本語のいろいろな挨拶を知りたい!覚えておくと便利なフレーズも紹介」「ビジネスで使う日本語をあいさつや電話などの場面ごとに紹介!」をご覧ください。
まとめ
本当の気持ちを「本音」、自分の気持ちを隠して遠回しに伝えることを「建前」といいます。本音と建前を使い分けることは、良好な人間関係を構築するための手段の一つです。ネガティブな本音を隠すことで相手を傷つけないようにしたり、物事を円滑に進めたりすることができます。
周囲を気遣いつつ自分の意見を主張するために、適度に本音と建前を使い分けて、円滑なコミュニケーションを図りましょう。