日本の童話は古くから語り継がれている伝承や昔話、逸話をベースにしたものが多くあります。このコラムでは、有名な日本の童話のタイトルやあらすじを紹介。また、日本の童話の特徴も外国人向けに解説。海外の童話との相違点・共通点をお伝えします。日本で有名な童話作家もまとめているので、人気作品の傾向が気になる方は参考にしてください。
目次
有名な日本の童話
数ある日本の童話のなかでも桃太郎や浦島太郎、かぐや姫などは有名な作品です。ここでは、日本で有名な童話の一部をあらすじも添えて紹介します。
桃太郎
桃から生まれた男の子が犬・猿・雉を連れて鬼退治に行く「桃太郎」は、有名な日本の童話です。ある日おばあさんが川で洗濯をしていると大きな桃が流れてきて、持ち帰って切ろうとすると中から大きな赤ん坊が出てくるところから物語が始まります。
桃太郎と名付けられすくすく成長した男の子は、村に来ては悪さをする鬼の存在を知って、鬼ヶ島へ鬼退治に行きます。桃太郎はおばあさんに作ってもらったきび団子で犬・猿・雉を仲間にして、鬼退治を成功させます。その後、退治した鬼から得た宝物を持ち帰った桃太郎は、おばあさんとおじいさんのもとに帰って仲良く暮らしたという童話です。なお、地域によっては桃太郎が生まれる経緯や結末が異なることがあるようです。
鶴の恩返し
雪の日に罠に掛かっていた鶴を助けたところ、後日美しい女性に姿を変えて恩返しにやってくる「鶴の恩返し」も有名な日本の童話です。
罠にかかった鶴を助けたおじいさんの家に、雪で道に迷ってしまったという女性が訪ねてきます。おじいさんは女性を家に泊めてあげることにしました。ある日、女性はおじいさんに白い糸を用意してもらい、機を織り始めます。「部屋の中は決して覗かないでください」と言って、何日も部屋にこもって機を織り終えた女性はおじいさんに織物を渡しました。「これは鶴の織物で、町で売れば高値がつくでしょう」という女性の言葉を聞いて、おじいさんが町に行くと、鶴の織物は本当に高く売れます。あまりの美しさに興味を引かれたおじいさんが部屋を覗くと、そこには自分の羽を抜いて機を織る鶴の姿がありました。
翌朝、娘は「私はあの日助けてもらった鶴です。恩返しにきましたが、姿を見られたのでもうここにはいられません」と言い残し、鶴の姿に戻って飛んで行ってしまいます。なお、おじいさんがおばあさんと二人暮らしだったり、若者に助けられたりするパターンもあるようです。
かぐや姫
竹から生まれた美しい女性が、結婚を迫る男性たちに無理難題をいう「かぐや姫」も有名な日本の童話です。竹細工を作って暮らしているおじいさんが竹林に行くと、光り輝く竹の中に女の子の赤ん坊がいました。赤ん坊を連れ帰って「かぐや姫」と名付けて育てていると、女の子はあっという間に大きくなり、美しい女性になってたくさんの男性から求婚されます。かぐや姫は誰にも興味を持たず、「私が言うものを用意できた人と結婚します」と言い、珍しい宝の名前を挙げました。男性たちはかぐや姫と結婚するため宝を探したものの、すべて失敗に終わります。
ある日、かぐや姫は悲しそうな顔で「私は月から来た者です。もうすぐ迎えが来るので、お別れしなければなりません」と言います。おじいさんはかぐや姫を守ろうとしましたが、結局月からの使者に連れていかれてしまうという童話です。
かぐや姫は「竹取物語」という古典文学がベースになっている童話なので、気になった方はチェックしてみましょう。
ぶんぶくちゃがま
動物が登場する日本の童話として「ぶんぶくちゃがま」は有名です。ある寺の和尚が良い茶釜を見つけ、「この茶釜で飲むお茶はおいしいに違いない」と火にかけたところ、茶釜が「あつい!あつい!」と叫びます。すると、茶釜から狸のしっぽが飛び出してきたため、気味が悪くなった和尚は古道具屋に売り払うことにしました。古道具屋が「こんなにいい茶釜はきっと高く売れる」と考え、町に売りに行こうとすると声が聞こえてきます。「僕は茶釜に化けた狸です。寝ていたら和尚に持っていかれてしまったのです」と茶釜が話しました。狸は続けて「僕が芸をするのを見世物にすればお金がたくさんもらえるはずです。だから、売るのはやめてください」と言います。
翌日、古道具屋が狸の言うとおりに町で見世物小屋を開くと、たくさんのお客さんが集まりました。その後、古道具屋と狸の茶釜は見世物小屋でお金を稼いで、幸せに暮らしたという童話です。
かちかち山
「かちかち山」は動物がメインの有名な日本の童話です。畑を耕している老夫婦に対するいたずらとして、種苗を食い荒らしたり、不作を望むような歌を歌ったりする狸がいました。ある日、おじいさんは狸を罠にかけて捕まえ、おばあさんに狸汁にするように言って畑仕事に出掛けます。捕まった狸はおばあさんに「もう悪いことはしない。家事も手伝うから狸汁にしないでほしい」と言い、縄をほどいてもらいました。しかし、自由になった狸はおばあさんを殴って「ばかなばあさんめ、狸のいうことを信じるとは」と言い、裏山に逃げてしまいます。
ことの顛末を知ったおじいさんは、狸を成敗しようと仲良しの兎に相談しました。話を聞いた兎は狸をしば刈りに誘って木の枝をかつがせ、火打石を「カチカチ」と鳴らして火を付け背中に大やけどを負わせます。さらに、兎は傷薬と偽って唐辛子を狸の傷口に塗ったり、魚釣りで泥の船に乗せておぼれさせようとしたりしました。「おばあさんに悪いことをした罰だ」いう兎に、狸は一生懸命謝ります。狸は兎に連れられておじいさんとおばあさんにも謝りに行き、その後はみんなで仲良く暮らしました。
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日本の童話には教訓が込められている
日本の童話は子どもの想像力や価値観の形成、情操教育に使われているため教訓を含んだ物語が多いです。動物や物を擬人化させたり、オノマトペを多用したりすることで子どもの興味を引き、短い内容で「物事に伴う結果」を明確に描いている童話は多数あります。たとえば、かちかち山の狸や桃太郎の鬼のように悪いことをすると罰が当たるでしょう。
一方で、ぶんぶくちゃがまの古道具屋のように良いことをすると褒美があります。鶴の恩返しも「やってはいけないことをしたらどうなるか」という教訓を教えるのにふさわしい童話です。ほかにも「ごんぎつね」「赤い蝋燭と人魚」「姥捨て山」など、日本には教訓が込められた童話があります。
日本の童話の特徴
日本の童話はバッドエンドな結末を迎えたり、時代に合わせて内容や表現が変えられたりするのが特徴です。グリム童話のように結婚してエンディングを迎える話はあまりありません。日本の童話は伝統的な価値観が投影されていることが多くあります。
西洋に比べて結婚して終わる童話が少ない
日本は西洋の童話に比べて結婚して終わる物語が少ないのが特徴です。「むかしむかし、おじいさんとおばあさんが暮らしていました」というフレーズから始まる日本の童話が多いように、ほとんどの物語は老夫婦を中心にしています。また、子どものいない老夫婦が赤ん坊を授かる話も多いです。そのため、結婚して終わる童話はほとんどありません。若者が主人公で異性が出てくる話もありますが、結婚に発展しなかったり離婚して終わったりすることがほとんどです。
西洋の童話では登場人物の精神的な成長を重視する傾向があるため、自立の象徴として「結婚」が使われることが多いようです。一方、日本の童話は教訓的な意味合いが強く、登場人物ではなく物事の過程を重視するため、結婚して終わることが少ないのだと考えられます。
ハッピーエンドで終わるとは限らない
日本の童話は教訓を伝えるのが目的のため、ハッピーエンドにならない話もあります。「かぐや姫」「雪女」「鶴の恩返し」などは、幸せな結末にならない日本童話として有名です。日本の童話には「見てはいけない」「言ってはいけない」といったフレーズがよく登場します。物語の中盤までは幸せに暮らしていたものの、最後に約束を破ってしまったため、最悪の結末を迎える童話が日本には多いです。また、「こぶとりじいさん」「したきりすずめ」のように欲をかいたり、人の成果をさらったりしようとすると不幸な結末を迎えます。
日本の伝統的な価値観をベースにしている
日本は万物を大切にし敬意を払うべきという伝統的な価値観を持っています。また、女性の美しさや優しさを宝のように扱ったり、「無」の概念が非常に強かったりするのも特徴です。「かさじぞう」「姥捨て山」は無機物や老人にも敬意を持って接し、優しくするべきであるという教訓が込められています。女性に対する日本の伝統的な価値観は、「鶴の恩返し」「かぐや姫」で描かれる女性像を見ると分かりやすいでしょう。
「無」の概念を感じられる日本の童話には「雪女」「天の羽衣」があります。どちらも独身だった主人公が結婚したものの、余計な言動・行動によって独り身に戻ってしまうという内容です。欲にまみれると悪い結果を招くため無心・無欲を心掛けるべきという考えが、日本の伝統的な価値観として童話のベースになっています。
時代に合わせて童話の内容が異なる
日本の童話は時代に合わせて残酷表現をマイルドにしたり、結末を変えたりしています。たとえば、昨今の「かちかち山」はおばあさんを殴った狸が兎にこらしめられ、最終的に和解をするという話です。しかし、昔は狸がおばあさんを撲殺し「狸汁」と偽っておじいさんに食わせるという童話にしては残酷なストーリーでした。結末も昨今とは異なり、泥の船が沈んで助けを求める狸を兎が押さえつけて沈めておばあさんのかたきを討ちます。
昨今では「子どもが怖がる」「教育に悪い」などの理由から、内容や表現が変えられている日本の童話が多いです。もともとの話が気になる場合は、図書館やインターネットで古い童話を調べてみましょう。
日本で有名な童話作家
日本で有名な童話を書いた作家のなかには、没後も人気を博している人がいます。日本の童話を通じて日本文化や流行を知りたい方は、童話作家にも注目してみましょう。
小川未明
小川未明は暗いテーマの近代童話や現代児童文学を得意とする童話作家です。「児童文学の父」といわれており、代表作として「赤い蝋燭と人魚」「金の輪」が挙げられます。しかし、全体的に暗い雰囲気の童話を書く作家だったため、今なおその評価は賛否両論です。人間の業の深さや情念を物語る気品に満ちた文章は、子どもよりも大人のほうが楽しめるでしょう。
新美南吉
新美南吉は29歳という若さで亡くなったものの、名作を遺した有名な童話作家です。特に「ごんぎつね」は国語の教科書に載ることもあり、日本の子どもたちに大きな影響を与えています。要所要所に散りばめられた表現に、大人でも心を突き動かされることがあるでしょう。また、子どものうちは気付かないようなさまざまな教訓が込められた童話のため、大人が読んでも楽しめる作品といえます。
宮沢賢治
宮沢賢治は没後50年以上経つにもかかわらず、幅広い世代に愛される童話作家です。「銀河鉄道の夜」「注文の多い料理店」「風の又三郎」など、数多くの童話を世に遺しています。独特な世界観と読者に創造力や思考力をかき立てる作風は、2021年時点でも日本童話名作集に組み込まれるほど人気です。
まとめ
日本の童話には、昔から伝わる伝統的な価値観をベースとした教訓が込められています。大人が読んでも勉強になる物語が多いので、興味のある方はぜひ読んでみてください。