「季節ごとの日本の伝統色を知りたい」「襲の色目とは何のこと?」と思う外国人もいるでしょう。春は桜色や紅梅色、夏は薄浅葱色や露草色など、日本には季節ごとの伝統色があります。
このコラムでは、季節ごとの日本の伝統色を紹介。また、「襲の色目(かさねのいろめ)」という日本の伝統的な配色方法についても解説します。季節ごとの襲の色目もまとめているので、参考にして日本の伝統色に関する知識を深めましょう。
目次
季節ごとの日本の伝統色
日本の伝統色とは、古来より伝わる色のことです。日本人は古くから色彩感覚を持ち、色に名前を付けてきました。植物や動物など豊かな自然に囲まれていたため、色に触れる機会が多かったのでしょう。ここでは、季節ごとの日本の伝統色を紹介します。
春の伝統色
春は暖かく柔らかな風が吹き、草木が芽を出す季節です。梅や桜など色とりどりの花が咲きます。春といえば、桜をイメージする人も多いでしょう。日本の春の伝統色は、以下のとおりです。
桜色(さくらいろ)
桜色はヤマザクラの花びらの色に由来した、赤みのある淡いピンク色です。平安時代から「桜色」と呼ばれ始めました。女性が頬を赤らめている様子を表現する色としても使われています。
紅梅色(こうばいいろ)
紅梅色は紅梅の花の色に由来した、かすかに紫みのある明るいピンク色です。清少納言が執筆した「枕草子」のなかでは、女性の衣服の色として紅梅色が勧められています。紅梅色は、平安時代後期に流行していたようです。
若葉色(わかばいろ)
若葉色は、春に芽吹く若葉を表現する優しい黄緑色です。明治以降の近代に名付けられた色で、自然に対する感動や尊さを感じる色として使われてきました。
菜の花色(なのはないろ)
菜の花色は、アブラナの花の色に由来した鮮やかな黄色です。「菜種色(なたねいろ)」とも呼ばれていましたが、菜種油を表現する色と同じ名前であったため、区別するために「菜の花色」と名付けられました。
山吹色(やまぶきいろ)
山吹色は、ヤマブキの花のように鮮やかな赤みのある黄色です。黄色を代表する色といわれています。江戸時代には、黄金色の小判も「山吹」と呼ばれました。
菫色(すみれいろ)
菫色は、スミレの花の色に由来した青みの濃い紫色です。平安時代から人気のある色で、明治時代後期にも流行し、浪漫主義文学の詩人は恋愛を菫に例えて詠っていました。
ねこやなぎ色
ねこやなぎ色は、くすんだ黄緑色です。白い毛に覆われた銀色の花穂が猫を連想することに由来しています。
夏の伝統色
夏は灼熱の太陽に照らされた草花の生気がわきあがる季節です。真っ青な空や鮮やかな色の花を想像するでしょう。日本の夏の伝統色は、以下のとおりです。
薄浅葱色(うすあさぎいろ)
薄浅葱色は、若い葱の色に由来した「浅葱色(あさぎいろ)」を薄くした淡い青緑色です。薄浅葱色は、爽やかで上品な色として昔から人気があります。
露草色(つゆくさいろ)
露草色は、ツユクサの花の色に由来した明るい薄青色です。人々は、ツユクサの花や葉の汁を布にすりつけて染めていました。そのため、ツユクサはもともと「着草(つきくさ)」と呼ばれていたようです。また、色が落ちやすいことから「消える」「うつろう」などの枕詞として用いられていました。
若竹色(わかたけいろ)
若竹色は、若竹のような爽やかな緑色です。現代では、若者の晴れ着や和装小物の色として多く用いられています。
萱草色(かんぞういろ)
萱草色は、カンゾウの花の色に由来した明るい黄みがかった橙色です。源氏物語のなかでは、袴の色名として用いられています。カンゾウは別れの悲しみを忘れる「ワスレグサ」とも呼ばれていました。
杜若色(かきつばたいろ)
杜若色は、カキツバタの花の色に由来した紫みの強い鮮やかな青色です。江戸時代には、「江戸紫」という名前で親しまれていました。カキツバタもツユクサと同様に、布を染める染料として用いられていたようです。
秋の伝統色
秋はキクやコスモスが咲き、紅葉がきらめく季節です。秋といえば栗や柿、葡萄などをイメージする人もいるでしょう。日本の秋の伝統色は、以下のとおりです。
柿色(かきいろ)
柿色には4種類の色があり、柿の実に由来した色と柿渋で染めた色の2系統に分かれます。柿の実に由来した色は鮮やかな橙色で、柿渋で染めた色は灰がかった黄赤色です。
茜色(あかねいろ)
茜色は、アカネグサの根で染めた暗い赤色のことです。朝日や夕日で赤く染まる空や雲を「茜空」「茜雲」といいます。
栗皮色(くりかわいろ)
栗皮色は、栗の皮の色に由来した黒みがかった赤褐色です。江戸時代には、女性用の帯の色として使われていました。
竜胆色(りんどういろ)
竜胆色は、リンドウの花の色に由来した薄い青紫色です。リンドウの小さく可憐な花は、キキョウとともに日本の秋を代表する花として愛されています。
群青色(ぐんじょういろ)
群青色は、紫みがかった深い青色です。日本画には欠かせない色で、桃山時代の障壁画や江戸時代の琳派の屏風絵などに使われています。
深支子色(こきくちなしいろ)
深支子色は赤みの淡い黄橙色です。クチナシという花の実で染めた黄色の上に紅染めを施し、赤みを重ねています。
冬の伝統色
冬は空気が白く凍り、雪に覆われた景色が美しい季節です。冬といえば、雪景色や正月をイメージする人が多いでしょう。日本の冬の伝統色は、以下のとおりです。
銀鼠色(ぎんねずいろ)
銀鼠色は青みを含んだ明るい灰色です。江戸時代は、庶民が着られる着物の色が「鼠」「茶」「藍」しかなかったため、町人は鼠色や茶色など地味な色を組み合わせて工夫していました。そこで誕生した色の一つが銀鼠色です。
白梅色(しらうめいろ)
白梅色は、白梅の花の色に由来した薄いピンク色です。白梅は万葉集のなかで雪に例えて詠われていました。
消炭色(けしずみいろ)
消炭色は、消し炭の色に由来した暗い灰色です。木材に火をつけて消したあとに、うすい灰を飛ばすと炭が現れます。その炭を表す色として名付けられました。
千歳緑色(ちとせみどりいろ)
千歳緑色は、松の葉のような深くて暗い緑です。「せんざいみどり」や「せんざいりょく」とも読みます。千歳緑は、千年変わらない緑という意味を持つ縁起の良い色です。
朱色(しゅいろ)
朱色は、朱肉のような黄みがかった赤色です。縄文時代から存在する色で、貝塚からは朱色の土偶や土器が発見されています。
日本の伝統色については「日本の伝統色を外国人に詳しく解説!季節にまつわる色も紹介」のコラムでも詳しく解説しています。併せてご覧ください。
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日本の伝統的な配色方法「襲の色目」とは
襲の色目(かさねのいろめ)とは、季節の変化を色彩として表現する日本の伝統的な配色方法のことです。平安時代に公家のなかで生まれ、袷仕立てされた衣服の表地と裏地の配色として用いられていました。また、衣服を重ねて着用したときの色の組み合わせとしても使われていたようです。襲の色目が美しく表現されている衣服に、「十二単」というものがあります。十二単は、平安時代の公家の女性の正装です。上に着用する着物を短く仕立てて、綺麗な襲の色目を見せていました。襲の色目は公家の服飾のなかで欠かせないものとして広まり、近代まで伝えられています。
季節ごとの襲の色目を紹介!
ここでは、日本人の美的感覚が表れている襲の色目を季節ごとに紹介します。
春の襲の色目
春の襲の色目には、「藤」「桃花」「紅梅」があります。藤は表の色が「薄色」、裏の色が「萌黄色(もえぎいろ)」です。薄色は薄い紫色のことで、萌黄色は黄緑色を表します。桃花は表の色が「白色」、裏の色が「紅色」です。紅色は紅花のような濃い赤色を指します。紅梅は表の色が「蘇芳色(すおういろ)」、裏の色が「紅梅色」です。蘇芳色は黒みを帯びた赤色のことで、平安時代の説話集である「今昔物語」では血液を表現する色として用いられています。
夏の襲の色目
夏の代表的な襲の色目は、「百合」「花菖蒲(はなしょうぶ)」「苗色」です。百合は表の色が「赤色」、裏の色が「朽葉色(くちばいろ)」で組み合わせられています。朽葉色とは、くすんだ赤みがかった黄色のことです。落ち葉の色を表しています。花菖蒲は表の色が「紅色」で裏の色が「紫色」、苗色は表の色が「薄青色」で裏の色が「黄色」です。
秋の襲の色目
秋の襲の色目には、「朽葉」「萩重(はぎがさね)」「花薄(はなすすき)」があります。朽葉は表の色が「濃紅(こきべに)」、裏の色が「濃黄(こきき)」です。萩重は表の色が「紫色」、裏の色が「二藍(ふたあい)」で組み合わせられています。二藍とは、藍の上に紅花を染めて重ねた明るく渋い青紫色のことです。藍と紅藍の2色で染めていることから、二藍と名付けられました。花薄は表の色が「白色」、裏の色が「縹色(はなだいろ)」です。縹色は明るい薄青色で、藍染の色名として知られています。
冬の襲の色目
冬の襲の色目には、「椿」「枯色」「雪の下」があります。椿は表の色が「中蘇芳色」、裏の色が「中赤色」です。中蘇芳色は、蘇芳色よりも紫みが強い濃い色でできています。枯色は表の色が「淡香色(うすこういろ)」、裏の色が「中青色」です。淡香色は黄みの薄い黄褐色(おうかっしょく)で、中青色は深い緑を指します。雪の下の表の色は「白色」で裏の色は「紅梅色」です。白い雪とその下にある紅梅の色を表現しています。
まとめ
日本には、古来から受け継がれている伝統色があります。季節によって異なる風景や草花をイメージするように、季節ごとに伝統色が存在するのです。また、日本には「襲の色目」という伝統的な配色方法もあります。日本人は昔から、季節の変化を敏感に感じ取っていたといえるでしょう。