「日本の博多弁はどのような方言なのだろう」と気になる方もいるでしょう。博多弁は九州地方の福岡県で使われている方言です。「よか」「たい」「ばり」などの言葉がよく知られています。
ここでは、日常的に使われている博多弁の語尾や動詞を解説。他県出身の日本人から、かわいいといわれる博多弁のセリフも紹介します。このコラムを参考にして、日本の方言の一つである博多弁についての知識を深めましょう。
目次
博多弁はどのような方言?
博多弁は、福岡県福岡市を中心に使われている方言です。もともとは、福岡市博多区の一部の地域で使われていた方言のことで、現代より狭い範囲で使われていた言葉を指していました。今日では、福岡市とその周辺の地域で使われている言葉も含めて博多弁と呼んでいます。
博多弁は語尾に特徴がある方言です。「ばい」「ちゃん」「やけん」など、語尾の種類がたくさんあります。また、博多弁はサ行の発音が独特です。特に「せ」を「しぇ」と発音する特徴があります。そのため、「生徒(せいと)」は「しぇいと」、「先輩(せんぱい)」は「しぇんぱい」などの言い方になるのです。なお、この発音は年配の人に多い特徴で、若者にはあまり見られません。
また、博多弁には特有の動詞も多くあり、慣れていない人には意味が理解しづらい言葉もあります。特有の動詞や語尾があったりサ行の発音が独特だったりすることなどから、博多弁はさまざまな特徴のある方言といえるでしょう。
日本のほかの地域で使われている方言を知りたい方は、「日本の方言について外国人に分かりやすく解説!種類もあわせてご紹介」のコラムもご覧ください。
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日常会話で使われる博多弁の語尾
博多弁には、独特な語尾がいくつもあります。肯定や確認、疑問に使われる語尾があり、種類が豊富です。ここでは、日常的に使われている博多弁の語尾を紹介します。
「ばい」「たい」
「ばい」「たい」は、「だよ」の意味で語尾に付けられる博多弁です。どちらも内容を強調したいときに使われます。
【例文】
- 「昨日、病院に行ったばい」(昨日、病院に行ったんだよ)
- 「そうたい」(そうだよ)
「ばい」「たい」は年配の人がよく使う博多弁で、若者はあまり使いません。
「ちゃん」「ちゃけど」
「ちゃん」は語尾に付けられる博多弁で、「です」の意味があります。自分の意見を強調して伝えたいときに使われる言葉です。また、「ちゃけど」は否定の言葉で、「ですが」や「だけど」の意味があります。
【例文】
- 「この前、大変やったっちゃん」(この前、大変だったんです)
- 「本を買ったっちゃけど、まだ読んでないんよね」(本を買ったんだけど、まだ読んでいません)
なお、「ばい」「たい」は年配の人が言う博多弁であるのに対して、「ちゃん」は若者がよく使う言葉です。
「やけん」「やけんね」
博多弁の「やけん」は、「だから」の意味で使われます。「やけん」に「ね」が付いた「やけんね」は、「だからね」と確認する際に使われる言葉です。
【例文】
- 「今日は無理やけん、明日やろ」(今日は無理だから、明日やろう)
- 「締め切りは明日やけんね!」(締め切りは明日だからね!)
また、「や」が付かない「けん」も、理由を示す「から」の意味でよく使われれます。「がんばるけん、見にこんね」は、「かんばるから、見に来てね」の意味です。
「と?」
「と?」は、語尾につけて「なの?」や「ですか?」と聞く博多弁です。また、「と」は内容を強調する際にも、語尾に付けられます。質問と強調で使われる際の違いは、イントネーションを上げるか下げるかです。質問で使う場合は、イントネーションを上げて言います。
【例文】
- 「どげんしたと?」(どうしたの?)
- 「なんしようと?」(何してるの?)
「なんしようと?」は、「最近は何してるの?元気にしてる?」という意味でも使われる博多弁です。また、「なんしようと!」(何してるの!)と語尾を強めると、怒っている際に使う言葉になります。
「ろうもん」
「ろうもん」は、「でしょ」と同意を求める際に使われる博多弁です。また、強い口調で言うと、主張や非難する意味が加わります。
【例文】
- 「その服じゃ、暑かろうもん」(その服だと、暑いでしょ)
- 「もうよかろうもん!」(もういいでしょ!)
「ろうもん」は、主に年配の男性が使います。若者や女性はあまり使いません。
「くさ」
博多弁の「くさ」は、「でしょ」「だよ」「ね」など、念押しや強調の意味がある方言です。主に年配の人が使う言葉で、若者はあまり使いません。
【例文】
- 「ちゃんとせないかんくさ!」(ちゃんとしないといけないでしょ!)
- 「当たり前くさ」(当たり前だよ)
- 「ばってんくさ」(だけれどね)
「ばってん」も博多弁です。「だけれど」と何かを渋るようなときに使われます。
日本には、博多弁以外にも各地に方言があります。「東北弁はどのような方言?特徴や標準語との違いを例文つきで解説」のコラムでは、東北の方言を紹介しているのでぜひご覧ください。
日常会話で使われる博多弁の動詞
博多弁には特有の動詞がいくつもあります。また、「なおす」のように、ほかの地域でも使われる言葉でありながら、福岡県では異なった意味を持つ言葉もあるのです。ここでは、日常的に使われる博多弁の動詞を紹介します。
「からう」
「からう」は「背負う」の意味がある博多弁です。かばんやリュックサックを背中に背負うときに使います。
【例文】
- 「早くランドセルからって」(早くランドセルを背負って)
「ランドセル」は、日本の小学生が学校に通う際に使うかばんです。「ランドセルをからう」というフレーズは、福岡県でよく使われます。
「はわく」
博多弁の「はわく」は、ほうきで「掃く(はく)」の意味があります。日常的に使われるため、標準語と勘違いしている福岡県民も多い言葉です。
【例文】
- 「床をちゃんとはわいて!」(床をちゃんと掃いて!)
「はわく」は「掃く」に近い音のため、博多弁に慣れていない人にも意味が通じる場合があります。
「こまめる」
「こまめる」は「両替をする」の意味がある博多弁です。額の大きな紙幣や硬貨を両替するときに使う言葉である、「細かくする」が由来と考えられています。
【例文】
- 「千万円札、こまめて」(千円札、両替して)
「こまめる」の由来は「細かくする」ですが、お金以外のものを細かくするときには使いません。
「なおす」
博多弁の「なおす」には、「片づける」の意味があります。漢字で書くと「直す」です。「直す」は、全国的には「修繕する」の意味で使われます。福岡県では、「修繕する」も「なおす」の意味です。
【例文】
- 「本を棚になおしといて」(本を棚に片づけておいて)
福岡県民から「なおして」と言われたら、状況から「片づける」か「修繕する」のどちらの意味かよく考えましょう。
「いぼる」
「いぼる」は「はまる」「埋まる」の意味で使われる博多弁です。雨が降ったあとのぬかるみに、足や傘などが埋まったときによく使います。
【例文】
- 「いぼったけん、ちょっと待って」(むかるみにはまったから、ちょっと待って)
ほかにも、川や田んぼ、畑などに足がはまったときにも使われます。
「ほがす」
博多弁の「ほがす」は、「穴を開ける」の意味がある言葉です。
【例文】
- 「誰が障子に穴をほがしたとね?」(誰が障子に穴を開けたの?)
- 「板に穴ほがして」(板に穴を開けて)
「ほがす」と似ている博多弁が、「穴が開いている状態」を意味する「ほげる」です。「靴に穴がほげた」のように使われる博多弁で、「穴が開いてしまった」というニュアンスが含まれます。
特徴的な博多弁
語尾や動詞以外にも博多弁には特徴的な言葉がたくさんあります。ここで紹介するのは、「ばり」「よか」「しゃーしい」などの博多弁です。
「ばり」
「ばり」は、「とても」や「かなり」の意味で使われる博多弁です。形容詞や形容動詞、動詞などに付き、程度が激しい様子を示します。
【例文】
- 「このジュース、ばり好いとるんよ」(このジュース、とても好きなの)
- 「走るの、ばり速くない?」(走るのが、かなり速いね?)
「ばり」は若者がよく言う博多弁で、年配の人はあまり使いません。
「よか」「よかよ」「よかよか」
博多弁の「よか」は「良い」の意味があり、返事に使われます。「よか」を2回続けた「よかよか」も同じ意味の言葉です。仕方なく承諾するのではなく、前向きな気持ちを込めて言います。
【例文】
- 「よかよ!」(いいよ!)
- 「気にせんでよかよか」(気にしないでいいよ)
また、「よか」は「よかとこ」(良いところ)のように名詞にも付いて、好ましいことを示します。
「しゃーしい」
「しゃーしい」は「うるさい」の意味で使われる博多弁です。ほかにも、「面倒くさい」や「うっとうしい」の意味でも使われます。
【例文】
- 「セミが朝からしゃーしい」(セミが朝からうるさい)
- 「この書類、しゃーしい」(この書類、めんどくさい)
同じような意味の博多弁に「せからしい」もあり、「しゃーしい」よりさらにうるさい場合に使われます。ただし、「せからしい」は人のみに使われる言葉です。
「食べりー」
博多弁の「食べりー」は、「食べてみて」と人に食べ物を勧める際に使われます。動詞「食べる」の語尾「る」が「りー」に変化している言葉です。強制するのではなく、おすすめする気持ちを込めて使います。
【例文】
- 「これ美味しいけん、食べり―」(これ美味しいから、食べてみて)
ほかにも「座りー」や「休みー」などの方言があります。それぞれ、「座ってよ」「休みなよ」と勧めたいときに使われる言葉です。
「はらかいとる」
博多弁「はらかいとる」は「怒っている」状態を示します。「はらかいとる」の「はら」は漢字で書くと「腹」です。もともと、博多弁には「腹を立てる」の意味がある「はらかく」という言葉があります。「はらかいとる」は「はらかく」状態が続いていることを表す方言です。
【例文】
- 「この子、はらかいとって機嫌が悪いんよ」(この子、怒っていて機嫌が悪いのよ)
博多弁の「~とる」は、動作を行っている最中であることを示す「~している」の方言です。たとえば、「歩いとる」は「歩いている」の意味があります。
「ちゃちゃくちゃら」
「ちゃちゃくちゃら」は、「でたらめ」「ぐちゃぐちゃ」「めちゃくちゃ」などの意味がある博多弁です。無秩序で収拾がつかない場面や乱れている場面を表現する際に使います。
【例文】
- 「部屋がちゃちゃくちゃらやから、片付けんといかん」(部屋がぐちゃぐちゃだから、片付けないといけない)
- 「台風のせいで、庭がちゃちゃくちゃらになっとる」(台風のせいで、庭がめちゃくちゃになっている)
「ちゃちゃくちゃら」は、「ちゃっちゃくちゃら」と発音することもあります。
福岡県の隣の地域である中国地方にも特徴的な方言があります。「広島弁はかわいい?怖い?広島県で話される方言を標準語と比較!」のコラムでは、中国地方の広島県の方言を紹介しているので、ぜひチェックしてみてください。
博多弁のかわいいセリフ
博多弁は、他県出身の日本人からかわいいといわれる方言です。独特のイントネーションや柔らかい響きのある語尾から、かわいいという印象を持たれるのでしょう。ここでは、特にかわいいといわれる博多弁のセリフを紹介します。
「好きっちゃん」
かわいい博多弁として、「好きっちゃん」といった告白に使われるセリフが挙げられます。「好きっちゃん」は「好きだよ」という意味の博多弁です。ほかにも、「好きっちゃんね」(好きなんだよね)や「好きになったっちゃん」(好きになっちゃった)なども、音の響きがかわいいといえるでしょう。
なお、「好きだよ」の意味がある博多弁には「すいとーよ」もあります。ただし、若者はあまり使いません。
「うまか~」
博多弁の「うまか~」(うまい、美味しい)も、他県出身の日本人にかわいいといわれます。形容詞「うまい」の語尾「い」が「か」に置き換わっている言葉です。ほかにも、「近か~」(近い)や「早か~」(早い)、安い(安か~)などがあり、感心の気持ちを込めて使われます。
似たような語尾に「かね」があります。「よかね」(いいね)といったように、感嘆や確認の意味で使われる博多弁です。「うまか~」や「よかね」は音の響きが柔らかいため、かわいいという印象を持たれるのでしょう。
「かいな」
博多弁の「かいな」の意味は、「かな?」です。「こう思うんだけど、どうかな?」と相手に確認したい場面で、言葉の語尾につけて使います。たとえば、「明日の予定空いとるかいな?」(明日の予定は空いてるかな?)といったように使われる言葉です。語尾に「な」がつくことで響きが優しくなり、かわいく聞こえるのでしょう。
日本語には、かわいいといわれる方言がほかにもあります。「関西弁の特徴とは?特有のイントネーションやかわいい言葉を一覧で紹介!」のコラムでは、かわいいといわれる関西弁をまとめているので、ぜひご一読ください。
博多弁の有名な早口言葉とは?
博多弁には、「おっとっととっとってっていっとったとになんでとっとってくれんかったとっていっとーっと」という有名な早口言葉があります。
この早口言葉の意味は、「おっとっと(お菓子の名称)を取っておいてねと言っていたのに、何で取っておいてくれなかったのって言ってるの」です。
「おっとっと・とっとってって・いっとったとに・なんでとっとって・くれんかったとって・いっとーっと」と区切ると読みやすくなるでしょう。イントネーションを知りたい方は、この早口言葉を紹介してる動画がインターネット上にあるので、ぜひ調べてみてください。
この早口言葉に出てくる「とっとって」は、博多弁「とっとー」の活用形です。「物を取っておく」のほかにも、「ビデオや写真を撮る」「席を取る」などの意味があり、さまざまな場面で使われます。「とっとー」は、いろいろな使い方ができる言葉といえるでしょう。
まとめ
博多弁は、「ばい」「たい」「やけん」など、語尾が特徴的な方言です。また、動詞にもほかの地域では使われない多くの言葉があります。例えば、「からう」「こまめる」「いぼる」などの方言は、ほかの地域の人に言っても意味が通じないでしょう。語尾や動詞以外にも「とても」の意味で使われる「ばり」や返事によく使われる「よかよ」も博多弁特有の言葉です。来日時に博多を訪れる機会があれば、ぜひ博多弁の表現と響きを楽しんでみてください。