東北弁は、昔から東北地方で話されている日本語の方言です。標準語とは異なる特徴を持つ言葉なので、日本語を話せる外国人でも東北弁を理解するのは難しいでしょう。そこで、このコラムでは東北弁の特徴や使い方を例文つきで紹介します。また、標準語と東北弁の違いも解説。日本文化や歴史に興味があり、方言を理解できるようになりたい外国人はぜひ参考にしてください。
目次
東北弁とは
東北弁とは、東北地方と呼ばれる青森・岩手・宮城・秋田・福島・山形・新潟の7つの県で話されている方言の総称です。東北弁は、北奥羽方言と南奥羽方言に大きく分けられます。ここでは東北弁に含まれる方言の特徴をまとめているので、日本語の歴史や日本文化に興味がある方はチェックしてみましょう。
北奥羽方言
北奥羽方言は、青森県と岩手県北中部、秋田県、山形県庄内地方、新潟県北部で話される方言の総称です。北海道海岸部方言を北奥羽方言に含むこともあります。主に日本海に面している東北地方の県が、北奥羽方言を話していると覚えておきましょう。
津軽方言
津軽方言は青森県の津軽地方で話されている日本語の方言です。津軽弁といわれることもあり、日本語話者にとっても難解な方言として知られています。標準語と発音が異なり、独特な言い回しが多いのが特徴です。
南部方言(青森県)
青森県の南部方言は南部弁ともいい、北奥羽方言に含まれています。青森県で話される方言は、津軽弁か南部弁のどちらかに大きく分けられるようです。なお、岩手県と秋田県の一部地域でも、南部弁が話されています。
盛岡弁
盛岡弁は岩手県盛岡市の中心部で話されている方言で、広い意味で捉えると南部弁に属しています。ただし、南部弁よりも敬語表現が発達していたり武家言葉に近かったりするので、区別のために盛岡弁と言われているようです。
秋田弁
秋田弁は秋田県で話されている方言です。ほかの東北弁に比べて、秋田弁は言語の特徴が県内で共通している傾向にあります。ただし、秋田県内でも対極に位置する由利地方と鹿角地方では、方言の地位差がはっきりしているようです。
庄内弁
庄内弁は、山形県の庄内地方で話されている方言です。秋田県の由利地方に隣接しているためか、秋田弁のような特徴を持っています。京言葉や江戸方言の影響も受けていると考えられており、ほかの東北弁とは異なる特徴を持つ独特な方言です。
南奥羽方言
南奥羽方言の範囲は、岩手県南部と宮城県、山形県内陸中北部、山形県南部、福島県です。また、似た特徴を持つ東関東方言が南奥羽方言に含まれることもあります。主に太平洋に面している東北地方の県が、南奥羽方言を話していると覚えておきましょう。
山形県内陸部方言
山形県内陸部方言は、最上地方や村山地方、置賜地方で話されている方言です。それぞれの地域が地理的に独立しているため、山形県内陸部方言には地域差があります。なお、最上地方の山形県内陸部方言は新庄弁といい、庄内弁や秋田弁の影響も受けているようです。
仙台弁
仙台弁は、宮城県と岩手県の旧仙台藩領で使われる方言です。百姓言葉や侍言葉、町人言葉が一体となって成立した方言で、関東系民族の影響を強く受けているとされています。なお、仙台弁は広範囲で使われている東北弁ですが、方言の地域差はほとんどないようです。
福島弁
福島弁は、福島県で話されている方言です。南奥羽方言に属していますが、東関東方言との共通点も多いとされています。なお、福島弁は県北と県中、県南で地域差がある方言です。同じ福島弁を話していても、場所によってはうまく通じない可能性があります。
会津方言
会津方言は会津弁ともいわれる方言です。東北弁の南奥羽方言に属しており、福島県会津若松市と奥会津で使われています。なお、会津若松市と奥会津では会津方言のニュアンスや響きが異なるので覚えておきましょう。奥会津では、年上の人物に対して「姉」「兄」と言った意味の敬称をつける慣習があり、地域の結束力や帰属意識を高めるのに会津方言が一役買っているようです。
日本には東北弁以外にもたくさんの方言が存在します。日本は難解な方言が多く、日本語話者であっても正しく理解するのは容易ではありません。「日本の方言について外国人に分かりやすく解説!種類もあわせてご紹介」では、日本にある方言を分かりやすくまとめています。数多くの方言が存在する理由もまとめているので、日本語の歴史や日本文化に興味がある方はあわせてチェックしてみましょう。
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東北弁の特徴
地域によって細分化されている東北弁には、ベースとなる特徴があります。ここでは、東北弁の特徴をまとめているので、言語的特徴が知りたい方や方言を話せるように練習したい方は参考にしてください。
濁音が多い
東北弁は、北奥羽方言・南奥羽方言ともに濁音での発音が多いのが特徴です。「んだ」「だべ」「へば」など、東北弁には濁音化した言葉が数多く存在します。特に仙台弁や秋田弁は濁音の発音が多いようです。なお、東北弁は「的」「窓」のように本来異なる発音の言葉が濁音化によって同じ発音になることがあるため、混乱を防ぐために「入り渡り鼻音」を用います。「窓」を「ま(ん)ど」と言うように鼻から抜ける音だけで発音するのが東北弁の特徴ですが、この区別方法は現代では失われつつあるようです。
イントネーションが独特
東北弁は標準語とは異なるイントネーションを持つ方言です。北奥羽方言は東京式アクセント、南奥羽方言は無アクセントが分布しています。なお、東京式アクセントといっても北奥羽特有のアレンジが加わっているため、標準語と全く同じイントネーションではありません。たとえば、標準語では「石」「川」などを尾高型(助詞をつけたとき最後の拍で音が下がる)のアクセントで発音しますが、東北弁では平板型(1拍目だけ低くそのあとは高い)です。一方、無アクセントが多い南奥羽方言は、単語ごとのアクセントが決まっていないため不規則にイントネーションが変化します。「橋」と「箸」、「雨」と「飴」などの同音異義語の区別がつかないのが特徴です。
県をまたぐと通じない
東北弁はイントネーションや発音に共通点が多い方言ですが、地域ごとに異なる言葉を使っているため、県をまたぐと意味が通じなくなりコミュニケーションが取りにくくなります。また、山形県内陸部方言や福島弁のように地域差のある東北弁の場合、県内でも通じないことがあるでしょう。
「し」と「す」の発音に区別がない
東北弁は「し」と「す」の発音を区別しない方言です。そのため、「寿司」が「すす」になったり「3時のおやつ」を「さんずのおやつ」と発音したりします。このような特徴的な発音やイントネーションを「東北訛り(とうほくなまり)」というので、日本語を勉強している方は覚えておくと良いでしょう。
「ち」と「つ」の発音に区別がない
東北弁では「ち」と「つ」の発音も区別しません。そのため、東北弁で「チーズ」と言いたいときには「つーづ」と発音します。このような方言を方言学では「一つ仮名弁」というので、覚えておくと良いでしょう。なお、一つ仮名弁は入り渡り鼻音と同じく、現代の中年層以下の東北弁話者には見られない特徴になりつつあります。
え段の母音で表せる範囲が共通語より狭い
東北弁は、「え」が「い」に近い発音になるのが特徴です。ただし、子音と結合している場合は「え」と「い」の区別がはっきりしています。東北弁と標準語では、え段の母音の発音が異なるため、母音だけで発音する際にい段のような発音になるようです。また、東北地方の日本海側北端部では、標準語でう段で発音する部分がお段になる傾向にあります。
一文字だけで意味が伝わる東北弁
東北弁の中には、たった一文字でコミュニケーションをとれる便利な言葉が存在します。東北地方は寒さが厳しく唇を動かすのが難しいため、1〜3文字程度で通じる短い表現が多いのです。特に津軽弁や秋田弁は1語が短く、コミュニケーションを成立させるには行間を読まなければいけません。東北弁は、日本語の中でも特に事前知識がなければ理解しにくい方言といえるでしょう。
ここでは、複数の意味を持つ一文字の東北弁の使い方や意味を例文つきで紹介します。方言を勉強したい方は参考にしてください。
「わ」の意味
「わ」は標準語で「私」という意味を持つ東北弁です。ほかにも、自分自身を表す東北弁は「おら(おれ)」「おらほ」などがあります。東北弁の日常会話でよく使われる言葉なので、ぜひ覚えておきましょう。
「これ、わの」(これ、私の)
「わはいがね」(私は行かない)
「な」の意味
「な」は標準語で「あなた」という意味の東北弁です。なお、「おめ」「おめんど」ということもあります。「わ」と同じく東方地方で日常的に使われている方言なので、覚えておくと良いでしょう。
「なはめんこいな」(あなたはかわいいね)
「などさ」(あなたはどこに行くの?)
「け」の意味
「け」は、標準語で「食え」「かゆい」「来て」という意味の東北弁です。伝えたい意味によって、「け」のイントネーションが異なります。実際のコミュニケーションで使う際は、文脈やイントネーションを参考に意図をくみ取りましょう。
「もっとけ」(もっと食べて)
「こっちけ」(こっち来て)
「まなぐけ」(目がかゆい)
「けけけ」(食べるならこっちに来て食べてね)
「く」の意味
「く」は標準語で「食べる」という意味の東北弁です。「食べて」という意味もあり、「け」に対する返答としても使われています。単体で使用することも可能なので、使い勝手の良い東北弁といえるでしょう。
「これ、く?」(これ、食べる?)
「菓子く」(お菓子を食べる)
「め」の意味
「め」は標準語で「おいしい」という意味の東北弁です。おいしいごはんやお菓子を食べたときは、「め」と表現してみましょう。なお、「め」は津軽弁なので通じるのは青森県の一部地域のみです。
「この魚はなまらめぇな」(この魚はすごくおいしいな)
「団子はめじゃ」(団子はおいしい)
「ね」の意味
「ね」は、標準語で「何もない」を意味する東北弁です。秋田弁の場合は否定や強制の意味で使うこともあるので、覚えておくとコミュニケーションに役立つでしょう。なお、「ねね」の場合は「寝ない」、「ねねね」の場合は「寝なさい」と全く別の意味を持つ言葉になります。
「ここにはね」(ここには何もない)
「飯がね」(ごはんが何もない)
一文字でさまざまな意味を伝えられる東北弁は、日本語の特徴である主語の省略を突き詰めた方言といえます。「日本語が難しい理由って?ほかの言語と比較してみよう」で紹介しているとおり、方言は日本語の習得難易度が高い理由の一つです。しかし、日本語はほかの言語に比べて発音が簡単で、曖昧な表現でも伝わる言語でもあります。日本語を勉強している外国人は、難しい部分だけでなく習得しやすいポイントにも目を向けてみましょう。
東北地方でよく聞く東北弁
東北地方でよく話されている定番の東北弁をいくつか紹介します。上記で記載した一文字で通じる東北弁とあわせて使えば、ネイティブスピーカーのようなコミュニケーションが実現できるでしょう。
しばれる
「しばれる」とは、「寒い」という意味の東北弁です。漢字では「凍れる」と書き、北海道でも通じる方言として知られています。標準語の「縛れる」は同音異義語なので、混同しないように注意しましょう。
「今日はしばれるなあ」(今日は寒いなあ)
「大雪のせいでなまらしばれる」(大雪のせいでとても寒い)
だから
東北弁の「だから」は、標準語で「だよね」という意味です。標準語の接続詞として使われる「だから」とは別物で、強い同意を表すときに使います。主に宮城県で使われている東北弁で、実際の発音は「んだがら」に近いようです。
「(相手が言ったことに同意を示す形で)だから!」
んだんだ
「んだんだ」は、相槌や同意を表す際に使う東北弁です。標準語で表すと「そうそう」になります。日常会話のなかでよく聞く東北弁なので、使い方を覚えておくとコミュニケーションに役立つでしょう。
「(相手が話す内容に同意したいときに)んだんだ」
こわい
「こわい」は、東北弁で「疲れた」「辛い」という意味です。標準語の「怖い」と間違えないように注意しましょう。「こわい」は東北地方だけでなく、北海道でも使われている方言です。なお、地域によっては「こわえ」「こうぇ」と発音します。
「なまらこわい」(とってもつかれた)
「足がこわい」(足がつかれた)
わがんね
「わがんね」は、標準語では「だめ」という意味の東北弁です。なお、地域によっては「分からない」という意味で使うこともあります。文脈やその場の雰囲気から、どちらの意味で使われているのか判断しましょう。
「悪口はわがんね」(悪口はダメだよ)
「なんもわがんね」(何にも分からない)
東北弁は韓国語やフランス語に似ている?
独特な発音やイントネーションが特徴的な東北弁は、韓国語やフランス語に似ているといわれることもあります。特に津軽弁や南部弁は、発音やアクセントのつけ方がフランス語と似ているようです。フランス語の発音には東北弁と同じく鼻音があります。そのため、訛りが強い人が話す東北弁は発音が近く、フランス語に似ているといえるでしょう。また、東北弁のイントネーションは韓国語に似ているともいわれます。韓国語話者やフランス語話者は、実際にどれくらい似ているのか、自分の耳で確かめてみるのも良いでしょう。動画投稿サイトには、東北弁を韓国語やフランス語のように話す動画がいくつも投稿されているので、ぜひチェックしてみてください。
東北地方以外で東北弁を話す人は少ない
東北地方以外で東北弁を耳にする機会はほとんどありません。その理由は、多くの東北弁話者が進学や就職を機に標準語で話すよう心掛けているためです。東北弁は基本的に東北地方以外では通じません。そのため、東北弁話者は職場の人や友だちとのコミュニケーションを円滑にしようと、標準語を話すようになるのです。また、「田舎っぽい」「恥ずかしい」という理由から東北弁ではなく標準語を話す人もいます。特に、若年層はその傾向が強く、東北弁を話せなかったり聞いても意味が分からなかったりする人が多いようです。
東北弁に興味があり、実際に会話してみたいと考えている外国人は東北生まれの高齢者と話すことをおすすめします。東北で生まれ育ち、長い間生活している高齢者は訛りが強い東北弁を話せる人がほとんどです。なお、昨今ではあえて訛りの強い東北弁を話す若年層のYouTuberもいます。日本を訪れるのが難しい方は、動画やインターネットラジオなどを通して、ネイティブな東北弁を聞いてみましょう。
まとめ
東北弁は東北地方で話されている方言の総称です。標準語とは異なる独特な発音やアクセントのつけ方が特徴で、地域によっても細かい違いがみられます。冬になると寒さが厳しい東北地方の方言は、どれも少ない単語や短い音でコミュニケーションがとれる言語です。日本文化や言語学に興味がある方、現地の言葉で会話してみたい方は東北弁を勉強してみましょう。