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人手不足解消のために外国人雇用をすると決めた際に、まず考えるのは特定技能制度もしくは技能実習制度の利用なのではないでしょうか。しかし、それぞれの違いが分かりにくく、どちらを選べば良いか迷ってしまう企業は少なくありません。
名称は似ていますが、それぞれの制度には明確な違いがあります。概要を理解すれば自社に合った制度をスムーズに選べるようになるでしょう。
この記事では、特定技能と技能実習の違いを一覧にして解説します。メリット・デメリットも踏まえて紹介しているので、ぜひ外国人雇用を始める際の参考にしてください。
目次
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特定技能とは、国内での人員確保が困難な業界で、一定の専門性や技能を持っている外国人を受け入れるための制度および在留資格のことです。企業の生産力向上や人手不足解消を目的として作られ、2019年4月から運用が開始されました。
受け入れ可能なのは以下の16職種です(2024年12月時点)。
介護※1号のみ
ビルクリーニング
工業製品製造業
建設
造船・舶用工業
自動車整備
航空
農業
漁業
飲食料品製造業
自動車運送業※1号のみ
鉄道※1号のみ
林業※1号のみ
木材産業※1号のみ
上記のうち、「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」の4分野は2024年2月に追加されました。日本語の試験と特定技能評価試験に合格した外国人には、「特定技能1号」の在留資格が付与され、累計5年間日本で就労できます。その後、指導や監督ができる程度の熟練した技能を身に付け、特定技能2号評価試験に合格すれば、在留資格の更新期限のない「特定技能2号」への移行が可能です(移行不可の分野あり)。
受け入れるには支援計画に基づいて支援業務(業務や生活のサポート)が必要ですが、登録支援機関という外部機関に委託もできます。
参照元 出入国在留管理庁「特定技能1号の各分野の仕事内容(Job Description)」
技能実習とは、日本の技能や技術を実務経験を通して外国人に移転する、国際貢献のための制度および在留資格です。技能移転が目的の制度ですが、外国人は企業と雇用契約を締結しており、賃金を得て働きます。1960代から行われていた研修制度を前進とし、1993年に制度化されました。
技能実習生を受け入れられる職種は、2024年9月30日時点で91職種167作業があり、以下はその一例です。
農業関係:耕種農業、畜産農業、林業
漁業関係:漁船漁業、養殖業
建設関係:さく井、建築板金、とび、左官など
食品製造関係:缶詰巻締、パン製造、牛豚食肉処理加工業など
繊維・衣服関係:紡績運転、織布運転、染色など
機械・金属関係:鋳造、金属プレス加工、めっき、電子機器組み立てなど
その他:自動車整備、ビルクリーニング、介護、鉄道車両整備など
社内検定型の職種:空港グランドハンドリング、ボイラーメンテナンス
在留資格「技能実習」は、「1号」「2号」「3号」の3つに区分されています。在留期間は「1号」は1年間、「2号」「3号」はそれぞれ2年間で、通算で5年間日本で働けます。在留資格を1号から2号、2号から3号に移行するには、技能を測る試験に合格しなくてはなりません。なお、3号に移行できない職種も存在します。
技能実習生を受け入れる方法は「企業単独型」と「団体監理型」の2種類です。現状、ほとんどの企業は監理団体という機関を通して技能実習生を受け入れる「団体監理型」を採用しています。
参照元 OTIT外国人技能実習機構「技能実習制度 移行対象職種・作業一覧(91職種167作業)」
ここまで特定技能と技能実習のそれぞれの特徴を解説しました。両方とも関係の深い制度ではありますが、細かく見ていくと違う点がいくつもあります。
以下は、両方の違いを比較しやすいようまとめた表です。
特定技能 |
技能実習 |
|
制度の目的 |
人材確保 |
技能移転 |
在留期間 |
|
|
職種※1 |
16職種 |
91職種167作業 |
要件 |
|
試験なし(介護職種以外) |
日本語能力 |
日本語能力検定N4相当 |
日本語能力検定N5相当 |
初期コスト※2 |
約50万~70万 |
約70万円 |
家族の帯同 |
2号移行後は可 |
不可 |
※1.2024年10月時点
※2.初期コストは弊社調べ
比べてみると、さまざまな違いがあることが分かるでしょう。特に制度の目的が大きく違う点は大きなポイントです。
ここでは、前述した特定技能と技能実習の違いを、さらに掘り下げて解説します。
特定技能 |
技能実習 |
|
制度の目的 |
人材確保 |
技能移転 |
特定技能制度は、人手不足が深刻な分野の外国人雇用を促進し、生産性を向上させることを目的として2019年4月に創設されました。一定の専門性や技能を有した外国人を即戦力として雇用できる制度です。
業界ごとの受け入れ目標はありますが、企業ごとの受け入れ上限は基本的にありません(建設、介護分野は上限あり)。同じ分野内であれば、外国人の転職もできます。異なる分野であっても、その分野の特定技能評価試験に合格すれば転職可能です。
技能実習制度は、開発途上国出身の外国人への技能移転を目的に作られました。母国の経済発展に貢献できるような人材を育て、国際貢献に繋げます。1960年代に多くの企業が海外現地法人の社員を日本によび、研修を行っていたのですが、これが原型となり、1993年に技能実習制度が制度化されました。現行の制度の仕組みになったのは、2017年の法改正からです。
技能実習制度では、適切な技能移転が行われるよう各企業ごとに受け入れ条件が設けられます。また、同一企業で実習することを前提に在留資格が許可されているため、原則転職はできません。技能実習の目的は技能移転ですから、転職していると技術が身に付きにくいという考え方が根底にあります。
特定技能 |
技能実習 |
|
在留期間 |
|
|
特定技能制度の場合、「特定技能1号」の在留資格では最長5年日本で就労できます。2号に移行すれば更新の期限がなくなり、事実上無期限で日本に在留可能です(移行不可の分野もあり)。
技能実習制度での在留期間は「1号」は1年間、「2号」「3号」は2年間で、最長5年です。5年経過後は帰国するほか、在留資格をほかの種類に変更して引き続き日本で働く外国人もいます。
特定技能 |
技能実習 |
|
職種 |
16職種 |
91職種167作業 |
特定技能制度の職種は16職種、技能実習制度は91職種167作業です(2024年10月時点)。
特定技能制度は人材不足に対応するための制度なので、「建設」「工業製品製造業」といった大まかな分類がされています。
一方、技能実習制度は技能の習得が目的のため、職種の分類が細かいのが特徴です。たとえば、建設関係の職種の場合、特定技能では「建設」という一つの分野ですが、技能実習では、「さく井」「建設板金」「左官」など22職種に分類されているという違いがあります。
※特定技能では、各分野ごとに業務区分というものがあります。建設の場合は「土木」「建築」「ライフライン・設備」の3つがあり、区分ごとに試験内容が異なります。それぞれを細かく説明するとわかりにくくなるため、ここでは省略します。
なお、技能実習については、途中で従事する職種を変更することはできません。
特定技能 |
技能実習 |
|
要件 |
|
試験なし(介護職種以外) |
「特定技能1号」の在留資格を取得するには、各種要件のほかに「日本語能力試験のN4以上獲得もしくは国際交流基金日本語基礎テストの合格」加えて「各分野ごとの技能評価試験の合格」が求められます。
一方、「技能実習1号」の在留資格に関しては、実習をしながら技能を身に付けていくという制度の特性上、試験は設けられていません。ただし、介護職種の場合は被介護者と適切にコミュニケーションを取る必要があるため、日本語能力検定N4もしくはこれと同等以上と認められている試験への合格が必要です。
なお、「18才以上であること」「過去に同じ制度を利用して就労していないこと」など、特定技能と技能実習で共通の条件もあります。
特定技能 |
技能実習 |
|
日本語能力 |
日本語能力検定N4相当 |
日本語能力検定N5相当 |
特定技能制度の場合、在留資格を得るのに日本語の試験を受けなくてはならないため、外国人がN4相当以上の日本語能力を有しているのは確実といえます。
N4は、基本的な語彙や漢字を使って書かれた身近な文章を読むことができ、ややゆっくりとした日常会話ならほぼ内容を理解できるレベルです。
技能実習制度の場合、試験は設けられていません。ただし、入国前に送り出し機関によって日本語教育が行われています。厚生労働省は入国時に日本語能力検定N4程度の能力を有しているのが望ましいと明言していますが、実際にはN5レベルの技能実習生も多くいるようです。
N5は、ひらがなやカタカナ、基本的な漢字で書かれた身近な話題の文章を理解でき、日常生活のなかでよく出会う場面でゆっくり話される短い会話であれば、必要な情報を聞き取れるレベルといわれています。
N4はN5よりも一段階上のレベルです。企業で即戦力となる外国人の雇用を促進するという制度の目的上、特定技能制度で働く外国人のほうが日本語能力が高くなります。
特定技能 |
技能実習 |
|
初期採用コスト |
約50万~70万 |
約70万円 |
特定技能制度での採用時にかかる初期コストは、外国人が日本にいるか海外にいるかで変わります。外国人を海外から呼び寄せる場合は、現地の外国人を集め日本の登録支援機関に繋げる送り出し機関に支払う資金もあるため、約70万円ほどかかるのが一般的です。
一方、すでに日本で働いている外国人や留学生を採用する場合は、送り出し機関に支払う金額がなくなるため、約50万~60万円ほどで済む場合もあります。
なお、登録支援機関に支援業務を委託しなければかなり金額は下げられますが、人手やノウハウがないと難しいため、はじめのうちは利用したほうがスムーズでしょう。
技能実習制度の場合、海外の送り出し機関と監理団体に支払う金額は約70万円ほどです。この金額は採用する国や送り出し機関、監理団体によって変わってきます。
初期費用とは別に、特定技能で約2~3万円/月、技能実習で約3~5万円/月の管理費用がかかるのが一般的です。さらに、技能実習の場合は監理団体の年会費が発生するため、総じて技能実習の方が採用にかかる金額は大きいといえるでしょう。
特定技能 |
技能実習 |
|
家族の帯同 |
2号は可 |
不可 |
特定技能制度の場合、在留資格を2号に移行すれば配偶者および子どもを母国から呼び寄せられます。家族には「家族滞在」の在留資格が付与され、資格外活動許可を得れば定められた範囲内でアルバイトも可能です。
技能実習制度の場合、家族の帯同は許可されていません。技能実習生が家族と一緒に暮らすには、配偶者や子どもが何らかの在留資格を取得する必要があります。
関連記事:「特定技能1号・2号の違いを分析!対象分野や取得方法とは?」
参照元 日本語能力試験公式ウェブサイト「N1~N5:認定の目安」
ここまで、特定技能と技能実習の違いを説明してきました。そのうえで、どちらを選ぶべきなのか、決めかねている方もいるでしょう。ここでは、それぞれのメリットやデメリットを解説します。自社にはどちらの制度があっているのか、検討する際の判断材料にしてください。
特定技能制度のメリット・デメリットは以下のとおりです。
【メリット】
即戦力として働いてもらえる
技能実習よりコストを抑えられる
業務の制限が少ない
雇用後の管理がしやすい
【デメリット】
企業都合での解雇者がいると雇用不可
試験の回数が少ない
転職ができてしまう
支援業務が必要
要件を満たす人が少ない
それぞれ詳しく解説していきます。
特定技能制度では日本語や技能の試験が設けられているため、即戦力の人材を雇用できるメリットがあります。業務の制限が技能実習に比べて少なく、登録支援機関に委託すれば企業のサポートも最小限で済むので、人手不足の企業でも雇用しやすいでしょう。
また、技能実習よりコストを抑えられる点も魅力的です。
特定技能制度では外国人の転職が可能なので、より適した条件の企業があった場合、人材が流出してしまうリスクがあります。また、技能試験の実施回数が少ないため人材の確保が技能実習より難しい点や、登録支援機関に委託しない場合は自社で支援業務を行わなくてはならない点もデメリットです。
さらに、過去1年以内に会社都合で同じ業務をする日本人の退職者を出している企業は特定技能外国人を雇用できないという注意点もあります。理由は、辞めさせた人の補填で特定技能制度を利用することは、本来の制度の趣旨から外れてしまうためです。
また、特定技能の場合、本人の要件(日本語能力試験N4以上、技能評価試験への合格)がありますので、技能実習に比べて対象者が少ないというデメリットもあります。
日本にすっかり浸透している技能実習制度ですが、メリットはもちろんデメリットもあります。
【メリット】
まとまった人数を雇用できる
転職できないため人材が流失しにくい
確実に採用しやすい
【デメリット】
監理団体の加入が必須
教育に時間を要する
行える業務の幅が狭い
以下で詳しく解説していきます。
技能実習生は、希望すれば複数人をまとめて同じタイミングで雇用することができます。企業の常勤職員の人数によって上限は決められていますが、毎年決まった人数を確実に受け入れられるのは、通常の募集方法にはないメリットです。
また、技能実習生は基本的に転職できないので、人材が流失しにくいという特徴もあります。監理団体および送り出し機関を通して人材を紹介してもらうので、通常の採用手法のように募集しても人が集まらず採用できないという事態にはなりにくいでしょう。
技能実習は間に入る団体が多いため、特定技能と比較すると受け入れまでにコストや時間がかかりやすいのがデメリットといえます。また、外国人への技能移転が適切に行われるよう細かな取り決めがあるため、企業が提出する書類や手続きが多く煩雑になりがちです。
人手が不足している企業にとっては、教育に時間がかかるのもデメリットの一つ。実習をしながら技能や日本語を覚えていくため、雇用してしばらくは丁寧な指導や見守りが欠かせません。行える業務が細かく限定されていることもあり、さまざまな仕事を臨機応変に任せたい企業には不向きな制度といえます。
特定技能と技能実習のメリット・デメリットをまとめると、それぞれ以下のような企業におすすめできます。
コストを抑えつつ、技能や日本語能力が高い外国人を雇用したい場合は、特定技能制度を選ぶのが望ましいでしょう。また、状況によってさまざまな業務を任せたいときは、単純労働も可能な特定技能外国人を雇用したほうがスムーズです。
ある程度まとまった人数を継続的に雇用したい企業には、技能実習制度が適しています。外部機関の充実した支援を受けることを希望する場合や、任せたい業務が限定的で、特定の作業に特化した人材を求めている企業も同様です。
職種や企業の状況によって状況は異なりますが、上記をもとに自社でどちらの制度を利用するか比較検討してみましょう。
外国人特化の人材紹介サービス「WeXpats」は、特定技能外国人と技能実習生の紹介どちらにも対応しています。どの制度を選べば良いか分からない企業様は、専門の知識を持ったキャリアアドバイザーにご相談ください。業務内容や予算などをもとに、企業様に適した制度を提案させていただきます。
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参照元 出入国在留管理庁「特定技能外国人受入れに関する運用要領」
技能実習生は、技能実習2号を良好に修了した場合、関連ある分野であれば試験無しで在留資格を特定技能1号に変更できます。また、異なる分野であっても、日本語の試験は免除対象です。
「良好に修了」とは、技能実習を2年10ヶ月以上修了したうえで、以下の条件のどちらかを満たしている状態を指します。
技能検定3級もしくはそれに相当する技能実習評価試験(専門級)の実技試験に合格している
試験には合格していないものの、実習実施者が作成した評価調書などで、技能実習を良好に修了したと認められる
本人に就労を継続する意思があれば、まずは技能実習生として雇用し、あとで在留資格を特定技能に移行するのも一つの方法でしょう。
関連記事:「技能実習から特定技能へ変更は可能?手続きやメリット・デメリットを解説」
技能実習制度は2027年を目途に、育成就労制度に変わることが決定しています。これから技能実習生の雇用を検討する企業は、この点も把握しておきましょう。
技能実習制度は、開発途上国出身の外国人に技能を移転する国際貢献を目的としていました。一方、変更後の育成就労制度は「人材育成および人材確保」が目的です。3年間の育成期間で外国人を特定技能1号の水準まで教育し、在留資格を移行することが前提となっています。
はじめから人材確保を目的としており、技能実習のように技能移転の義務がない分、企業にとってはより雇用しやすくなるでしょう。
育成就労制度の職種は、特定技能制度に合わせて統合されます。一部の企業からは、技能実習制度から育成就労制度に変わることで、対象職種から外れるのではという懸念の声もありました。そのような事態に対応するため、今後さらに特定技能の分野の見直しが行われる予定です。
育成就労制度は2027年度からスタートしますが、激変緩和措置として3年間の移行期間が設けられます。
特定技能と技能実習は名称は似ているものの、実際には細かな違いがあります。それぞれ適している企業が異なるので、特徴を見極めて自社に合った制度を選択しましょう。
なお、2027年には特定技能制度への移行を前提とした育成就労制度もスタートします。将来的な受け入れを検討している企業は、併せてチェックしてみてください。
執筆:WeXpats
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