日本語は、ネイティブスピーカーである日本人以外の習得が難しい言語です。文法や発音が異なるアメリカやヨーロッパ圏はもちろん、日本と同じく漢字を使う中国に住む人々にとっても、日本語の習得は容易ではありません。そこで、このコラムでは日本語の習得が難しい理由を、言語的特徴を踏まえて解説します。日本語を習得したい方や母国語との違いが知りたい方は、チェックしてみましょう。
目次
日本語の特徴とは
文法や発音、文字の読み書きなど日本語はさまざまな要素で構成されています。日本語をマスターするにはそれぞれの特徴を把握し、しっかり勉強しなければなりません。日本語の勉強がうまくいかないときは、言語的特徴をきちんと理解できていない可能性があります。
既に日本語を、なんとなく難しいな..と感じている方は、まず「日本人でも日本語を難しいと思う理由とは?外国人が習得する方法も解説!」の記事を読んで日本語のポイントをおさえておくのもおすすめです。
ここでは日本語の文法や発音、文字などの特徴を解説するので勉強の参考にしてください。
文法
日本語の文法の基本語順は、SOV(主語・目的語・動詞)です。そのため、最後まで聞かないとどのような内容か分かりません。英語やフランス語といったSVO型の言語に慣れている方は、日本語の文法を覚えるのに一苦労するでしょう。一方で、ドイツ語やオランダ語、ラテン語などのSOV型の語順を使う言語が分かる方であれば、比較的日本語の文法を理解しやすいといえます。ほかにも、日本語の文法にはさまざまな特徴があるので、以下の内容もあわせて覚えておきましょう。
男女を区別する必要がない
人や物事、場所を表す言葉を日本語で名詞といいます。日本語の名詞は性別にかかわらず使えるため、男女を区別する必要がありません。フランス語やスペイン語のような男性名詞・女性名詞はないので覚えておきましょう。また、日本語の名詞は人と物の区別もしません。その理由は、物事の名称を表す名詞が主語になるからです。普通名詞や固有名詞、代名詞など日本語の名詞にはさまざまな分類があります。人や物、場所などを表す言葉はすべて名詞になるので、日本語は文法上、男女を区別する必要がないのです。名詞が主語の役割を果たすため、「医者です」「先生です」というように、性別を言わなくても日本語の文章として成立します。
物の数に左右されない
日本語の名詞は単数・複数を問わないのが特徴です。たとえば日本語で「花です」と言われても、何本の花があるのかは分かりません。1〜2本程度の場合もあれば、数えきれないほど花が咲いている場合もあるでしょう。このように、日本語の名詞は数に関わらず物を表せます。人の場合も同じで「あの子には妹がいます」と言われたとき、妹が何人いるかは分かりません。受け手の知識や想像力、資格情報などによって正しい数を認識してもらう必要があります。普段英語を使っている方は、不可算名詞をイメージすると日本語の名詞の使い方が理解できるでしょう。
動詞の活用によって表現の幅が広がる
SOV型が基本語順の日本語の文章には、大きく分けて名詞文・動詞文・形容詞文があります。それぞれ文章構造が異なり、表現できる内容にも違いがあるのが特徴です。日本語の文章で表現の幅を広げるには、動詞の活用形を覚える必要があります。日本語の動詞の活用形は以下の6種類です。
- 未然形
- 連用形
- 終止形
- 連体形
- 仮定形
- 命令形
まだ起きていないことを表す際は未然形、誰かに命令するときは命令形というように日本語を使い分けられるようになると、コミュニケーションがスムーズに取れます。しっかり勉強したい方は、日本の中高生向けの参考書を読んでみると良いでしょう。また、言葉と言葉をつなぐ役割を持っている助詞を使うと日本語で複雑な内容も説明できます。ネイティブ並みに日本語を使いこなせるようになりたい方は、動詞の活用を勉強してみましょう。
曖昧な表現が多い
日本語の文法は、受け手に判断を任せるあいまいな表現が多いのが特徴です。似たような内容の文章でも、言葉選びや語尾によって異なる印象を与えます。些細な表現の違いが、誤解を生んだり失礼になったりするため、日本語は難しいと感じる人も多いようです。たとえば「これは花だね」「これは花です」はどちらも花であることを肯定する表現ですが、後者のほうが丁寧な印象があります。ほかにも「私は好きだけど、あなたは苦手かも」というように、はっきりと断言しない表現が多いのが日本語の特徴です。最終的な判断を相手にゆだねる曖昧な表現は、日本語にしかない特徴ともいえます。
文末にならないと話の趣旨が分からない
日本語は文末までしっかり確認しないと、話の趣旨がわからない言語です。その理由は日本語の基本語順がSOVであることと、曖昧表現の多さにあります。日本語は動詞の活用形によって文章の内容が変化するため、文末が分からないと話の趣旨がわからないのです。英語の場合は文章のはじめのほうに「can」「if」「not」など状態を表す言葉があるので、英語圏の方は日本語との語順の違いに戸惑うでしょう。
文法に関しては「日本語の文法の基礎とは?外国人に向けて正しい文章をつくるコツを解説」記事でも詳しく説明しています。具体的な文章を作成していくコツなども掴むことができるのでぜひ参考になさって下さい。
文字
日本語にはひらがなとカタカナ、漢字の3種類の文字があります。日本語以外に、複数の文字を使い分ける言語はほとんどありません。ひらがなとカタカナはそれぞれ46文字ですが、漢字は常用漢字だけでも2,000字以上あります。日本人でさえ、基本的な漢字(教育漢字)の読み書きの勉強を6年かけて行います。漢字に慣れていない人にとって、日本語の読み書きの勉強はハードルが高いでしょう。
ひらがな
ひらがなは、発音を音で表す音節文字です。日本語の読み書きを学ぶ際、最初に勉強する文字でもあります。ひらがなは一部の例外を除いて1文字1音です。反復練習を行えば、短期間でひらがなの発音をマスターできるでしょう。ただし、ひらがなの書き取りは簡単ではありません。ひらがなは漢字をもとにして文字が作られているため、書き方が独特で複雑です。そのため、間違えずにひらがなを書くには、根気強く書き取り練習を続ける必要があります。
カタカナ
カタカナはひらがなと同じく発音を音で表す音節文字です。外来語や外国語、和製英語を日本語で表すときにカタカナが使われます。ひらがなと同じく漢字をもとに文字が作られていますが、字画がシンプルなので、日本語を勉強している方でも書きやすいでしょう。
漢字
漢字は、日本語を勉強する際の最も難しいポイントともいわれています。一つの漢字に読み方が複数あったり書き方が複雑だったりするため、日本人でも間違える人が多い文字です。なお、漢字は音節文字ではないため、一文字一文字に意味が込められています。漢字を2つ以上組み合わせて特殊な読み方をする場合もあるので覚えておきましょう。たとえば、「日」という漢字は本来「ひ」「にち」と読みます。しかし、「明日」という言葉になると「あした」もしくは「あす」と読むのです。このように特殊な読み方になる言葉を、日本語で「熟字訓(じゅくじくん)」といいます。熟字訓の読み書きができると日本語でのコミュニケーションがスムーズになるので、ぜひ勉強してみてください。
発音
日本語は母音が5音、子音が13音しかないのが特徴です。細かいアクセントやイントネーションの違いを意識して正しく発音しないと、言葉の意味や印象が変わってしまうことがあります。
日本語を母語としない人が、わずかな違いを意識して正しい発音を身につけるのは簡単なことではありません。また、日本語を勉強している方の出身国によって、発音しにくい日本語は異なります。たとえば、英語を母語とする人は、母音が続いたり小さい「つ」が入ったりする日本語の発音が苦手な傾向にあるようです。どちらも英語の発音にはないので、身につけるのに苦労するでしょう。普段フランス語やイタリア語、スペイン語を話している人は、「h」の発音をしないため、日本語の「は行」が難しいと感じる傾向にあります。中国語話者の場合は、「た」「だ」といった清音と濁音を区別して発音するのが難しいと感じるでしょう。
日本語は独特な発音を持つ言語です。日本語をきれいに発音したい方は、基本的な口の形や舌の位置のチェックから始めてみましょう。
語彙
日本語にはたくさんの語彙があり、同じ意味を持つ違う言葉も複数存在します。日本語を勉強している方は、あまりの語彙の多さに戸惑うこともあるでしょう。ここでは、特に複雑な人・数に関わる語彙の特徴を紹介するので、勉強の参考にしてください。
人に関わる語彙
日本語は人に関わる語彙が多く、状況や誰について話しているかによって使い分けが必要です。たとえば、英語の「doctor」と同じ意味の日本語は「医者」「医師」があり、丁寧な言い方の「お医者さん」「お医者様」などもあります。人によっては「先生」と呼ぶこともあるでしょう。先生は物事を教える人を表す言葉で、教師や医者、小説家、漫画家などに対して使う場合もあります。
日本語は一人称も複数あるのも特徴です。「私」「僕」「俺」など、自分自身を表す語彙がたくさんあります。日本語は語彙が多く覚えるのが大変ですが、その分複雑で細かい表現が可能です。表現豊かな日本語は、語彙の多さによって成り立っているといえます。
数を表す語彙
日本では1から10まで数を数える際、「4」を「し」または「よん」といい、「7」を「しち」か「なな」と発音します。発音が違っても同じ数字を表すので、覚えておくと良いでしょう。なお、数を表す語彙は特殊な読み方・発音をする傾向にあるので日本語を勉強する際は間違って覚えないよう、注意が必要です。たとえば、「700」は「ななひゃく」、「70」は「ななじゅう」と発音します。「しちひゃく」「しちじゅう」とは言いません。このように発音が不規則に変化するので、数を表す語彙は複雑だといわれています。
母語や国にかかわらず、日本語は難しい言語だというのが海外の反応です。しかし、外国人が日本語を学ぶ際に難しいと感じるポイントは、母語によって異なります。自分と同じ母語の方がどのようなポイントで日本語を難しいと感じるのか気になる方は、「日本語に対する海外の反応って?外国人に人気の言葉も紹介」をチェックしてみましょう。
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日本語にしかない特徴
ここでは、日本語にしかない特徴を紹介します。厳密にはほかの言語にもある特徴も含まれてますが、日本語を学ぶうえで重要なポイントなので、しっかりチェックしておきましょう。
本音と建前
本心で思っていることを別の言葉で表現する「本音」と「建前」の使い分けは、日本語にしかない特徴です。日本語の建前は嘘と混同されることが多いですが、相手をだましたり傷つけたりするために使われる言葉ではありません。建前とは、表向きの方針や考えを表す日本語です。たとえば、服屋の店員は「お客さんに洋服を購入してほしい」というのが本音です。本音を直接的にアピールしても、洋服を購入する人は少ないでしょう。そこで、「この色がお似合いです」「スタイルが良く見えますね」というように、建前を使うことで洋服を購入してもらうのです。
本音と建て前の使い分けはビジネスシーンを中心に、日常生活でも行われています。相手の発言が本音か建前かは、日本人でも簡単に判別できません。日本語でのやり取りに慣れてくると、相手の表情や仕草、声のトーンなどから本音と建前を推測できるでしょう。
「本音と建前とは何?日本人がよく使う理由や言葉の意味を外国人向けに紹介」では本音と建前をなぜ使い分けるのか理由について解説しているので気になる方はぜひ読んでみてください。
行間を読む
文章や発言では表現されていない本当の気持ちを読み取ることを、日本語で「行間を読む」といいます。行間を読む習慣は日本語にしかない特徴です。「言葉の裏を読む」「空気を読む」などが類語にあるので、覚えておくと良いでしょう。
小説や漫画といった創作物では、行間を読む必要がある文章が多い傾向にあります。日常生活のなかでも、行間を読むことを求められるときがあるでしょう。ただし、行間を読む行為はあくまで推測の域を出ないため、間違った気持ちを読み取ってしまうとトラブルになることもあります。また、常に言葉の行間を読んでいると、コミュニケーションに疲れてしまうでしょう。相手の言葉の真意が知りたいときは、きちんと質問することも大切です。日本語を上手に使いこなしたい方は、コミュニケーションのバランスを意識してみてください。
主語が省略される
日本語は動詞や形容詞を変えることなく、主語を省略できる言語です。主語を省略しても通じる言語はいくつかありますが、品詞を変えなくても良いのは日本語だけでしょう。たとえば、以下の例文は主語が省略されていますが、日本語のネイティブスピーカーであればスムーズに読めます。
「英語を話すのは苦手だ」
「一緒にゲームしよう」
「昨日一緒に見に行った映画は面白かった」
日本語を勉強している方に分かりやすく説明すると、上記の例文の主語は以下のとおりです。
「(私は)英語を話すのは苦手だ」
「(私と)一緒にゲームしよう」
「昨日(あなたと)一緒に見に行った映画は面白かった」
日本語は主語を省略しても、動詞や形容詞から誰の話なのかを推測できます。日本語は聞き手側に察する力が求められる言語なので、慣れるまでは日本語でのコミュニケーションが難しく感じるでしょう。
同じ意味を持つ言葉が複数存在する
日本語は同義語が多いのが特徴です。先述したように自分自身を表す一人称だけでも、数えきれないほどたくさんの種類があります。ほかにも、「力持ち」なら「強力」「怪力」「剛腕」、「自分」なら「本人」「自己」「当事者」などが同じ意味を持つ日本語です。同じ意味を表す言葉が複数存在し、状況や相手に応じて言葉を変えられるのは日本語の特徴といえます。
日本語は会話と文章で異なる言葉を使う
日本語はコミュニケーションを取る媒体や相手によって、言葉を変える必要がある言語です。ここでは、文章上で使う書き言葉と会話で使う話し言葉、目上の人とのコミュニケーションに必要な敬語について紹介します。
書き言葉と話し言葉
日本語の書き言葉はやや角張った印象がある一方で、話し言葉はラフな印象があります。たとえば、「食べちゃった」を書き言葉に直すと「食べてしまった」です。書き言葉を会話で、もしくは話し言葉を文章で使うとちぐはぐな印象になってしまうので注意しましょう。特にビジネスメールや公的な文章で話し言葉を使うのはNGです。話し言葉は主に以下のタイプに分類されます。
- ら抜き言葉(い抜き言葉)
- 若者言葉
- 本来とは意味や使い方が異なる言葉
- 不必要な表現が入る言葉
具体的な例を挙げると、「みたいな」「めっちゃ」「私的には」「着れる」などは話し言葉です。友だちや家族とのメールは話し言葉を使っても問題ないので、上手に使い分けましょう。
尊敬語・丁寧語・謙譲語の違い
目上の人に使う日本語は「敬語」といいます。ビジネスシーンや公の場では、敬語が使えないと社会人として信用してもらえません。敬語にも話し言葉と書き言葉があるので、正しく使い分けられるよう勉強しましょう。たとえば、相手の会社を表す敬語は書き言葉で「貴社」、話し言葉で「御社」です。
敬語には尊敬語・丁寧語・謙譲語といった分類もあります。目上の人が主語の場合は尊敬語、誰にでも使えるのが丁寧語、自分や身内が主語の場合は謙譲語です。一般的な日本語を敬語で表す際、どのように変化するかは、以下の表を参考にしてください。
基本形 |
尊敬語 |
丁寧語 |
謙譲語 |
言う |
おっしゃる |
言います |
申し上げる |
見る |
ご覧になる |
見ます |
拝見する |
来る |
いらっしゃる |
来ます |
伺う |
日本語は、状況や相手に応じた言葉選びを必要とする言語です。日本語を母語としない人が、日本人のように主語や目的語を省略して会話したり同音異義語を文脈で判断したりするのは、簡単ではありません。そこで、「外国人が難しいと感じる日本語とは?難しい理由から例文まで徹底解説!」を参考に実践的な勉強をするのがおすすめです。例文を使って日本語の使い方や読み方を紹介しているので、勉強の参考にご覧ください。
また、敬語に関しては「日本語の敬語の種類や使い方を外国人に向けて解説!」にて網羅的に解説しているのでそもそも敬語の種類や使い方など基本的な使い分けを知りたい方はこの記事もおすすめです。
日本語の特徴である複雑さや曖昧さは国民性が理由
日本語は曖昧な表現や複雑な言い回しを使うことで、相手にやんわりと気持ちを伝える言語です。自分の意思を通すよりも、協調性を重んじる日本人の国民性が言語に表れているといえます。
日本語はほかの言語に比べて、文章や言葉に込められた意味を受け手に読み取ってもらう必要がある言語です。つまり、話し手にも聞き手にも、日本語に対する深い知識と理解力が求められます。ほとんどの日本語話者は、無意識に主語や目的語を省略したり文脈から相手の気持ちを読み取ったりしていますが、日本語を母語としない人にとっては難しい行為でしょう。そのため、日本語の文法や会話を勉強したにもかかわらず、コミュニケーションがうまくいかない人は少なくありません。ネイティブスピーカーのように日本語を使いこなしたい方は、日本人の国民性や特徴を踏まえたうえで、実践的な会話練習を行うことをおすすめします。
日本語表現を理解するには、まず勉強してみよう!
これまで紹介してきた日本語表現を理解していくには、日本語の勉強を進めていく必要があります。WeXpatsではいくつかの日本語の勉強法の記事があるのでぜひ参考にしてください。無料で気軽に勉強したい方は、「日本語の勉強は無料で行える!おすすめの学習方法を6つ紹介」の記事がおすすめです。また、初心者でまずは何から勉強したらよいか悩んでいる方は「日本語初心者におすすめの勉強方法を紹介!間違えやすいポイントとは」の記事でポイントを抑えてから勉強を始めるとよいでしょう。
その他にも、ドラマやアニメを参考にして日常的に日本語の勉強を取り入れることで継続的な学習効果が得られる可能性が高まります。「ドラマを日本語勉強に活かす方法は?おすすめの作品10選」ではおすすめのドラマを紹介、「日本語の勉強におすすめのアニメは?好きを活かして楽しみながら学習しよう」では勉強に適した日本のアニメの紹介もしています。
自分にあった勉強法で楽しみながら学習できる方法を探せるとよいでしょう。
まとめ
日本語は聞き手や読み手となる人物に合わせて表現を変えたり、曖昧な表現で判断をゆだねたりするのが特徴の言語です。実際の日本語のコミュニケーションでは、言葉や文章で表現されていない内容まで考えなければなりません。そのため、日本語をネイティブ並みに使いこなすには、行間を読む力や察する力が必要です。言語的な特徴や日本人の国民性を理解したうえで日本語を勉強すれば、実際のコミュニケーションでつまずく可能性は低くなるでしょう。