外国人雇用・採用の疑問を解消するメディア
特別永住者の採用にあたり、在留資格の概要や永住者との違いが分からずお困りの担当者の方もいるかもしれません。
特別永住者は永住者と同様に、在留期間や就労に制限がないのが特徴です。一方で、特別永住者は在留カードではなく、特別永住者証明書を所持しているといった違いもあります。
この記事では、在留資格「特別永住者」の歴史的背景や特徴などについて解説。雇用の際の注意点も紹介しているので、ぜひご一読ください。
目次
外国人採用の疑問をプロに相談してみませんか?
制度や手続きが分かりにくい
コミュニケーション上の不安がある
効果的な募集方法を知りたい
こんな悩みをお持ちの方はお気軽にご相談ください。
特別永住者とは、入管特例法で定められた特別な在留資格を指します。第二次世界大戦中に日本国籍を持ち、終戦後に国籍を離脱した在日韓国・朝鮮・台湾人やその子孫が主な対象者です。
第二次世界大戦中、日本は台湾や韓国、満州(現在の中国の一部)などを統治下に置いており、これらの国・地域から日本本土に移り住む人や仕事を求めて来る人がいました。
その後、第二次世界大戦が終結し、1951年にサンフランシスコ平和条約が締結されます。平和条約によって、日本の統治下にあった国・地域が独立したり、ほかの国の領土となったりしたため、多くの人々が日本国籍を離脱しました。これらの人々を平和条約国籍離脱者と呼びます。
日本本土で暮らしていた平和条約国籍離脱者の祖国への送還は難航し、韓国や中国、台湾国籍を持つ人々の一部は日本にそのまま在留することになりました。
平和条約国籍離脱者とその子孫には、今後も日本で暮らせるよう在留資格「特別永住者」が与えられており、2023年末時点でその総数は281,218人に上ります。
参照元:出入国在留管理庁「令和5年末現在における在留外国人数について」
「永住者」「帰化」は特別永住者と混同されやすい言葉ですが、実際は全く異なる意味を持ちます。外国人雇用を行う企業は、それぞれの意味をきちんと把握しておきましょう。
在留資格「特別永住者」「永住者」の共通点は、就労や在留期間に制限がないことです。
しかし、在留資格に関する法律や取得要件など、異なる点もあります。
「特別永住者」と「永住者」の相違点の一つは、在留資格に関する法律です。特別永住者には「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」、永住者には「出入国管理及び難民認定法」が適用されます。
在留資格を取得できるのは特別永住者の場合、平和条約国籍離脱者かその子孫に限られます。永住者は、「原則10年以上日本に居住している」「素行が善良である」「経済状況が安定している」ことなどが要件です。
「特別永住者」と「帰化」の違いは、日本国籍の有無です。
特別永住者は日本での居住が認められていますが、国籍は日本ではありません。一方、帰化は「外国人が日本国民になること」を指すため、帰化許可申請を認められた外国人が有するのは日本国籍です。
なお、特別永住者が帰化する場合は審査要件が緩和されており、日本人との結婚や就職のために帰化許可申請を行う人もいます。
関連記事:「在留資格「定住者」の外国人を雇用するポイントは?永住者との違いも解説」
参照元:出入国在留管理庁「永住許可に関するガイドライン(令和6年11月18日改訂)」
特別永住者は本人や父母、祖父母などがかつて日本国籍保有者だった背景を持つため、退去強制(強制的な国外追放)となる条件が緩和されています。
特別永住者以外の外国人が退去強制となる要件は入管法で細かく定められているのに対し、特別永住者の場合は入管特例法に記載のある4項目のみが条件です。
下記のとおり、日本の治安や利益、外交に関わるような重大な罪を犯した場合に退去強制の対象となります。
参照元:e-Gov法令検索 「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(平成三年法律第七十一号)」
日本に在留している外国人が再入国を前提に一時出国する場合、あらかじめ再入国許可を申請できます。再入国許可の有効期間は特別永住者であれば6年、ほかの在留資格であれば5年が最長です。
なお、「みなし再入国許可」という制度があり、特別永住者が出国から2年以内に再入国する場合は再入国許可申請が不要になります。ほかの在留資格であれば、出国してから1年以内の場合が対象です。
再入国許可・みなし再入国許可のいずれも、特別永住者のほうが上限が1年長いという特徴があります。
参照元:出入国在留管理庁「再入国許可申請」
特別永住者に交付されるのは在留カードではなく、特別永住者証明書です。特別永住者証明書は在留カードと見た目が似ていますが、常時携行義務がないなど在留カードと異なる点もあります。
参照元:出入国在留管理庁「特別永住者の制度が変わります!」
特別永住者証明書の記載項目は以下のとおりです。
なお、顔写真が載るのは16歳以上です。
特別永住者証明書には有効期限があります。所有者が16歳未満の場合、有効期間は16歳の誕生日までです。ただし、特別永住者証明書が2023年11月1日以降に交付された場合は、16歳の誕生日の前日までとなります。
16歳以上の場合は、申請・届出後から数えて7回目の誕生日までが有効期間です。つまり、16歳以上の特別永住者は、7年ごとに新しい特別永住者証明書を取得する必要があります。
在留カードと特別永住者証明書の違いの一つは、証明する対象です。
在留カードは、外国人が在留資格と在留期間を有し適法に在留していることを証明します。一方、特別永住者証明書は特別永住者の法的地位などを明らかにするものです。証明できる在留資格は在留カードの場合さまざまですが、特別永住者証明書の場合は特別永住者のみに限られます。
また、特別永住者証明書は在留カードと異なり、常時携行義務がありません。運転免許証などと同じく、必要なときに保持していればよいというルールになっています。
本来、日本で在留資格を得て滞在する16歳以上の外国人は、在留カードを常に携帯する必要があります。しかし、特別永住者証明書については「歴史的経緯に鑑み、特別の配慮が必要」という理由で、常時携行義務はありません。そのため、面接や雇用契約締結に際して特別永住者証明書が必要な場合は、事前に連絡しておくのが親切です。
なお、特別永住者証明書で確認できる内容の多くは住民票や運転免許証等でも確認できます。企業として把握したい内容が住民票で事足りる場合、むやみに特別永住者証明書の提示を求めるのは避けましょう。詳しくは「特別永住者証明書の提示を求めるのは必要最低限にする」の項目でも解説しています。
参照元:出入国在留管理庁「特別永住者の制度が変わります!」
特別永住者は歴史的背景から日本での在留を認められている外国人のため、企業で雇用する場合はさまざまな配慮が必要です。外国人と信頼関係を築くためにも、適切な対応方法を把握しておきましょう。
通常、外国人雇用を行う企業はハローワークに「外国人雇用状況の届出」を行う義務があります。しかし、特別永住者は届出の対象ではありません。ほかの外国人と同じように手続きを行う必要がないため、覚えておきましょう。
企業が外国人を雇用する際は在留カードを確認するよう義務づけられていますが、特別永住者証明書は確認の必要がありません。
先述したように特別永住者証明書は常時携行義務がないため、むやみに提示を求めるのは失礼になる可能性も。特別永住者には歴史的背景があることを理解し、提示してもらうのは必要最低限にしましょう。
特別永住者には、本名のほかに日本で生活する際に使う通称名があります。
通称名は特別永住者証明書に記載されませんが、役所に登録されている場合は法的効力があり、公的手続きへの利用が可能です。たとえば、住民票に載っている通称名であれば、健康保険の資格確認書に記載できる健康保険組合もあります。
そのため、通称名と本名のどちらで就労を希望するのかを、雇用前に確認しておきましょう。また、就業規則で通称名の利用を禁止している場合は、本人に事前に説明することをおすすめします。
特別永住者が加入する各種保険の手続きや税金の控除は、日本人と同じように行います。
外国人特化の人材紹介サービス「WeXpats」では、在留資格や関連手続きについてご相談いただくことが可能です。外国人雇用に不安を感じられる方も安心してご利用いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
日本の旅券を持っていれば、ほとんどの国に短期間滞在できます。つまり、短期間の出張であれば、特に相手国のビザを取る必要がないことが多いです。韓国籍を持っている場合も、日本国籍者とほぼ同様ですが、中国籍の場合、相手国のビザが必要なことが多いです。
相手国のビザを取るには、本国(母国)からの書類取得や審査に日数がかかりますので、この点を考慮しておきましょう。
特別永住者の中には、日本で生まれ、日本で育った人も少なくありません。日本語は完璧であり、履歴書等にも通称名を使用していれば、外見的にも外国人だとわからない場合も多いです。このため、外国人だと知らずに採用していたというケースも多くあります。
結論としては、特別な対応は必要はありません。
これまで説明したように、特別永住者は就労に関する制限はありません。日本で働くことに関しては、日本人と同じ法律が適用されます。ですから、特別永住者だと知らずに雇用していても特に問題はありませんのでご安心ください。
在留資格「特別永住者」には、日本の歴史的背景が大きく関わっています。企業が特別永住者を雇用する際はルーツを正しく理解し、適切な配慮を行う必要があるでしょう。
また、特別永住者はハローワークへの届出が必要なかったり、特別永住者証明書の確認が必須でなかったりと、ほかの在留資格の外国人とは異なるポイントが多々あります。特別永住者を雇用する際は、相手に失礼のないよう事前に対応方法を把握しておきましょう。
監修:濵川恭一
外国人専門の人材ビジネス会社勤務を経て、外国人のビザ専門行政書士事務所を設立。専門分野は、就労ビザ申請、外国人採用コンサルティング。著書に、「これ1冊でまるわかり!必ず成功する外国人雇用」、「実務家のための100の実践事例でわかる入管手続き」等がある。 http://svisa.net