ログインしてください
これから外国人雇用をスタートする企業には、日本語能力試験(JLPT)のどのレベルを採用基準とするか迷っているところもあるでしょう。N1やN2保所有者を求める企業は多いですが、職種によってはそれ以下のレベルでも十分職務を全うできる場合があります。このコラムでは、日本語能力試験の各レベルの認定基準や採用への活かし方を紹介。このコラムの内容を参考にして、自社に相応しい人材を採用しましょう。
目次
日本語能力試験(JLPT)とは、日本語を母語としない人の日本語運用能力を測定し、認定するための試験です。2019年の受験者数は全世界で116万人以上にものぼり、世界最大規模の日本語能力を測定する試験といえます。日本語能力試験は、日本語の知識のみを問う試験ではありません。言語知識(文字・語彙・文法)、読解、聴解の3つの要素から、課題遂行のための言語コミュニケーション能力」を測る試験です。
参照元 日本語能力試験公式ウェブサイト「日本語能力試験とは」
日本語能力試験(JLPT)はN1からN5の5段階のレベルに分かれています。最も難易度が高いのがN1で、数字が大きくなるにつれ易しくなるのが特徴です。ここでは、日本語能力試験の各レベルの内容と過去問題を紹介します。各レベルの基準やどのような問題が出題されているのかを知って、外国人採用に活かしましょう。
N1は幅広い場面で使われる日本語を理解できるレベルです。日本の医師や看護師、獣医師などの国家試験を受験するには、N1に合格しなくてはなりません。なお、2021年7月実施分のN1の合格率は国内外合計で39.4%でした。
日本語能力試験のN1の難易度を表す際に、「日本人でも難しい」との表現がよく使われます。日本人が不合格になるとまではいかないものの、慎重に解答しなければ満点を取るのは困難なレベルでしょう。
幅広い話題を取り扱う新聞や論説など、難しい文章の構成や内容をしっかり理解できるレベルです。また、N1では、内容に深みのある文芸書や実用書などを読んで、話の流れや表現意図を掴む力が求められます。
日本人が話すような自然なスピードのニュースや講義、まとまりのある会話を聞き取れる必要があります。また、話の流れや内容、登場人物の関係や内容の論理構成などを詳細に理解したり、要旨を把握したりする力も必要です。
以下は、言い換え類義に関する問題です。
【問題】
()の言葉に意味が近いものを1.2.3.4から一つ選びなさい。
このマニュアルの説明は(ややこしい)。
1.明確だ
2.奇妙だ
3.複雑だ
4.簡潔だ
このように、日本人でも少し難しく感じるような漢字を用いた問題が出されます。
最も難しいとされるN1については、「日本語能力試験N1の難易度は?外国人採用で求められる日本語レベル」でもわかりやすく解説しています。ぜひ、参考にしてみてください。
日常的な場面で使われる日本語を理解し、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解できるのがN2です。N2を有していれば、ビジネスレベルの日本語を習得していると判断されます。なお、JLPTのN2取得者を採用した場合、入社後の日本語研修を省略する企業も多いようです。
幅広い話題について書かれた新聞や雑誌記事などの分かりやすい文章を読んで、内容を理解できます。また、一般的な話題に関する読み物を読んで、話しの流れや表現の意図を理解する力があるのがN2レベルです。
日常的な場面で、やや自然に近いスピードのまとまりのある会話を聞き取れるレベルです。そのうえで、話の具体的な内容を登場人物の関係などとあわせてほぼ理解できる力も必要とされます。「やや自然に近い」「ほぼ理解できる」など、N1と比べると曖昧な表現が多くレベル感が分かりにくいと感じる人もいるでしょう。一般的には、N1は「通訳ができる」、N2は「日本語で話し合いができる」レベルといわれています。
以下は、文脈を読み相応しい単語を選び出す問題です。
【問題】
()に入れるのに最もよいものを1.2.3.4から一つ選びなさい。
日本人の平均()は、男性が79歳、女性が86歳である。
1.生命
2.寿命
3.人生
4.一生
一見、どれを当てはめても意味が通じそうな漢字ばかりです。日本語の語彙力がある程度なければ解けない問題でしょう。
「日本語能力試験とは?特徴やN2のビジネスレベル」では、外国人の採用を検討している企業へ向けて、日本語能力試験の概要や特徴をはじめ、雇用メリットなどを紹介しています。外国人の採用を検討中の企業は、ご一読ください。
N3は、日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できるレベルです。日本語能力試験の各レベルのちょうど中間で、N1~N2の応用的なレベルと、N4~N5の基礎的なレベルの橋渡しのような役割を果たします。以前は、一般企業の外国人採用の目安はN2以上からとされていました。しかし、N3
を取得していれば基本的な日本語能力を持ち合わせているので、マニュアルがあれば単独で業務を行えます。そのため、昨今ではコミュニケーションが業務の中心ではない理系職種でN3取得者を採用する動きが増えているようです。
日常的な話題について具体的に書かれた内容であれば、読んで理解できるレベルです。また、短い文章であれば情報の概要を掴めるでしょう。日常的な場面で出てくる難しい文章は、ほかの表現が与えられればおおよその内容を理解できます。ビジネスレベルまでは行かずとも、日常生活で使われる表現を読み取れる力が求められるレベルです。
日常会話を、やや自然に近いスピードで内容のまとまりのある会話であれば聞き取れます。そのうえで、話の具体的な内容を登場人物の関係もあわせてほぼ理解できるのがN3レベルです。
以下は、オノマトペに関する問題です。
【問題】
()に入れるのに最もよいものを1.2.3.4から一つ選びなさい。
()寝たので、気持ちがいい。
1.すっかり
2.ぐっすり
3.はっきり
4.ぴったり
擬音語や擬声語、擬態語などのオノマトペは、外国人にとって覚えるのが難しいといわれています。日本語は、ほかの言語と比較してオノマトペの種類が非常に多いという特徴があるためです。とはいえ、日常生活でよく用いられる表現なので、N3レベルであってもある程度使いこなせなくてはなりません。
N4は基本的な日本語を理解できるレベルです。そのため、日本語でのコミュニケーションを多く必要とする職種で、採用の目安とするのは難しいでしょう。ただし、日本語能力試験のN4取得は、在留資格「特定技能」の申請条件の一つです。特定技能の在留資格では、人手不足が深刻な産業分野において外国人の単純労働が許可されます。つまり、複雑なコミュニケーションを必要としない単純作業であれば、N4レベルでも問題なく従事できると考えて良いでしょう。
N4は、基本的な語彙や漢字を使った文章を理解できるレベルです。なお、日常生活のなかでも特に身近な話題について書かれた文章に限られます。
日常的な場面で、ややゆっくりと話される会話であれば内容がほぼ理解できるレベルです。日本人と同じスピードでのコミュニケーションのやり取りは難しいレベルといえるでしょう。
例文と同じ意味を持つ文章を選ぶ問題です。N4レベルから出題文の多くがひらがなになるうえ、単語の間に読みやすいようにスペースが入ります。また、出題文に漢字が出る際は読み仮名が振られるレベルです。
【問題】
()になにをいれますか。1.2.3.4からいちばんいいものをひとつえらんでください。
スーパーでもらった()を見ると、何を買ったかわかります。
1.レジ
2.レシート
3.おつり
4.さいふ
このように、漢字が出てきたとしてもごく簡単なものに限られます。
N5は日本語能力試験のなかで最も易しいレベルです。とはいえ、日常的な会話であればある程度コミュニケーションが取れます。工場のライン作業や清掃など、業務に会話が必要ない業種はN5を採用の目安とする場合も多いようです。また、職場内に外国人の母国語でコミュニケーションが取れる人がいる場合は、日本語能力はN5程度で良しとする企業もあります。
ひらがなやカタカナ、日常生活で用いられる基本的な漢字で書かれた文章を読んで理解できるレベルです。なお、定型的な語句や文、文章に限られます。
ゆっくり話される短い会話であれば、必要な情報を聞き取ることができます。ただし、教室や身の回りなど日常生活のなかでよく出会う場面に限られるでしょう。
N5レベルは日本語能力試験のなかで最も易しいレベルですが、以下のような長めの文章を読む問題も出題されます。
【問題】
つぎのぶんを読んで、しつもんにこたえてください。こたえは1.2.3.4からいちばんいいものを一つえらんでください。
先生がアンナさんに手紙を書きました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アンナさん
今週は仕事がたくさんあります。
土曜日と日曜日もいそがしいです。
来週の月曜に来てください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【質問】
先生はいつ時間がありますか。
1.今週
2.土曜日
3.日曜日
4.月曜日
以上のように最も易しいとされるN5でも、ある程度の語彙力や文脈を読む力が必要です。
参照元 日本語能力試験公式ウェブサイト「N1~N5:認定の目安」 日本語能力試験公式ウェブサイト「問題例に挑戦しよう」 日本語能力試験公式ウェブサイト「過去の試験のデータ」
ここでは、名称が似ている「日本語検定」「日本語能力試験(JPT)」「BJT日本語能力試験」について、紹介します。「日本語能力試験(JLPT)」との相違点を理解し、採用時の参考にしてください。
日本語検定は、日本語を使うすべての人が対象の試験です。日本語能力試験(JLPT)は、日本語を母語としない人が日本語能力を証明するために受験します。一方、日本語検定は日本語ネイティブの人が、日本語を正しく使えているかを確認する試験です。1級から7級まであり、最も難しい1級は社会人レベル、最も易しい7級は小学校の低~中学年レベルとされています。なお、受験に国籍は関係ないので、日本語検定を外国人が受験することもあるようです。日本語検定の上級レベルを取得している外国人は、相当の日本語能力を有していると考えられます。
日本語能力試験(JPT)はJLPTと正式名称が同じものの、異なる試験です。JPTは主に韓国で浸透しており、日本語が話せる人材を求める韓国企業が採用基準に用います。そのため、韓国出身者が受験するケースが多いようです。ただし、韓国だけではなく日本をはじめとしたアジア各国でも受験できます。JPTは無段階評価式で、JLPTに当てはめると以下のレベルに換算可能です。
・JPT:660点以上→JLPT:N1
・JPT:525点以上→JLPT:N2
・JPT:430点以上→JLPT:N3
・JPT:375点以上→JLPT:N4
・JPT:315点以上→JLPT:N5
JPTよりJLPTの方が規模が大きいものの、資格保有者の日本語能力に優劣が付くわけではありません。企業は、JPTとJLPTの互換性を把握し、自社に相応しい日本語能力を有している人材を採用しましょう。
BJTビジネス日本語能力テストは、日本語でのビジネス・コミュニケーションの能力を測るテストです。日本のビジネス社会で働こうとする人はもちろん、基礎的な日本語をマスターした人の次の目標としてもおすすめです。
「外国人対象の日本語能力試験とは?JLPT、EJU、BJTの違いを解説」や「日本語能力試験(JLPT)、ビジネス日本語能力テスト(BJT)、実用日本語検定 (J.TEST)の違いは?日本語能力のレベルを知りたい!」では、3つの日本語能力試験について紹介しています。雇用する企業側も、日本語能力試験の内容について詳しく知っておくべきでしょう。
日本語能力試験(JLPT)を採用に活かすコツは、あくまで参考までとし、レベルに捉われないことです。また、日本語をネイティブレベルで話せるからといって、業務の処理能力が高いとは限りません。企業としてどの技能を優先するかを明確にして、採用基準を設けましょう。
日本語能力試験のレベルは、あくまで参考程度に捉えるべきです。同じレベルのなかでも能力に差がある場合もあるでしょう。また、「試験を受ける時間がなかった」「体調不良で受けられなかった」などの理由で、本来の日本語能力よりも低いレベルしか所有していない外国人も居ます。レベルだけにこだわらず、実際に面接でコミュニケーションを取ったうえで感じた日本語能力で評価しましょう。
日本語能力と業務の遂行能力が比例しないことも、認識しておきましょう。円滑にコミュニケーションが取れれば、確かに仕事は進めやすくなります。しかし、職種によっては日本語能力よりもITスキルやクリエイティビティの方が重要です。日本語能力だけに注目して採用を進めると、行うべき業務に支障が出る場合もあります。コミュニケーションが業務の中心ではない場合は、基本的な日本語能力(N3レベル)を基準とし、業務スキルとの総合的な判断で採用を決めると良いでしょう。また、日本語能力だけでは意欲や人間性は測れません。日本語がつたなくても、「一緒に働きたい」「入社して欲しい」と思える人材は思い切って採用してみるのも一つの手です。外国人の日本語能力は、入社後のフォローで十分伸びる可能性があります。
日本語能力試験を採用に活かす際は、自社にとって必要な技能は何かをよく考えましょう。採用基準をN1やN2レベルとすれば、日本語能力が高い人材を採用しやすくなります。しかし、N1やN2レベル所有者を求める企業は多く、競争率が高くなりがちです。そのため、所有レベルだけに注視すると人材が集まりにくくなる可能性があります。自社にとって高レベルな日本語能力が必ずしも必要でない場合は、N1やN2レベルにこだわる必要はないでしょう。
日本語能力試験(JLPT)は、外国人の日本語能力を確かめるうえで非常に役立つ試験です。しかし、所有レベルだけでは測れないことも多くあります。外国人雇用を検討する企業は、N1~N5の日本語能力を理解したうえで、実際にコミュニケーションを取った結果と総合的に判断すると良いでしょう。