日本のおもてなしとは、相手に対して敬意を持ち、見返りを求めない心でもてなすことです。伝統文化である茶道から広がったといわれています。この記事では、日本のおもてなし文化の始まりや語源、特徴を解説。また、マナーやサービス、ホスピタリティとの違いについても紹介します。おもてなしは、日本独自の文化です。日常生活の中に何気なく取り入れられているおもてなしに触れてみましょう。
目次
日本のおもてなしとは何か?
おもてなしとは、相手が何を求めているかを想像し、行動に移すことです。日本独自の文化といわれています。似た言葉に「サービス」や「接客マナー」「ホスピタリティ」が挙げられますが、正確には同じではありません。
おもてなしは、相手のことをよく観察し、相手を思いやる日本人の気質や文化と密接しています。
ここでは、日本のおもてなしとは何かを解説します。
語源から見るおもてなしの心
「おもてなし」は動詞の「もてなす(持て成す)」を名詞化した言葉です。
もてなすとは、「自分が何かを相手にすることで、何かを成す」ということを意味しています。もてなしたい対象に対する想いをさまざまな形で表し、相手に喜んでもらうことが「おもてなし」の語源です。
また、「おもてなし=表裏なし」という言葉遊びも存在します。「表裏がない」は、表情や言葉(表に出るもの)と考えている内容(裏にあるもの)に食い違いがない状態を意味する言葉です。
つまり、「おもてなし」とは表裏のない心で相手をお迎えすることであり、心から相手に敬意を払い、思いやりを持って接している状態を意味します。
茶道の文化から始まったおもてなし
おもてなしの概念が生まれたのは平安時代~室町時代のことで、茶道の文化とともに広まったとされています。
茶道家の千利休は、弟子たちに茶道の基本的な作法や精神として、「利休七則」と呼ばれる教えを説きました。利休七則は、「相手の状況や気持ちを思い量りながら湯を沸かし、お互いが最も心地よいと感じられるよう相手に配慮する」や「常に心にゆとりを持ち、相手のために万全を尽くす」などの内容で、おもてなしの真髄を表現しているとされています。
また、千利休は「茶室での身分は対等の立場」という教えも説きました。武士も町人も百姓も同じ客人としてもてなすという、日本のおもてなしの文化の基盤といえるでしょう。
日本の茶道は、お茶の提供だけが目的ではありません。相手が喜ぶよう、茶道特有の茶室や道具、作法によって作られた最高の空間と時間も含めておもてなしとされています。
茶道における心の持ち方や姿勢、振る舞いをきっかけに始まったおもてなしは、その後さまざまな場面で行われるようになっていきました。
おもてなしの基盤となった利休七則や、茶道の文化やについては「茶道は日本の伝統文化!表千家と裏千家とは?流派の違いや歴史を知ろう」の記事で紹介しています。
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おもてなしの基本的な心構え
おもてなしは、表裏のない心で相手と接することです。どうすれば喜んでもらえるか、満足してもらえるかを常に考え、行動に移すことが「おもてなし」の真髄といえるでしょう。ここでは、日本のおもてなしに必要な心構えについて解説します。
相手の心に寄り添って考える
おもてなしは、相手がどのように感じるかを考えたうえで配慮することが重要です。
「自分は△△をしてあげたい」という想いを一方的に相手へ押し付ける行為は、おもてなしとはいえません。快適さや感動を与えるには、相手の立場に立ち、心に寄り添って考えることが肝心です。
対価を得ようとしない
おもてなしを行う上で、相手に対価は求めてはいけません。
相手を思いやる心や気持ちが日本のおもてなしの原点です。対価や見返りを求めない自発的な行動がおもてなしといえます。
また、費やした時間や行った努力を相手に見せません。相手に気を使わせてしまう可能性があるからです。相手に余計な気遣いをさせないようにすることも、おもてなしの本質でしょう。
相手や文化などを総合的に判断してもてなす
おもてなしは、相手の立場や文化、背景などを総合的に判断して行うことが重要です。
たとえば、寒い季節の飲食店で冷たい水の代わりに温かいお茶が提供されたり、旅館やレストランで様々な言語のメニューやアレルギー表を置いていたり、雨の日に百貨店で買い物をすると荷物に防水カバーをかけてくれたりするのも、おもてなしの精神といえます。
心のこもったおもてなしは、ロボットやAIにはできません。どの相手にも同じように対応することではなく、相手に応じて接することが大切といえます。
目配り・気配り・心配りを意識する
「目配り・気配り・心配り」は、おもてなしの本質です。
目配りは、自分のことだけでなく周囲にも注意を払い、いろんなところへ目を向けることをいいます。相手を思いやり、相手が次にどのような行動をするのかを察知し、行動することが気配りです。心配りは、相手の立場になって考えて行動することを意味します。
また、相手の想像を超えた気配りも必要な要素です。相手がどんなことを求めているのか、何をしたら喜んでもらえるか、相手のために考えることが、おもてなしにつながります。
日本特有のマナーや礼儀については「日本特有のマナーとは?食事や日常生活、ビジネスシーンの礼儀・作法を紹介」や「日本のマナーを外国人にも分かりやすく解説!観光で役立つ場面別に紹介」にまとめています。
おもてなしと似た言葉と意味の違いは?
おもてなしと似た「マナー」や「サービス」「ホスピタリティ」という言葉があります。ここでは、それぞれの言葉の違いについて解説します。
マナーとは
マナーとは、人間関係において最低限守るべき道徳や行儀です。義務的なものであり、人に不快感を与えないために作られた最低限のルールのことを意味します。
一方、おもてなしには決まった形式がありません。おもてなしをするかどうかはもてなす側の気持ち次第です。
サービスとは
サービスは、受けるときに対価が発生するのが特徴です。サービスは日本語で奉仕・従事と翻訳され、お客様を主体として接客を行うという意味があります。
また、サービスは求めているすべての人が利用できる点も、おもてなしとは異なる部分です。
ホスピタリティとは
ホスピタリティに主従関係はありません。提供する側と提供される側が対等な関係を保ちつつ、いたわりの気持ちを持って自発的に行動するのがホスピタリティの特徴です。また、おもてなしと同様に対価は発生しません。
相手がいるときに行うホスピタリティと異なり、おもてなしは、相手が存在しないときにも心を配ります。
今すぐできる3つのおもてなし
おもてなしの基本は、どうすれば相手が喜んでくれるのか考えることです。決まったルールはなく、相手の立場や状況を考えて、臨機応変に対応することが大切でしょう。誰でもすぐできる3つのおもてなしを紹介します。
笑顔
笑顔はおもてなしの基本です。
笑顔は、相手に安心感を与え、親しみやすい印象を与えます。笑顔を作るポイントは「口角を上げて目尻を下げる」です。緊張していたり恥ずかしがっていたりすると自然な笑顔は作れません。笑顔が苦手な人は、楽しいことを思い浮かべると自然と笑顔になるでしょう。
挨拶
心のこもった挨拶は、相手に好意的な印象を与えることができます。挨拶をするとお互いの緊張をほぐせるので、緊張するときほどはっきり丁寧に挨拶することが重要です。また、簡単な挨拶にも「今日は暑くなりそうですね」「お気をつけて行ってらっしゃい」など、一言付け加えると相手との距離を縮めることができます。
名前を呼ぶ
特別感や親近感を感じる方法の一つが「名前を呼ぶこと」です。承認欲求を満たす方法ともいわれています。相手を「お客さま」ではなく「△△さま」といったように名前で呼ぶと、相手は尊重されているように感じ、親近感が湧きやすくなるのでおすすめです。
日本語には様々な種類の挨拶があります。詳しくは「日本語のいろいろな挨拶を知りたい!覚えておくと便利なフレーズも紹介」「日本語であいさつをしよう!状況別に使い方を紹介」にまとめています。
日本のおもてなしを感じられる場所と具体例
日本独自の文化であるおもてなし。日本には、あらゆる場所におもてなしがちりばめられています。ここでは、日本のおもてなしを感じられる場所と具体例を紹介します。
茶道
茶道は、決められた伝統的作法に則って抹茶を点(た)て、客人にふるまう行為です。
単にお茶を楽しむだけではありません。点前作法や庭や茶室などの空間、茶道具などの工芸品、季節に合わせた和菓子など、あらゆる要素で相手をもてなすことを大切にしています。
旅館やホテル
日本の旅館やホテルといった宿泊施設は、おもてなしを感じられる場所の代表格です。
たとえば、提供される料理は季節に合った食材を選び、美味しく食べられるように配慮されています。また、綺麗に清掃されている部屋からも、おもてなしの気持ちを感じられるでしょう。テーブルや備品の配置も、「お客さまが心地良く過ごせるように」という、従業員の細かい心遣いがあります。
料亭やレストランなどの飲食店
料亭やレストランなどの飲食店は、接客態度の良さや分かりやすいメニューなど、日本独自のおもてなしを感じられます。
料亭では、美味しい料理や美しい食器、飾られた四季折々の花などからも、おもてなしの気持ちを感じられるでしょう。
高級店でないレストランでも、おもてなしを受けられます。入店するとすぐに店員が席まで案内してくれ、手を拭くためのおしぼりや無料の水が提供されるところがほとんどです。ほかにも、飲食店によっては、メニューに料理の写真が載っていたり、店頭に食品サンプルを置いていたり、他言語のメニュー表を置いていたりする場合も。誰でも分かりやすく、注文しやすい工夫をしていることも、日本のおもてなしの一つです。
デパート
日本のデパートでも、おもてなしを感じられます。代表的なのは従業員による出迎えや見送りです。
入店の際は「いらっしゃいませ」という言葉で出迎えられ、商品を購入すれば「ありがとうございました」と言って店外まで見送ってもらえます。
駅・電車
電車の中やホームが綺麗な点も、日本のおもてなしの一つといえます。電車がホームに停車しているわずかな時間に、隅から隅まで清掃する従業員の技術と心遣いは日本ならではでしょう。また、電車が時刻表通りに運行している点も、おもてなしの精神から来ています。
日本には、おもてなしを目的とした観光列車もあります。旅や食事を楽しむと同時に、日本のおもてなしを電車の中で体験したい方におすすめです。
空港・飛行機
日本の空港や航空会社は、日本のおもてなし文化を感じられる場所です。
たとえば、手荷物検査場では、壊れ物がないかスタッフが丁寧に確認をしたり、短時間で乗り換えが必要な際に優先手続きゲートに案内したり、空港や機内の清掃が行き届いていたりと日本ならではのきめ細かなおもてなしを感じられるでしょう。
おもてなし以外の伝統や文化、習慣については「日本の伝統文化を一覧で紹介!継承への取り組みとは」「茶道・華道・書道って何?日本の伝統芸能について知ろう」にまとめています。
まとめ
日本のおもてなしとは、表裏のない心で、相手を気遣い察することで、日本独自の文化といわれています。サービスやマナー、ホスピタリティとは異なり、対価を求めず、相手がその場にいないときにも心を配るのが特徴です。
日本には、おもてなしを感じられる場所がたくさんあります。ぜひ、日本のおもてなしの魅力や文化に目を向けてみましょう。