季語とは、手紙の冒頭の挨拶文や俳句に使われる特定の季節を表す言葉です。夏の季語には真っ青な海や白い波、太陽が輝く空など、鮮やかな情景を思い浮かべるような美しい言葉が多くあります。
この記事では、美しい夏の季語や意味、その季語を使った俳句を紹介しています。日本の夏の情景を思い浮かべながら、繊細で奥深い日本語の表現にふれてみてください。
目次
季語とは
季語とは、俳句や手紙のあいさつ文に使われる特定の季節を表す言葉です。特定の季節に見られる草花や虫、現象などを表す言葉が季語として定められています。季節ごとに多彩な季語があるのが特徴です。
夏の季語を使う時期は?
夏の季語を使うのは、「三夏(さんか)」と呼ばれる5~7月です。
俳句の世界では二十四節気に基づいて四季を区分しており、「5月6日頃の立夏から8月8日頃の立秋の前日まで」が夏とされています。
夏の季語を使った俳句
夏の季語を使った有名な俳句とその作者、使われている季語は以下のとおりです。
- 「ずんずんと 夏を流すや 最上川」(作者は正岡子規、季語は夏)
- 「明易や 花鳥諷詠 南無阿弥陀」(作者は高浜虚子、季語は明易)
- 「涼しさや 投げ出す足に 月の影」(作者は定雅、季語は涼し)
- 「夏草や 兵どもが 夢の中」(作者は松尾芭蕉、季語は夏草)
- 「夏の雲 朝からだるう 見えにけり」(作者は小林一茶、季語は夏の雲)
上記以外にも、夏の季語を使った俳句は多数あります。いろいろな俳句を知って、季語や日本の文化、日本語に対する理解を深めましょう。
「外国人にも人気のある俳句とは?英語で詠むHAIKUのルールも解説」の記事で、俳句について詳しく解説しています。
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夏を通して使われる美しい季語
夏を通して使われる季語には、夜や海などの自然を表した言葉が多いのが特徴です。
ここでは、初夏から夏の終わりまで夏全体で使われる美しい季語を紹介します。
夏の宵(なつのよい)
「日が暮れてからそれほど時間が経っていないころ」を意味する季語です。
「宵」は、夜の初めの時間帯である18時から21時ごろを指します。「夏の宵」は、日が落ちて日中の暑さが収まりくつろげるようになった時間帯です。夜風や夜空とともに、涼しさを連想させる美しい夏の季語といえるでしょう。
同じような意味がある季語に「宵の夏(よいのなつ)」があります。
夏の波(なつのなみ)
夏の強い日差しのもと、海岸に押し寄せる波のことです。
強い日差しを浴びて真っ白に輝く大きな波は、生命力や爽やかさを連想させます。
夏の季語には、太陽の光を浴びてきらきらと輝く海を意味する「夏の海(なつのうみ)」もあります。「夏の浜(なつのはま)」「夏の潮(なつのうしお)」などもあり、海に関連した夏の季語は多いといえるでしょう。
夏の暁(なつのあかつき)
「空が白んでくる午前4時から5時ころの早朝」を意味します。
「暁」とは、夜明け前の薄暗さを表す言葉です。夏は夜明けが早く、美しい朝焼けを見れる日も多いでしょう。少しずつ外を明るく照らしていく美しい情景が思い浮かぶ季語です。
雲の峰(くものみね)
入道雲が林立する様子を表しています。
入道雲は夏によく見ることができる雲です。夏の暑い日差しに照らされ、暖められた地表付近の空気が上昇することでできます。
雲の峰は、青空と白い入道雲とのコントラストを想像する美しい季語といえるでしょう。
青嵐(あおあらし)
新緑のころに吹く風を指します。
夏の美しい緑の葉の上を吹き渡る風を嵐にたとえて、「青嵐」と名付けられたとされています。青葉をしっかり揺らすような少し強めの風のことで、穏やかな風のことではありません。力強くもあり、爽やかな風を思い浮かべる季語です。「あおあらし」のほかに、「せいらん」とも読みます。
夏の季語には天候を表す季語が多くあります。日本の気候の特徴は「日本の気候や天気の特徴とは?各季節の注意すべきポイントも解説」で解説しています。
5月に使われる美しい夏の季語
5月は、暦の上では夏です。気候が安定し、過ごしやすい時期といえます。暖かな日差しに照らされた新緑が輝き、爽やかな風を感じるような季語が多く使われるのが特徴です。ここでは、5月に使われる美しい季語とその季語が使われている俳句をまとめています。
夏めく(なつめく)
「夏が近づいている様子」を意味する初夏の季語です。
穏やかな春が過ぎると、日に日に気温が上がり夏が近づいてきます。「夏めく」は、強くなっていく日差しや濃くなっていく木々の緑といった、春から夏への季節の変化を感じさせる美しい季語です。
俳句:夏めくや 合わせ鏡に 走る虹(作者は久米三汀)
風薫る(かぜかおる)
「若葉や花の香りがするような爽やかな初夏の風」を意味します。
穏やかな風が草花を揺らし、若葉や花の香りが漂っている様子を表現した季語です。肌に当たる風や晴れた空、草花の鮮やかな色を連想させる美しい季語といえるでしょう。「風薫る」と同じ意味の季語に「薫風(くんぷう)」があります。
俳句:風薫る 鹿島の杉は 剣なす(作者は川端茅舍)
卯波(うなみ)
「卯の花が咲くころに立つ波のこと」です。
卯はウツギの花の別名で、枝先いっぱいに群がるように純白の花を咲かせます。新緑の中でひときわ目立つ美しい花です。卯の花が咲く旧暦の4月を「卯月」といい、この時期の波のことを意味します。波と花を掛け合わせた美しい季語といえるでしょう。
俳句:江の島の 裏はるかなる 卯波かな(作者は長谷川櫂)
麦の秋(むぎのあき)
麦の穂が成熟する5月から6月ごろを指す季語です。
「秋」は、「穀物が成熟する季節」を意味しています。「麦の秋」は、麦畑一面が黄金色に染まった風景を表している美しい季語です。
俳句:麦秋や 子を負いながら 鰯売り(作者は小林一茶)
5月は端午の節句があります。子どもの成長を祝う日です。意味や過ごし方については「節句とはどんな日?初節句の風習や行事の意味について理解しよう」「日本の年中行事や伝統行事を一覧で解説!特別な日の風習や行事食とは?」にまとめています。
6月に使われる美しい夏の季語
6月は梅雨が始まる時期です。俳句においては、夏の半ばを意味する「仲夏」と呼ばれます。仲夏は、降りしきる雨や短くなっていく夜を表した季語が多いのが特徴です。ここでは、6月に使われる美しい季語とその俳句を紹介します。
短夜(みじかよ)
「短い夏の夜」の意味がある夏の季語で、「たんや」とも読みます。
1年のうちで1番昼が長く、夜が短い日である夏至(げし)を表す際にも使われる言葉です。暗闇や静けさといった夏の夜の様子とともに、すぐに過ぎる時間の儚さを感じさせる美しい季語といえます。
俳句:短夜や 浪打際の 捨篝(すてかがり)(作者:与謝蕪村)
白夜(はくや)
夜になっても暗くならない現象を意味する言葉です。
夜中になっても薄明になっているか、または太陽が沈んでも暗くならない「白夜」。主に緯度の高い北極などの地域で起こり、日本では完全な白夜は起こりません。しかし、夏の夜の短さを表現する言葉として、「白夜」が使われます。なお、俳句に使う際は「はくや」と読みますが、一般的な読み方は「びゃくや」です。
俳句:菩提樹の 並木あかるき 白夜かな(作者:久保田万太郎)
青梅雨(あおつゆ)
「梅雨の季節に降る、草木の葉をより色鮮やかに見せる雨」を意味する夏の季語です。雨に濡れて青々とした草木や、葉についてきらきらと輝く雨粒を連想させる美しい季語といえます。
なお、「梅雨」は「6月ごろに降る長雨」を意味する言葉です。梅雨に関連する季語には、梅雨に入る日を意味する「入梅(にゅうばい)」もあります。
俳句:青梅雨や 花魁山も 皿山も(作者:夏井いつき)
梅雨の月(つゆのつき)
梅雨の夜に見つけた月のことです。
梅雨の夜空に思いがけずに見ることができた月のことを、「梅雨の月」と表現します。雲の切れ間から優しい光をのぞかせたり、ぼんやりとした光を放つ月の様子を表した美しい季語です。
俳句:暈といふ 美しきもの 梅雨の月(作者:鷹羽狩行)
6月は梅雨を迎えます。日本の梅雨や雨の呼び方などについては「梅雨とは?分かりやすく簡単に解説!過ごし方を知って四季を楽しもう」「雨の種類の名前を知りたい方向け!かっこいい言葉や美しい表現とは?」にまとめています。
7月に使われる美しい夏の季語
7月はいよいよ夏本番を迎えます。7月は俳句において夏の終盤を意味する「晩夏」と呼ばれる時期です。晩夏は初秋に向かっていく季節であり、夏の暑さや涼しさを求める季語が多く使われているのが特徴です。ここでは、7月に使われる美しい季語とその季語を使った俳句を紹介します。
小暑(しょうしょ)
7月7日ころを意味する夏の季語です。
「小さな暑さ」という字が表しているように、梅雨が明けて段々と暑くなる時期を表します。蝉の鳴き声も聞こえ始めるころでしょう。暑さに備えて生活の準備や心構えをする人々が目に浮かぶような季語です。なお、暑さが本格的になる7月23日ごろを指す「大暑(たいしょ)」という夏の季語もあります。
俳句:一本の 細書キを購ふ 小暑かな(作者:勝又一透)
三伏(さんぷく)
暑さが最も厳しい、夏の盛りを意味する季語です。
中国から伝わった思想である「陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)」が元となっており、7月中旬から8月上旬までの期間を表しています。「夏の暑さが厳しくて秋の気配が負ける」との意味があり、手紙の挨拶文にも使われる言葉です。
俳句:三伏の 闇はるかより 露のこゑ(作者:飯田龍太)
涼風(すずかぜ)
夏の終わりころに吹く涼しい風を意味します。
毎日暑いと思っていた夏も過ぎていき、ふとした瞬間に涼しい風が吹くときがあります。夏の盛りの湿気を帯びた風とは異なる爽やかさに、秋の気配を感じるでしょう。
夏の終わりを感じさせる少し儚げな様子とともに、新たな季節の訪れを予感させる季語です。
俳句:涼風や ほの三日月の 羽黒山(作者:松尾芭蕉)
雲海(うんかい)
足元一面に広がる雲が海のように広がっていることを指します。
雲海は夏以外でも見ることができますが、夏の季語です。夏の青い空と敷き詰められた雲が思い浮かぶ美しい季語といえます。
俳句:雲海に 人のわれらの ときめぐり(作者:石橋辰之助)
朝曇(あさぐもり)
夏の朝方に靄(もや)がかかり空が曇って見える様子を表した季語です。
「旱の朝曇」といい、暑くなる日の朝は靄がかかって曇ることが多くあります。これは陸風と海風が入れ代る早朝に、前日の強い日差しで蒸発した水蒸気が冷えるためです。緑に彩られた山や真っ青な海に靄がかかっている、美しい様子が思い浮かぶ夏の季語といえます。
俳句:朝曇 隈なく晴れぬ 小鮎釣(作者:河東碧梧桐)
旱星(ひでりぼし)
雨の無い、ひでり続きの夜に見える星のことです。
夏の日照りを象徴する星で、火星やアンタレスなどの赤い星を指します。昔は天の川沿いにあるアンタレスがひときわ輝くと、豊作になるといわれていたようです。
俳句:水ゆれて 猫の渡りし 旱星(作者: 柚木紀子)
朝凪(あさなぎ)・夕凪(ゆうなぎ)
朝凪は、夏の朝に、海に近い地域で一時的に風が止む現象です。陸から海に吹いていた風の向きが逆になる際に現れる現象で、陸と海の温度の差によって起こるとされています。
「朝凪」と対になる言葉が「夕凪」です。海から陸に吹いていた風の向きが逆になる夕方に、一時的に無風状態になる現象を指します。
両方とも晩夏の季語です。「朝凪」と「夕凪」は静かな美しい海を連想させる夏の季語といえるでしょう。
俳句:朝凪と いへども波は 寄せてをり(作者:平井照敏)
7月には七夕があります。七夕の過ごし方については「七夕は短冊に願い事を書こう!行事の由来や飾りが持つ意味を紹介」にまとめています。
まとめ
季語とは、俳句や手紙に使われる季節を表すための言葉です。夏の季語には青い海や白い波、真っ青な空、雨などを自然を表す言葉が多くあり、色鮮やかで美しい風景を想像させます。また、暑さに耐え忍びながらも、涼しさや夜の美しさを感じる季語が多いのも特徴です。美しい夏の季語を知ることで、日本語の表現の奥深さを感じてください。