季語とは、俳句や手紙のあいさつ文に使われる特定の季節を表す言葉です。秋を通して使われる季語には、澄んだ空や静かな浜、月の出る様子を意味する言葉があります。秋の始まり・半ば・終わりに使われる季語は、いずれもその時期に見られる植物や現象を表しており、繊細な季節感を感じられるでしょう。目には見えない風や寒さを意味する季語があるのも特徴です。奥深くて美しい秋の季語に関する知識を深めましょう。
目次
季語とはどのような言葉?
季語とは、俳句や改まった手紙の冒頭に入れられる春夏秋冬のいずれかを表す言葉のことです。特定の季節に見られる草花や虫、現象などを表す言葉が季語として定められています。季節ごとに多彩な季語があり、さらに一つの言葉にさまざまな変化形があるのが特徴です。同じ意味の言葉のうち、代表的な季語を親季語、変化形を子季語と呼び、子季語も俳句や手紙に使えます。
なお、季語には季節を通して使われる言葉とより短い期間のみ使われる言葉があります。季語は月の動きをもとにした旧暦に沿っており、現代の季節感とは1ヶ月ほどのずれがあるので使用する際は注意しましょう。
旧暦と新暦の違いについては、「和風月名の一覧を外国人向けに紹介!意味や由来と併せてチェック!」のコラムでは詳しく解説しているので、ぜひご覧ください。
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秋を通して使える季語一覧
秋を通して使える季語には、空や風、浜を表す美しい言葉があります。これらの季語は、8月8日から11月6日ごろまで使用が可能です。以下では、秋の季語とその言葉が使われている俳句を紹介します。
秋高し
「秋高し(あきたかし)」は、大気が澄んで高く感じられる空を意味する秋の季語です。秋の空の特徴を表した美しい季語といえます。
【俳句】
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「痩馬のあはれ機嫌や秋高し」作者:村上鬼城(むらかみきじょう)、出典『定本鬼城句集』
子季語は、「天高し」「空高し」「秋高(あきだか)」です。
秋風
「秋風(あきかぜ)」とは秋に吹く風を意味する季語です。秋の初めに吹く風は夏の暑さの名残を感じさせますが、やがて爽やかになり晩秋には冷たくなります。さまざまな秋の風を連想させる季語といえるでしょう。
【俳句】
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「秋風や眼中のもの皆俳句」作者:高浜虚子(たかはまきょし)、出典『五百句』
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「あかあかと日は難面も秋の風」作者:松尾芭蕉(まつおばしょう)、出典『奥の細道』
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「石山の石より白し秋の風」作者:松尾芭蕉、出典『奥の細道』
子季語には、「秋の風」「白風」「金風」「風爽か(かぜさやか)」などがあります。
秋の浜
「秋の浜」は、夏が過ぎて人気がなくなった静かな浜辺を表す季語です。穏やかな風景を連想させる一方で、寂しさも感じさせる季語といえます。
【俳句】
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「秋の浜夢中であるく海辺まで」作者:大平保子、出典『いろり』
子季語は、「秋の浜辺」「浜の秋」「秋渚(あきなぎさ)」「秋汀(しゅうてい)」です。
秋の蝶
「秋の蝶(あきのちょう)」とは、8月8日を過ぎてから飛んでいる蝶を意味する季語です。秋に見かける蝶は、春や夏と比べて元気がなく弱々しい様子をしています。物悲しさを感じさせる秋の季語です。
【俳句】
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「のらくらもよい程にせよ秋の蝶」作者:小林一茶(こばやしいっさ)、出典『七番日記』
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「山中や何をたのみに秋の蝶」作者:蝶夢(ちょうむ)、出典『三夜の月の記』
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「薬園の花にかりねや秋の蝶」作者:各務支考(かがみしこう)、出典『梟日記(ふくろうにっき)』
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「あきの蝶日の有るうちに消えうせる」作者:久村暁台(くむらきょうたい)、出典『暁台日記』
子季語には、「秋蝶」「老蝶(おいちょう)」があります。
月代
「月代(つきしろ)」は、月が昇る前に東の空が少しずつ明るくなっていく様子を表している秋の季語です。月の出を待っている人々の思いも表現しています。
【俳句】
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「涼しさや笠へ月代そり落し」作者:小林一茶、出典『七番日記』
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「月代や膝に手を置く宵の宿」作者:松尾芭蕉、出典『笈日記(おいにっき)』
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「月しろやむかしに近き須磨の浦」作者:上島鬼貫(うえじまおにつら)、出典:『花見車』
子季語は、「月白」です。
赤蜻蛉
成長して真っ赤になった「赤蜻蛉(あかとんぼ)」は、秋の季語です。初夏に羽化した蜻蛉は山に移動し、秋の初めに成虫となって産卵のために再び平野に下りてきます。真っ赤になった蜻蛉を見て秋を感じることから、「赤蜻蛉」は秋の季語になりました。
【俳句】
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「生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉」作者:夏目漱石(なつめそうせき)、出典『漱石句集』
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「染めあへぬ尾のゆかしさよ赤蜻蛉」作者:与謝蕪村(よさぶそん)、出典『落日庵句集』
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「赤蜻蛉飛ぶや平家のちりぢりに」作者:正岡子規(まさおかしき)、出典『子規句集』
子季語には、「のしめ蜻蛉」「猩々蜻蛉(しょうじょうとんぼ)」「姫茜」「秋茜」などがあります。
流れ星
夏から冬にかけてよく見られる「流れ星」は、秋の季語です。「流れ星」は宇宙のちりが大気と衝突して高温になり発光する現象で、明かりが少ない場所ではまるで星が降るような美しい光景が見られます。
【俳句】
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「大空の青艶にして流れ星」作者:高浜虚子、出典『七百五十句』
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「星飛ぶや寝ねし我家へ帰りつく」作者:篠原温亭(しのはらおんてい)、出典『温亭句集』
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「飛び消ゆる菊の夜露やよばひ星」作者:雛屋立圃(ひなやりゅうほ)、出典『一宇幽蘭集』
子季語は、「流星」「星飛ぶ」「星流る(ほしながる)」です。
「外国人にも人気のある俳句とは?英語で詠むHAIKUのルールも解説」のコラムでも秋の季語を紹介しているので、ぜひご覧ください。秋以外の季語を知りたい方には、「夏の美しい季語を知りたい!爽やかさや涼しさを表現する言葉には何がある?」のコラムがおすすめです。
初秋に使える季語一覧
初秋とは秋の初めのことで、8月8日から9月7日ごろまでを指す言葉です。初秋に使える季語には、花・星のほか、涼しさを意味する言葉があります。
新涼
「新涼(しんりょう)」とは、秋の初めに感じる涼しさのことをいいます。「涼しく過ごしやすい季節になってきた」という意味のある季語です。
【俳句】
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「新涼やはらりと取れし本の帯」作者:長谷川櫂(はせがわかい)、出典『虚空』
子季語には、「新たに涼し」「初めて涼し」「秋涼し」「秋涼(しゅうりょう)」などがあります。なお、単に「涼し」だと、夏の季語なので使う際には注意が必要です。
朝顔
夜明けに花が開き、昼には萎む植物の「朝顔」は初秋の季語です。現代では夏のイメージが強いといえますが、古くは秋の訪れを告げる花でした。
【俳句】
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「朝顔は酒盛知らぬさかりかな」作者:松尾芭蕉、出典『笈日記』
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「朝顔の垣や上野の山かつら」作者:正岡子規、出典『子規句集』
子季語は、「西洋朝顔」「牽牛花(けんぎゅうか)」です。
天の川
「天の川」は川のように見える星の群れで、初秋の季語として使われます。現代では夏を連想させる言葉であるため、間違って使わないようにしましょう。
【俳句】
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「木曾山へ流れ入れけり天の川」作者:小林一茶、出典『一茶発句集』
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「荒海や佐渡に横たふ天の川」作者:松尾芭蕉、出典『奥の細道』
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「水学も乗物かさんあまの川」作者:松尾芭蕉、出典『江戸広小路』
子季語には、「銀河」「星河」「銀漢(ぎんかん)」「銀浪(ぎんろう)」などがあります。
「天の川」については、「七夕は短冊に願い事を書こう!行事の由来や飾りが持つ意味を紹介」のコラムでも紹介しています。
仲秋に使える季語一覧
仲秋は秋の半ばを示す言葉で、該当する期間は9月8日から10月7日ごろまでです。仲秋に使える季語には、花の名前や旧暦の月名、月の呼び方を意味する言葉などがあります。
コスモス
ピンクや白、黄色といった鮮やかな花を咲かせる「コスモス」は、仲秋の季語です。コスモスの多くが9月から10月に見ごろを迎えるので、現代人の感覚でも使いやすい季語といえるでしょう。
【俳句】
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「コスモスくらし雲の中ゆく月の暈」作者:杉田久女(すぎたひさじょ)、出典『杉田久女句集』
子季語は「おおはるしゃぎく」です。桜に似ている花弁から生まれた「秋桜(こすもす)」という言葉も、仲秋の季語として使われます。
葉月
「葉月(はづき)」とは、旧暦の8月のことです。現代では夏を連想させる言葉ですが、仲秋の季語なので使う季節を間違わないようにしましょう。
【俳句】
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「二度目には月ともいはぬ葉月かな」作者:小林一茶、出典『九番日記』
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「八月や潮のさばきの山かづら」作者:向井去来(むかいきょらい)、出典『渡鳥集』
子季語には、「月見月」「草津月(くさつづき)」「秋風月(あきかぜづき)」「萩月(はぎづき)」などがあります。
十六夜
「十六夜(いざよい)」は旧暦の8月16日の月やその夜を意味する言葉で、仲秋の季語です。音の響きがかっこいい季語といえるでしょう。満月よりも少し欠けている十六夜の月は、人々に趣やわびさびを感じさせます。
【俳句】
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「十六夜や海老煎るほどの宵の闇」作者:松尾芭蕉、出典『笈日記』
子季語は、「十六夜月」「十六夜の月」「いざよふ月」「既望(きぼう)」です。
「日本の年中行事や伝統行事を一覧で解説!特別な日の風習や行事食とは?」のコラムでは、「十五夜」について紹介しています。わびさびについては、「わびさびの意味を簡単に解説!日本人でも説明しにくい独特な美意識の概念」のコラムで解説しているので、ぜひご覧ください。
晩秋に使える季語一覧
秋の終わりである晩秋は、10月8日から11月6日ごろまでを指します。晩秋に使える季語は、深まる秋や寒さを連想させるのが特徴です。
うそ寒
「うそ寒(うそさむ)」は、秋の半ばから終わりかけての少し寒い感じを意味する季語です。「うそ」は程度が少ないという意味の「薄ら(うすら)」からきています。
【俳句】
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「うそ寒や親といふ字を知つてから」作者:小林一茶、出典『七番日記』
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「うそ寒や黒髪へりて枕ぐせ」作者:杉田久女、出典『杉田久女句集』
子季語は、「うすら寒」「薄寒(うすさむ)」です。
冬隣
「冬隣(ふゆとなり)」は、冬が近づいていることを表す晩秋の季語です。朝晩の冷え込みや厳しくなっていく寒さを連想させる季語といえるでしょう。秋という言葉を使わず冬と隣り合う季節と表している点が奥深く、かっこいい季語といえます。
【俳句】
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「あかあかと麹のいのち冬隣」作者:長谷川櫂、出典『天球』
子季語には、「冬隣る(ふゆとなる)」「冬を隣る」「冬近し」「冬を待つ」があります。
紅葉
「紅葉(もみじ)」は、落葉広葉樹の葉の色が赤や黄色に色付く現象や色が変わった葉自体を指す言葉です。「紅葉」は秋の風物詩としてすぐに連想しやすいため、使いやすい季語といえます。
【俳句】
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「山くれて紅葉の朱をうばひけり」作者:与謝蕪村、出典『蕪村遺稿』
子季語には、「もみぢ葉」「紅葉川(もみじがわ)」「紅葉山(もみじやま)」「色葉(いろは)」などがあります。
まとめ
季語とは、俳句や手紙に使われる季節を表すための言葉です。秋を通して使われる季語には、穏やかに晴れた空や爽やかな風の様子を表す言葉があります。また、月の出る様子や瞬く星に関係する言葉もあり、美しい言葉が多いのが特徴です。
限られた時期に使われる秋の季語には、季節が深まる様子や冬の近づく気配を感じさせる言葉があります。秋の季語を知り、日本語の表現の豊かさや季節に関する繊細な感性を感じてみてください。