日本の伝統模様とは、着物や手ぬぐい、陶器などに使われる日本らしい柄のことです。古くから伝わる模様で、「和柄」とも呼ばれ、身の回りの品物や場所など至る所で目にすることができます。
この記事では、歴史や特徴、使われている場所・物について紹介。また、縁起が良いとされる伝統模様や意味についても解説しています。日本の伝統模様は、歴史や伝統行事と深く密接している後世に伝えるべき文化です。由来を知って、人々がそれぞれの模様に込めた願いや思いに触れてみましょう。
目次
日本の伝統模様について
日本の伝統模様は歴史や伝統行事と繋がりが深く、古くから衣服や住宅、食器などに用いられてきました。モチーフとなるのは、植物や動物、自然の風景など多種多様です。そして、模様には意味や願いが込められているものが多くあります。
伝統模様とは
伝統模様とは、古くから伝わるデザインのことです。日本では、織物や工芸品、家具などに用いられ、和柄とも呼ばれます。
「模様」と似た言葉に「文様(もんよう)」と「紋様(もんよう)」がありますが、それぞれニュアンスが異なる言葉です。
「文様」は、食器や着物、衣類などの表面に装飾された図形を意味します。文様にはさまざまな種類があり、多くは同じ図柄を反復的に繰り返した図柄です。
「紋様」は、あるものの表面に施された図形を意味しています。例えば、織物や染物のあしらわれた紋章や家紋などが「紋様」です。
日本の伝統模様の歴史
日本の模様の歴史は縄文時代に作られた土器に描かれたものが始まりといわれています。
縄文時代の土器には貝殻や縄などを使ってさまざまな模様が描かれていました。その後、飛鳥・奈良時代に中国や朝鮮から伝わった模様(伝説に出てくる鳳凰や龍など)が普及し、平安時代以降には日本独自の伝統模様が生まれたとされています。
貴族の間で、扇(おうぎ)や藤(ふじ)の花など身の回りの品や身近な自然をモチーフにした模様が広まり、江戸時代になると、四角形が並んだ「市松模様(いちまつもよう)」が歌舞伎(かぶき)の衣装に用いられるようになりました。
日本の伝統模様は、日本の文化とともに発展し、現代でも受け継がれてきたといえるでしょう。
日本の建築物の多くにも伝統模様は使われています。有名な建物については「日本建築の特徴とは?歴史や有名な建物も紹介」にまとめています。
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日本の伝統模様が使われている物・場所
日本の伝統模様は、神社仏閣や着物などにも用いられてきました。現代においても、食器や旅館・ホテルの装飾、マンホールなど日本のいたるところで伝統模様を見ることができます。普段何気なく使用している物にも、伝統模様があしらわれている可能性もあるでしょう。
ここでは、日本の伝統模様が使われている場所や物を解説します。
神社仏閣
日本の神社仏閣には、屋根や扉の装飾、ふすまの絵柄などにさまざまな伝統模様が使われています。
たとえば、寺院の屋根に見られるのが「飛雲(ひうん)」といわれる伝統模様です。縁起が良いとされる雲が飛ぶ様子を示しています。「青海波(せいかいは)」と呼ばれる模様は、ふすまに多く用いられています。どこまでも続く穏やかな波を模しており、永く続く幸せや平和な暮らしの象徴です。
ほかにも、菱型模様の「菱(ひし)」や、三角形を並べた模様の「鱗(うろこ)」は、畳の縁(へり)によく見られます。
京都にある正寿院の窓は、伝統模様「猪目(いのめ)」の形です。「猪目」には、災いを除き福を招くという意味が込められており、多くの神社仏閣で使用されています。ハートに似た形をした猪目窓からは四季折々の風景を見られ、多くの観光客が訪れる場所です。
参照元 正寿院「猪目窓」
枯山水
枯山水(かれさんすい)は、日本庭園に使われる様式を指します。水を使わずに石や砂、植物、地形を利用して水の流れを表現するのが特徴です。白い砂に描かれた線は「砂紋(さもん)」と呼ばれ、伝統模様である「青海波」や「渦」などを用いて水辺の景色を表現します。
京都の龍安寺(りゅうあんじ)にある枯山水は有名です。砂に大小15個の石が配置されていますが、どの位置から眺めても石が14個しか見えないように配置されています。「侘び寂び」の精神に基づいて造られたといわれ、美しい枯山水を見ることができる場所です。
食器
日本の伝統模様は、日常的に使われる茶碗や湯呑、皿にも用いられています。食器に使われる伝統文様は、「青海波(せいがいは)」や「梅」などです。「青海波」は、陶磁器で作られた茶碗や湯呑、皿によく見られます。また、「梅」は陶磁器はもちろん、木でできた漆器にもよく描かれる伝統文様です。梅はまだ寒い春の初めに咲くため、忍耐強さの象徴とされる縁起の良い柄とされています。
縁起の良い伝統模様がデザインされた食器は、慶事の席やお祝い事の贈呈品としても選ばれる品物です。
手ぬぐい・ふろしき
「波千鳥(なみちどり)」「市松模様」などの伝統模様は、手ぬぐいやふろしきによく使われています。「波千鳥」の模様は、波と鳥の群れを組み合わせてできた柄です。「世間の荒波をともに乗り越えていく」との意味があり、夫婦円満や家内安全を象徴しています。
「市松模様」には、色の異なる四角形が途切れずに描かれた柄です。子孫繁栄の意味が込められており、手ぬぐいやふろしきなどの日用品にも用いられてきました。
着物
着物には日本の伝統模様が多く使われています。着物に使われる伝統模様は「松竹梅(しょうちくばい)」や「橘(たちばな)」です。「松竹梅」はおめでたい席で着る着物の柄によく使われてきました。また、「橘」は、ハート型の果実と花葉が描かれた柄で、日本由来の文様といわれています。古来から長寿や子孫繁栄をもたらす植物とされていて、成人のお祝いで着る振袖に使われる柄です。
ほかにも、着物に使用されるのは、数多くの宝物を描いた「宝尽くし」や繁栄を象徴する「扇子」などがあります。
日本の伝統衣装である着物の歴史や特徴については「日本の着物に興味がある外国人に向けて歴史や種類を解説!」「日本の伝統衣装の魅力を紹介!歴史や着物の種類などを解説」にまとめています。
縁起の良い日本の伝統模様と意味
日本では、花や雲、水などの自然をかたどったり抽象化したりすることで、多種多様な伝統模様が作られてきました。なかでも、繁栄や長寿を表した「吉祥文様(きっしょうもんよう)」は、縁起が良い柄として、さまざまな物に使われています。伝統模様には人々の願いや思いが込められているのが特徴です。
ここでは、縁起の良い伝統模様と意味について解説します。
長寿
長寿は、古来から多くの人が祈る願い事の一つです。
亀甲(きっこう)
「亀甲」は、正六角形の幾何学模様です。その形が長寿の象徴の生き物「亀」の甲羅の模様に似ていることから長寿の願いを込めて、古くから着物や食器などに使われています。
亀甲模様にはさまざまな種類の派生模様があり、六角形をつなぎ合わせた亀甲繋(つな)ぎや、亀甲を三つ繋ぎ合わせた毘沙門亀甲(びしゃもんきっこう)、六角形の中に花弁をあしらった亀甲花菱(きっこうはなびし)などが有名です。
また、亀甲模様は、神社の神紋としても多く用いられていて、出雲大社の紋にもなっています。
紗綾形(さやがた)
「紗綾形」は、仏教やヒンドゥー教で幸運や吉兆を意味する「卍(まんじ)」を斜めに崩した模様です。「不断長久(ふだんちょうきょう)」を表し、絶えることなく長く続くという意味から長寿や繁栄のシンボルになっています。紗綾という絹織物の地文に使われてきたので、この名前が付いたようです。
ほかにも「卍」が漢数字の「万」が元になったといわれ、大きな数を表す卍がどこまでも繋がる様子から縁起が良い柄とされています。
唐草(からくさ)
「唐草」は、植物の蔦(つた)が曲線で絡まり合うように描かれた柄です。生命力の強い蔦がどこまでも続くことから「長寿」や「繁栄」という意味を持つ縁起の良い模様とされてきました。
「唐草」という植物は存在せず、ギリシア神殿の遺跡に描かれた草の模様が、シルクロードや中国を経て日本に伝わったといわれています。
江戸時代に唐草模様が流行し、唐草模様の風呂敷は嫁入り道具や贈答品を運ぶのに使われていました。また、緑地に白の「唐草模様」が描かれた風呂敷は、祭りで獅子舞のかぶり物として使われる馴染み深いアイテムです。
子孫繁栄・子どもの成長
子孫繁栄や子どもの成長は、現代と変わらず、古来から続く人々の願いといえるでしょう。植物や宝をモチーフとした伝統模様に、子どもの健やかな成長に関する願いが込められています。
菱(ひし)
4本の斜線によって囲まれた菱形は、水生植物のヒシの葉や実をモチーフとした柄です。ヒシは繁殖力が強いため、子孫繁栄や無病息災、子どもの成長などの願いが込められています。
菱にはさまざまな派生模様があり、菱形を4つ組み合わせた「割菱(わりびし)」や花の形を描いた「花菱(はなびし)」などがあり、古くから家紋にも使用されている模様です。
麻の葉(あさのは)
「麻の葉」は、いくつもの三角を組み合わせています。生命力の強い麻の葉をかたどり、麻がまっすぐに大きく伸びることから、成長と健康を願って子どもの産着や着物に多く用いられてきました。
また、平安時代には仏像の装飾にも麻の葉模様が用いられています。現代でも、日用品はもちろん、襖(ふすま)や壁紙などの住宅の装飾にも用いられる模様です。
七宝(しっぽう)
「七宝」は、同じ大きさの円の重なりからできています。円が重なった部分は花弁のように、円の中央部分は星のように見える模様です。円が連続して繋がることから、子孫の繁栄やご縁、円満などを象徴した縁起の良い模様といわれています。
古代エジプトや中国でも古くから存在した模様で、日本では平安時代に「輪違い」という名前の有職文様として、平安貴族の衣装や調度品などに用いられました。
模様につけられた名前の由来は、仏教用語の「七宝」です。七つの宝である、金・銀・水晶・瑠璃(るり)・瑪瑙(めのう)・珊瑚(さんご)・しゃこ貝を指しています。
名前の由来や有職文様に使われたことから、格式の高い伝統文様といえるでしょう。
五穀豊穣
五穀豊穣とは、農作物が豊作になることを指します。日本の伝統行事には、五穀豊穣を祈るイベントがたくさんあり、昔から人々は強く願ってきました。五穀豊穣を願う伝統模様には、自然をモチーフとしたものが多いのが特徴です。
桜(さくら)
日本を代表する花である「桜」をモチーフにした伝統模様は、着物や家具、日用品など幅広く使われています。「桜」は、満開に咲く様子が由来となった「繁栄」や「豊かさ」のほか、桜の咲き方によってその年の穀物の実りを占っていたことから「五穀豊穣」の意味がある模様です。
代表的な「桜散らし」は、桜の花が全体に描かれています。ほかには、「桜」と水の流れを組み合わせた「桜川」や、楓(かえで)を一緒に描いた「桜楓(おうふう)」は代表的な模様です。
雪輪(ゆきわ)
「雪輪」は、雪の結晶をモチーフにした丸い花のような模様をしています。小さなくぼみが幾つかあるのが特徴で、大粒の雪を表現した模様ですたくさん雪が降った年は作物が豊かに実ることから、豊穣の象徴とされてきました。
冬に使われるイメージが強い雪輪ですが、夏の浴衣の柄にも使用される模様です。
雲(くも)
「雲」は雨を呼ぶことから「実り」や「豊穣」を表します。また、万物は雲から形成されたとされ、空に漂う雲は良いことの起きる兆しといい伝えられていました。
歴史は古く、奈良時代から使われ、絵巻などにもよく描かれている柄です。派生した模様も多くあり、例としては横一文字の「一文字雲」や、雲を呼ぶ竜を組み合わせた「龍雲文」などです。
魔除け・厄除け
古来から人々は魔除けや厄除けの行事や風習を大切にしてきました。伝統模様の中には、魔除け・厄除けの願いを込めたものもあります。
籠目(かごめ)
「籠目」は、網目状の図柄です。竹で籠(かご)を編んだ網目模様に見えることから「籠目」と呼ばれています。網目の星状の形は邪気を払う力があるとされ、魔除けの印として使われてきました。
籠目模様には、葦や柳、水鳥などの水辺の動植物と組み合わせた柄が多く使用されているのが特徴です。
日本では玄関先に竹籠が魔除けとして掛けられていて、現代でも伊勢神宮周辺の籠目模様が刻まれた石灯籠が設置されています。
鱗(うろこ)
「鱗」は、魚や蛇の鱗の形に似た三角形を並べた模様です。鱗は身を守るためのものであることから、魔除けの意味が込められています。
三角形を3つ合わせた「三つ鱗」と呼ばれる模様は、鎌倉時代の武士である北条家の家紋として使われてきました。また、室町時代以降は能装束や陣羽織に使用され、能や歌舞伎では鬼女や蛇の化身の衣装に使われてきた模様です。
流水(りゅうすい)
「流水」は、水が流れる様子を線で描いています。流れる水は濁らず常に清らかであることや、苦難や災厄を流し去ることから、「魔除け」や「清らかさ」の意味を持つ縁起の良い模様です。
流水模様の一つである「観世水(かんぜみず)」は、流水が渦を巻いた様子を表現していて、能や歌舞伎の衣装や小物にも使われています。
能や歌舞伎は日本の伝統芸能です。魅力や特徴については「日本の伝統文化といえば何がある?継承への取り組みについても解説」、「日本の伝統芸能の種類を一覧で紹介!海外にも伝わる魅力とは」に紹介しています。
まとめ
日本の伝統模様は、歴史や伝統行事と繋がりが深く、神社仏閣や着物、住宅、食器など身の回りの場所や物に用いられてきました。それぞれの模様は、縁起をかついだり、幸せへの願いが込められたりしています。
日本の伝統文様の魅力は、見た目の美しさと込められた思いにあるといえるでしょう。