お正月を日本で過ごす外国人に向け、お正月の伝統的な習慣や料理について解説します。お正月飾りを飾ったり、おせち料理を食べたりするお正月ならではの習慣は、いずれも願いや祈りが込められた伝統的な文化です。
このコラムでお正月の行事や習慣を知って、新年のおめでたい雰囲気を感じるとともに、日本文化への理解を深めましょう。
目次
お正月って?
本来「お正月」は、1月の別名で、新年を迎える月のことを指します。しかし、現在は正月行事を行う期間のことを「お正月」と呼ぶことが多く、三が日(1月1日~1月3日)や松の内(~1月7日)、小正月(1月15日)の期間を指している場合がほとんどです。
お正月といえば、今でこそ「家族で集まって新しい年を祝う行事」として広く認識されていますが、本来は「年神さまを自宅にお迎えする行事」です。年神さまは「正月さま」「歳徳神(としとくじん)」とも呼ばれており、新年に家々を訪れ、五穀豊穣や家の繁栄をもたらすとされてきました。正月飾りを飾ったり、年末に大掃除をしたりする年末年始の習慣は、年神さまをお迎えするための行事です。
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お正月前の準備・習慣
日本人は、お正月を迎えるにあたって、12月末から準備を始めます。それぞれの習慣にどのような意味が込められているのかチェックして、新年を迎える準備を進めましょう。
大掃除をする
大掃除は、年末に、日頃の掃除では手入れの行き届かないところまで念入りに掃除する習慣です。「隅々までキレイになった家で新年を迎えられる」という気持ちの面でのメリットがあるほか、大掃除には伝統的な由来も存在します。
年末に行う大掃除の由来とされているのが「煤払い(すすはらい)」という習わしです。煤払いには、屋内を掃除して一年の汚れや厄を払い清め、年神さまを迎える準備をするという意味が込められています。もともとは江戸城で12月13日に行われていた煤払いが民衆に広まり、年末の大掃除に変化しました。これに由来し、現在も大掃除は12月13日~28日の間に行うのが一般的です。なお、煤払いから正月準備が始まることから、12月13日は「正月迎え」「事始め(ことはじめ)」と呼ばれます。
年賀状を送る
年賀状は、新年を祝う挨拶状です。お世話になっている人に感謝の気持を込めて新年の挨拶を送ります。日本には昔から、目上の人やお世話になった人に挨拶して回る「年始のあいさつ回り」という習慣があり、これを遠方の人に行うために、年賀状を送るようになりました。年賀状はもともと1月になってから送るものでしたが、現在は1月1日に着くよう12月中に送るのが一般的です。ただし、年末はたくさんの年賀状で郵便局が忙しくなるので、1月1日ぴったりに年賀状を届けたい人は、概ね12月25日くらいまでに早めに出しておきましょう。なお、昨今は年賀状の代わりにメールやSNSで挨拶を済ますことも増えています。
除夜の鐘を聞く
除夜の鐘は、大晦日の夜にお寺の鐘を108回撞く日本仏教の行事です。12月31日の23時ごろに鐘を撞きはじめ、大晦日のうちに107回を、新年になってから1回を撞きます。108回という数字の由来は諸説ありますが、「仏教における108個の煩悩を鐘を撞くことで払う」というのが一般的です。寺院のなかには一般の人が除夜の鐘を撞けるところもあり、人気の寺院は事前予約や整理券が必要な場合もあります。なお、鐘を撞く回数は108回と決まっているわけではなく、200回以上撞く寺院もあります。
年越しそばを食べる
年越しそばは、大晦日の年越し前に縁起を担いで食べる蕎麦のことです。江戸時代に定着した文化とされており、「細く長いそばで寿命や家運が伸びることを祈る」「切れやすいそばを食べて1年の災厄を断ち切る」といった願いを込めてそばを食べます。一年を平穏に過ごせるようにという思いと、そばの特徴を重ね合わせた縁起担ぎなのです。なお、年が変わる前に食べ終わらないと縁起が悪いとされているので、除夜の鐘が鳴るころには片付け終わるよう余裕をもって食べ始めましょう。
お正月飾りを飾る
お正月飾りといえば、「門松」「しめ縄」「鏡餅」の3つがメジャーです。お正月の雰囲気を演出するこれらの飾りにも意味や由来があるのでチェックしてみましょう。
門松
門松は、年神さまをお迎えする目印として玄関先に左右一対で飾る竹や松でできた正月飾りです。松は古来より神々が宿る木とされており、もともとは松だけを飾っていましたが、室町時代に入り、長寿の象徴である竹も一緒に飾られるようになりました。
なお、竹の先端は、斜めに切った「そぎ」と水平に切った「寸胴(ずんどう)」の2種類があります。もともと寸胴しかありませんでしたが、徳川家康が生涯唯一の負け戦となった「三方ヶ原の戦い」のあと、戦相手だった武田信玄を「竹」に見立てて斜めに削ぎ落としたことで、門松が斜めに切られるようになったとされています。現在は斜めに切る「そぎ」の門松が主流です。
しめ縄
しめ縄飾りは、神聖な領域と現世を隔てる結界の役目を持っています。不浄なものが入らないようにすることで、自分の家が年神さまを迎えるのにふさわしい神聖な場所であることを示しているのです。また、しめ縄飾りはしめ縄のほかに以下のような縁起物の飾りをします。
紙垂(かみしで):神さまの降臨を表す紙の飾り
裏白(うらじろ):裏側が白いシダ植物の葉で、後ろめたいことがないことを表している
橙(だいだい):一本の木に果物がたくさん実る様子から、代々(だいだい)栄えることを願うもの
譲り葉(ゆずりは):新しい葉が開くと古い葉が垂れ下がるユズリハの葉で子孫繁栄を願う
鏡餅
お正月飾りの代表ともいえる鏡餅は、年神さまが宿る依代として家の中に飾るものです。鏡餅は神さまが宿る場所となるので、家族が集まる場所や神棚、仏壇、玄関など大切な場所に飾りましょう。なお、年神さまが宿った鏡餅を家長が「御年魂」として家族に分け、それを食べて新年の幸せや健康を祈ったのが、現在の「お年玉」の由来とされています。
お正月飾りを飾る期間
お正月飾りは、大掃除を済ませてから、12月30日までには飾るようにしましょう。なお、29日と31日は縁起が悪いので避けましょう。29日は「二重苦(にじゅうく)」や「苦松(苦待つ)」「苦餅(苦持ち)」に通じる、31日は急ごしらえの「一夜飾り」で誠意に欠けるとされています。
お正月の行事・習慣
ここでは、お正月の伝統的な行事や習慣について紹介します。お正月の過ごし方をチェックして、新しい気持ちで新年を迎えられるようになりましょう。
初日の出を見に行く
初日の出(はつひので)は、1月1日の朝(元旦)の日の出のことです。古来より初日の出は年神さまの来訪を象徴する、めでたいものと考えられてきました。そのため、初日の出を拝むことには、新年の幸せや豊作を祈る意味が込められているのです。現在も、初日の出を見に行く際は、願い事を祈ったり、新年の決意表明をしたりします。なお、初日の出を拝む風習は、天皇陛下が元旦に天地・四方・山陵を拝礼する「四方拝(しほうはい)」が、庶民の間に広まったものとされるのが一般的です。
また、初日の出に似た言葉に「ご来光」というものもあります。ご来光は、高い山や山頂から望む日の出のことで、見るとご利益があるとされているものです。もともとは「御来迎(ごらいごう)」と書き、山頂近くの雲に映った自分の影が、光の輪を背負った仏の像に見えることをいいました。
初詣に行く
初詣(はつもうで)は、新年を迎えてはじめて神社やお寺に行き、その年の幸せや健康を祈願することです。初詣の由来は、「年籠り(としごもり)」という風習だとされています。年籠りは村や家の長が大晦日の夜から元日の朝まで、氏神さまのいる神社にこもって徹夜で祈る風習です。この年籠りが、大晦日の「除夜詣」と元日の「元日詣」に分かれたのち、元日のお参りだけが残ったと考えられています。江戸時代には「恵方詣」とも呼ばれ、その年の神さまがいる方角の社寺にお参りしていましたが、現在は恵方にこだわらず、好きな社寺や思い入れのある社寺にお参りするのが一般的です。なお、初詣に行くべき期間は、松の内までとされることが多いですが、明確な決まりはありません。都合の良い日に参拝しましょう。
お年玉をあげる・もらう
お年玉は、新年を祝って大人が子どもにあげるお金のことです。通常、お金をそのまま渡すことはせず、ポチ袋という袋にお金を入れて、袋に名前を書いて渡します。お年玉を誰に渡すかの線引きはありませんが、自分の子どもや親戚の子ども、姪・甥、従兄弟くらいまで渡すのが一般的です。お年玉の金額の相場は、渡す相手によって異なります。お年玉は、もともと家長が鏡餅を分け与えたことが由来です。時代の変化で餅をつくことが少なくなり、鏡餅の代わりにお金を配るようになったとされています。
お正月の食べ物
ここでは、お正月の伝統的な食べ物について紹介します。どれも縁起を担いだおめでたい食べ物なので、お正月にはぜひ食べてみましょう。
おせち料理
お正月料理の代表ともいえるのが、おせち料理です。もともと年間の節目となる年間行事を節句(節供)といい、そのとき神さまに「御節供(おせちく)」という料理をお供えする風習がありました。それが、特に重要な年間行事である正月の料理を指すようになり、「おせち料理」として残ったとされています。おせち料理の特徴は、縁起物を使った料理が多いところです。たとえば、紅白かまぼこは日の出、昆布巻きは「喜ぶ」という言葉、栗きんとんは黄金色に輝く財宝に関連付けられています。おせち料理は、年神さまにお供えした縁起の良い食べ物を、家族で分かち合うものなのです。なお、おせち料理に保存食が多い理由は諸説あり、かまどの神さまに休んでもらうため、日頃忙しい女性にゆっくり過ごしてもらうためといった説があります。
お屠蘇
お屠蘇(とそ)は、お正月に飲む特別なお酒です。本来のお屠蘇は生薬を浸した薬草酒ですが、現在は日本酒をお屠蘇代わりに飲むこともあります。お屠蘇は、年少者から年長者へと順番に飲むのがマナーです。厄年の人は厄を払う力を分けてもらうため、最後に飲みます。なお、子どもや妊婦などお酒を飲めない人は、形式的に飲んだふりをするだけでもかまいません。お屠蘇の由来は、古代中国で厄除けのために生薬を調合してお酒に浸して飲んだのが始まりとされています。現在は、ドラッグストアなどでお屠蘇を作れる材料が売られており、「屠蘇散」や「屠蘇」という名前で見つけることができるでしょう。
お雑煮
お雑煮は、年神さまにお供えしたお餅をいただくための料理です。年神さまが宿ったお餅を食べることで「新しい年を健康に過ごせるように」という願いが込められています。もともとは、年神さまにお供えしたお餅や野菜を、その年はじめて汲んだ「若水」に入れ、新年最初に起こした火で調理したのが由来です。なお、お雑煮の作り方や具材は、地域だけでなく家庭ごとに異なるため、味の違いに驚くこともあるでしょう。
七草粥
七草粥は、1月7日に無病息災を祈って食べる料理です。七草粥は、もともとは1月7日の「人日の節句」に食べる行事食でした。古代中国では、元日から7日まで一日ずつ「トリ・イヌ・イノシシ・ヒツジ・ウシ・ウマ・人」を当てはめて占いをしており、7日目にあたる人の日には若菜を入れた汁物を食べて無病息災を願っていたのです。これが奈良時代に日本に伝わり、年初に若菜を食べて生命力を高める「若菜摘み」や、7種の穀物で作る「七種粥」といった風習と結びつき、現在の七草粥になったとされています。なお、七草粥に使うのは「せり・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ」という春の七草です。春の七草には、冬に不足しがちな栄養を補ったり、お正月の食べ過ぎ飲み過ぎで弱った胃腸をいたわったりする効果もあるとされています。
まとめ
日本のお正月ならではの伝統的な風習や食べ物を紹介しました。どの風習にも、新年の幸せや健康を祈る人々の願いが込められています。お正月料理を食べたり、お正月飾りを飾ったりして、お正月のおめでたい雰囲気を楽しむとともに、縁起担ぎをしてみてはいかがでしょう。