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2024年6月、改正出入国在留管理局法案が可決され、技能実習制度の廃止と育成就労制度の創設が決定しました。今後、2027年度を目途に制度が整えられていく予定です。在留資格「特定技能」での外国人受け入れにも関係してくる制度なので、外国人雇用を考えている企業は内容をチェックしておきましょう。
この記事では、育成就労になることで何がどう変わるのか、企業側にはどんな影響があるのかを、専門行政書士が分かりやすく解説します。
目次
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従来の技能実習制度には様々な問題点がありました。たびたびニュースで取り上げられているので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。技能実習制度の問題点は、国際社会における日本の闇として何度か映画の題材にもなっています。
特に大きな原因となったのは以下の点です。
技能実習制度の本来の目的は、発展途上国の若者らに日本の優れた技能や技術を教え、母国の発展に寄与してもらうこと。すなわち国際貢献です。
しかし、技能実習生を安価な労働力として扱っている現場があるのが実情です。雇用先によっては、3年間、全く同じ作業しか担当させてもらえなかったという実習生もいます。
ある縫製工場では、技能実習生がタオルだけを作る単純作業をしているのにも関わらず、「誰かに仕事内容を聞かれたら婦人服や靴下も作っていると答えなさい」と指導されていたことが問題になりました。将来のある若い技能実習生の数年間を食いつぶし、嘘をつくように指示することは国際貢献とはいえません。
技能実習制度の目的は、日本の企業が持つ優れた技能を発展途上国の外国人人に伝え、彼らがそれを母国に持ち帰って活かしてもらうことです。そのため、技能実習終了後は、母国に戻り、学んだことを生かせる仕事に従事することが大原則といえます。
しかし、技能実習生が母国に帰国後、技能実習で学んだ技能に関連する仕事につくケースは、非常にまれなのが現状。大半の実習生が、母国に帰国後、技能実習とは全く異なる仕事に就いています。具体的には、母国の日系企業に就職したり、母国で日本人向けにガイドをしたり、土産物屋で働いたりといったケースが多いようです。
実際、筆者が、中国やベトナム、ミャンマー、フィリピンを訪れた際に現地ガイドをしてくれた人は、全員が元技能実習生でした。
また、地方出身者の場合、母国に戻っても、都市部に行かない限り学んだことを活かす職場がないという課題もあります。技能実習制度の目的は、外国人側にとっても実態に即していないといえるのです。
技能実習生の日本語力の低さが各方面で問題となっています。技能実習制度では、(一部の職種を除き)在留資格を取得するための要件に明確な日本語能力の基準が存在せず、来日前に日本語をどれくらい勉強するかは送り出し機関に一任されている状態です。
育成就労制度では、就労前にA1以上の日本語能力(JLPT N5相当)を習得していることが義務付けられます。最低限のコミュニケーションが可能なレベルではありますが、スタートラインが明確化されることで、就労開始後の育成計画が立てやすくなるでしょう。
大半の技能実習生は、お金を稼ぐために日本に来るのにも関わらず、母国の送り出し機関に借金をしなければなりません。
通常、技能実習生は来日する前に、現地国の送り出し機関において6ヶ月程度の日本語研修の受講が必要です。その研修費用やその他の雑費として、日本円にして数十万円の費用を支払っています。
たとえばベトナムの場合、研修費用の相場は60万円前後です。日本とベトナムでは通貨の価値に差があるので、日本人の感覚からすれば、120万~150万円ほどを負担していることになります。
20才前後の若者が捻出するのは難しい金額なので、多くの技能実習生は借金をするしかありません。技能実習生のためにお金を貸し出す専門業者もあります。
このような高額の借金を背負って日本に来るにもかかわらず、次に説明する「転職・転籍ができない」制度があるせいで、受け入れ先が悪質な会社だった場合のリスクが非常に大きいという問題がありました。
現行の技能実習制度では、原則3年間同じ職場で勤務することが求められています。技能を習得するためには、同じ会社でじっくり腰を据えて学ぶ必要性があると考えられているためです。
しかし、このルールによって、実習先でハラスメントや賃金未払いなどがあっても簡単には転職ができません。その結果、実習先から姿を消す技能実習生が後を絶たず、2023年だけでも9000人以上の技能実習生が失踪しました。
技能実習制度については国際社会からも厳しい指摘を受けています。
2014年11月、国連機関である自由権規約人権委員会(UnitedNationsHumanRightsCommittee)の総括所見によると、「奴隷、隷属、人身取引の撤廃の項目」として、技能実習制度について「労働搾取目的の人身取引、強制労働が存続している」という勧告がなされています。つまり、「現代の奴隷労働」と指摘を受けたのです。
日本政府もこのことを重く捉え、監理体制を強化したり問題のある実習先や監理団体に指導をしたりしてきました。しかし、抜本的な改革が必要ということで、技能実習法の大幅改正となりました。
※記事内では分かりやすく説明するために「法改正」という表現を使っていますが、正確には「出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律」が新たに公布された形です。
それでは、育成就労制度に変わることで、雇用企業にはどのような影響があるのでしょうか。技能実習制度と比較しながら解説します。
以下は、技能実習制度と特定技能制度の違いをまとめた表です。
技能実習制度 |
育成就労制度 |
|
制度の目的 |
国際貢献 |
人材育成 |
対象業種 |
90職種165作業 |
16職種 |
在留資格 |
技能実習(1号・2号・3号) |
育成就労 |
日本語要件 |
原則なし(介護はJLPT N4) |
日本語能力A1相当以上 |
転籍・転職の可否 |
不可 |
条件付きで可能 |
分野ごとの上限人数 |
上限なし |
上限あり |
監理監督する機関 |
監理団体 |
監理支援機関 |
ひとつずつ、詳しくみていきましょう。
最も重要な変更点は「制度の目的」です。
技能実習も育成就労も外国人を育成する制度である点に変わりはありませんが、その目的は「技術を母国に持ち帰ってもらうこと」から「日本で継続して働いてくれる人材を育てること」に変わります。
この変更により、企業は人手不足への対抗策として外国人材を受け入れられるようになるとともに、外国人側も日本で長く働く選択肢を選びやすくなります。
育成就労制度の目的(出入国管理庁「令和6年入管法等改正について」より)
育成就労制度の受入れ分野において、我が国での3年間の就労を通じて特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保すること
より正確に述べると、育成就労制度の目的は特定技能1号水準の人材を育成することとされています。
特定技能制度は人材不足の産業分野で即戦力となる外国人を雇用するための現行制度であり、外国人が特定技能の在留資格を取得するためには、原則として職種ごとに定められた試験に合格する必要があります。
育成就労制度では、この試験をパスできるだけの知識と能力を外国人材に身に着けてもらうことが目標となるわけです。
そのため、次の項目で説明するように、育成就労で受け入れ可能な職種は特定技能と同じ16分野に変更されます。
参照元 出入国在留管理庁「改正法の概要(育成就労制度の創設等)」
前述したとおり、育成就労制度の目的は特定技能1号水準の技能を有する人材を育成することです。そのため、原則として育成就労の職種・分野は特定技能1号と同じ16分野になる予定です。
しかし、それでは対象から外れてしまう職種があります。対象から外れてしまう企業にとっては深刻な問題といえるでしょう。
現時点で、これらの職種の措置については未定ですが、新たな特定産業分野を設置することも含めて対策が検討されています。
関連記事:「外国人労働者が多い職種ランキング!在留資格ごとの解説も」
従来の技能実習制度では、技能実習生の在留資格は「技能実習1号」「技能実習2号」「技能実習3号」の3種類に分かれていました。一方、育成就労では「育成就労」という1つの在留資格のみです。
なお、名称だけでなく在留期間も変更になります。技能実習制度では、3号まで移行することで最長5年間の就労が可能でした。育成就労制度では最長3年間が原則となります。
在留期間の修了後は特定技能に移行すれば引き続き日本で働くことが可能です。
従来の技能実習制度では、転籍・転職は禁止されていました。頻繫に転職していては技能が身に付きにくいという考えが根底にあったためです。
しかし、転職禁止というルールは、劣悪な労働環境であってもやめられない、どうしても耐えられない場合は失踪するしかないという悪循環の原因になっていました。
育成就労制度に変わることで、条件付きではありますが、転職が可能となります。その基本条件は以下です。詳細なルールについては、2025年頃に発表される予定です。
やむをえない事情がある
同一分野での転職である
一定期間(1~2年)勤続していること
一定レベルの技能水準を満たしていること(技能試験等で判断)
転籍先が適正な育成就労を実施できること
育成就労制度では、特定技能と同じく、産業分野ごとの受け入れ人数に上限が設定されます。
たとえば、2024年8月時点の特定技能の上限人数は工業製品製造業分野が17万3300人、建設業分野が8万人です。
育成就労制度においても、同様に上限人数が定められます。なお、分野ごとの上限人数は、国内労働市場の動向や経済情勢等の変化に応じて適切に変更できるとされています。
制度運用の面でも見直しがありました。重要なポイントとしては、監理監督する機関が「監理団体」から「監理支援機関」に変更されます。
単なる名称変更ではなく、監理支援機関になるための要件は管理団体より厳格です。現在は監理団体として認められていたとしても、新しい要件を満たしていないと判断された場合は許可が取り消され活動できません。
現在、全国には約3000社の監理団体がありますが、育成就労制度に移行するとより適正な監理が求められるようになります。監理団体も選ばれる時代が来るといえるでしょう。
技能実習制度から育成就労制度への移行スケジュールは下図のようになっています。
引用:出入国在留管理庁「育成就労制度の概要」
2024年6月に、技能実習制度に関する法律が改正・公布されました。2024年から2025年にかけて基本方針や主務法令等が作成され、それらをもとに分野別運用方針(実務上の細かいルール)が作られます。2027年ごろには、改正法が施行される予定です。
改正法が施行された後でも一定期間の経過措置があります。たとえば、法改正の施行日前にすでに技能実習生として入国している場合です。このケースでは、施行日後にも技能実習を行うことが可能であり、一定の要件を満たせば、最長3年間の技能実習を行うことができます。
なお、この際は技能実習制度のルールが適用され、技能実習から育成就労に在留資格を変更することはできません。
ほかにも、特例的な経過措置が用意される予定です。必要に応じて最新の情報を確認するようにしてください。
「技能実習が育成就労になるとどう変わるのか?」という疑問について、受入企業側の観点から解説してきました。制度目的が変わることで、細かい部分がいろいろと変更される予定です。受入企業側にとってポイントになるのは、転籍が可能になる点ではないでしょうか。
転籍が可能になるということは、企業側も選ばれるようになるということ。外国人から選ばれる企業になるためにできることはたくさんあります。
WeXpatsBizでは、外国人雇用に関して現場で役立つ記事をたくさん掲載しています。ぜひ参考にしてください。
監修:濵川恭一
外国人専門の人材ビジネス会社勤務を経て、外国人のビザ専門行政書士事務所を設立。専門分野は、就労ビザ申請、外国人採用コンサルティング。著書に、「これ1冊でまるわかり!必ず成功する外国人雇用」、「実務家のための100の実践事例でわかる入管手続き」等がある。 http://svisa.net